【オーストラリアを知るための58章】
越智 道雄 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4750331198/
○この本を一言で表すと?
文化方面に集中したあまり初心者向けでないオーストラリア解説本
○この本を読んで面白かった点
・これ一冊で「オーストラリアがわかる」とは言えない本ですが、オーストラリアがどういう国なのか、旅行に行った人や向こうに滞在した人の話とはかなり違った部分が見えてきました。
国土が広く、場所によって気候や主な民族まで変わり、国土の割に人口が少ないために移民ですぐに人口構成が変わるところなども「これがオーストラリア」というのを掴みにくくする要因かなと思いました。
Ⅰ 政治
・政治の仕組みについて書かれた本でたまに出てくる「順位指定連記投票制」をオーストラリアが導入していることは初めて知りました。
結果が出るまで数日かかる投票制度というのはなかなか導入が大変そうで、よほど「一票の重み」を重視しない限り導入は難しいのだろうなと思いました。
・オーストラリアがイギリス王家を上に抱く国ということは別の本で知りましたが、何度もそれを変えようとし、挫折して今に至るということは初めて知りました。
第一次世界大戦で人口500万人のなかから41万6000人が兵役に志願したというのは地理的に自国にはあまり関係がないような戦争に対してすごい割合だなと思いました。
Ⅱ 経済
・経済の部としつつも半分以上がルパート・マードックの話でしたが、「フェイスブック 若き天才の野望」など、いろんな本に登場する人物の背景がわかって面白かったです。マードックの子供時代の厳しい育てられ方は徳川慶喜を思い起こさせます。
・採掘権の話で、アボリジニの権利を尊重して採掘権を行使できないというところは、インドネシアなどで地域住民の弾圧までして採掘をしていたことからすると、かなりの人権意識の高さだなと思いました。
・後の部でも何度も出てくるジョーゼフ・グトニクが鉱山王として成長すると同時にユダヤ教ハシド派にハマるというのも面白い話だと思いました。
Ⅲ ブッシュ・カルチャー
・オーストラリアの奥地アウトバックの話はスケールが大きいなと思いました。人間だけでなく他の生物もまばらな地域の静寂は本当にすごそうです。
その地で車が故障したときの著者の恐怖もよく分かる気がします。
Ⅳ ビーチ・カルチャー
・「ビーチ」「グレートバリアリーフ」というのは良く知らなくてもオーストラリアと言われると思い浮かびそうですが、そのイメージの裏で海難救助隊が発展してそれ自体もスポーツになったというのは、この本全体で出てくるオーストラリアのイメージらしいなと思いました。
Ⅴ スポーツ・カルチャー
・クリケットがサッカーの次に世界で普及しているスポーツだということは知っていましたが、ルールがネットで調べても良く分からなかったことがありました。
この本で何となくイメージが掴めたような気がします。
・「オーストラリアやニュージーランドはとにかくラグビーが熱い!」とニュージーランドで働いている友人に聞いたことがありましたが、この本の記述でその熱さが伝わってきたような気がしました。
Ⅵ 民族のサラダボウル
・オーストラリアにはいろんな民族がいることは聞いたことがありましたが、その割合が最も多い民族でも4分の1しか占めていないというほど分散されていることは初めて知りました。
・アングロ・サクソン人とケルト人が「アングロ=ケルティクス」とまとめて表記されるのも初めて見ましたが、分散しすぎていてまだ共通している民族だからまとまろうというような状況が起きたのかなと思います。
・マルタ系と言われてもどこの民族かわからないなと思いましたが、東西冷戦終結の「マルタ会談」の場所かと思い当たりました。
てっきり都市の名前だと思っていましたが、国名だったことにもが驚きました。
Wikipediaで調べるとマルタ共和国は人口40万人強の小国ですが、オーストラリアに15万人以上マルタ系の人たちがいるというのはすごいなと思いました。
・文化多元主義だからこその母国同士の争いを引き継いでいる面はあるだろうなと思いましたが、その割に大きく表面化していないのはすごいなと思いました。
・ギリシャ系、イタリア系の人たちが活躍し、ユダヤ系の人たちが社会主流化率を高め、インドシナ系の人たちが急激に流入して割合を高めていくなど、日本からすると考えられないような、主流派自体も動く民族分布の変遷はすごいなと思いました。
・特にインドシナ系の親が子供の為に将来を棄て、子供がそれに報いるというところは、後がない人たちの希望の地がオーストラリアだったのかなと思いました。
Ⅶ アジアとの共存
・地理的にアジア圏との共存が必要であること、片やアメリカとの関わりも重要であることなど、他の国にはないような地政学的情況にあって面白いなと思いました。
「100年予測」という本では今後100年間でほとんど世界の覇権争いに関わってこない国として扱われていましたが、世界の主流でなく「ミドルパワー」としてそれなりの地位を今後も示していきそうな気がします。
Ⅷ 最新の動向
・改版前に書かれた章では有力だったイタリア系のピーター・コステロやギリシャ系のペトルー・ゲオルギューが失速して長期政権のジョン・ハワードの後をフランス系のケヴィン・ラッドが継いだというのは、改版前の内容では一切触れられていなかっただけに著者も意外だったのかなと思いました。
ケヴィン・ラッドが中国についての研究をしてきた人で、「陸克文」という中国名まで持っていたというのは面白いなと思いました。そのラッドも急速に失速し、2010年に首相交代となったのは、大変な時期に政権を受け継いだせいでなかなか可哀そうだなと思いました。
○つっこみどころ
・「オーストラリアを知るための」という本の題名の割には、オーストラリア初心者にはついていきづらい本だったように思いました。
初めて聞くような用語が解説されずにそのまま使われたり、知らない背景が前提に語られたり。
・農業についての話がほとんどなかったなと思いました。
・経済の話にもっと深く踏み込んでほしかったなと思いました。
・第3版なのに2001年に書かれた第1版からあまり手を加えられていない、古いなと思われる情報が多いなと思いました。