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【ロシア 苦悩する大国、多極化する世界】レポート

【ロシア 苦悩する大国、多極化する世界】
廣瀬陽子 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4048708716/

○プロローグ

・ソ連解体(1991年)から20年が経過した。この20年は5つの時期に分かれる。

・第1期 最初の10年(1991~2001年)は冷戦構造が残存
 旧ソ連から15ヶ国が新興独立国として誕生
ソ連が主宰していたWTO(ワルシャワ条約機構)は解消されたが、NATO(北大西洋条約機構)は残り、ロシアと反目
 欧米諸国はロシアへの対抗策を取った。(パイプライン迂回、コソボ問題介入、ロシアのチェチェン問題批判)

・第2期 9・11事件後の2~3年の米露蜜月期
 テロリストとの戦い、という風潮に乗ってチェチェン問題もテロリストとの戦いにすり替え⇒批判が止んだ
 ロシアとNATOの接近⇒NATOロシア理事会を新設する(ロシアはNATOの準加盟国扱いに)

・第3期 米国のブッシュ大統領による「一極的世界」の推進により米露関係悪化
 米国のアフガニスタン、イラクへの侵攻
 色革命(グルジアのバラ革命、ウクライナのオレンジ革命)の推進(反ロシア的性格の革命)
 旧ソ連諸国のNATO加盟圧力⇒ロシアが敵に囲まれる状況に
 米国のMD(ミサイル防衛)計画(ポーランドとチェコにMDシステム配備⇒ロシアを念頭に置いた配備)推進

・第4期 グルジア紛争発生 2008~2009年

・第5期 米国でオバマ政権誕生~ ロシアとの関係を「リセット」宣言

○第一章 旧ソ連諸国に振り回されるロシア外交

・1 「リセット」後も紆余曲折の米露関係

  米露間の経済関係緊密化
  NATOの東方拡大の事実上の中止
  米国クリントン国務長官の反露傾向のある国家への訪問
  ウクライナのNATO加盟問題
  アゼルバイジャンのつなぎとめ
  ⇒ロシアとの関係改善とロシア周辺諸国との関係というジレンマ

・2 ロシアとイスラエルの軍事協力 背景と影響

  2010年9月6日に両国の国防相が合意文書に調印、軍事協力
  ロシア側は軍の近代化を狙い、イスラエル側はロシアの親アラブ・イラン政策を放棄させる狙い
  ロシアはイランと共通の敵(米国)を持つ関係だったが、ロシアの「裏切り」的行為が見られる
  グルジアとイスラエルは親密であったが、この協力によりグルジアが見捨てられた観がある
  ⇒但し、ロシアのイスラエル・ロビーとアラブ・ロビーが争っており、今後どうなるかは不透明

・3 国家承認・領土問題のダブルスタンダード

  ロシアのチェチェン・・・ロシアは弾圧(強く否定)
  セルビアの未承認国家コソボの独立承認問題・・・ロシアは承認しない姿勢
  グルジアの未承認国家アブハジア、南オセチア・・・ロシアは承認している
  北方領土問題・・・立法と既成事実の積み上げにより日本を牽制(中国や韓国に北方領土への投資を勧めるなど)
  ⇒「民族自決」と「領土保全」の国際法の原則の矛盾のため、白黒つけるのは難しい

・4 継続するグルジアとロシアの「冷戦」

  2008年以降継続(グルジアとロシアの国交は断絶)
  グルジアは北コーカサス諸民族に査証免除⇒出稼ぎや商業活動のチャンスを増やす
  グルジアの「チェルケス人虐殺」承認・・・2014年の冬季オリンピックが開催されるソチ周辺で1864年に発生した大虐殺事件。グルジアは世界初の同問題の承認国となった。
  北コーカサスはロシアに属し、南コーカサス(グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア)は独立しているが、もともと一つの地域として考えられていた。⇒南に連動して北でもテロ、殺人、誘拐が発生している。
  ロシアのWTO(世界貿易機構)加盟問題・・・グルジアは既に加盟し、ロシアの加盟に対して反対している
  NATO連絡事務所がグルジアに

・5 中露の蜜月関係と両国間石油パイプラインの本格始動

  1950年代後半に中ソ関係は悪化
  ソ連解体後、1996年4月に中露と中央アジア3国(カザフスタン、タジキスタン、キルギス)で「上海ファイブ」を結成
⇒2001年にウズベキスタンを加え、SCO(上海協力機構)に改組
  2004年10月14日に中露国境協定が妥結され、中露関係が一気に深まる。
  但し、ロシアと中国で旧ソ連諸国に対する競合ともなっている(ロシアが資源を安く買いたたいていた状態に中国が参入)
  2010年にさらに中露の戦略的関係が深化
  2011年元日にロシア(アムール州スコヴォロジノ市)と中国(黒龍江省大慶市)を結ぶ999キロの石油パイプラインの商業利用が正式にスタート
  2011年6月のSCO(上海協力機構)では主導権争いになり、天然ガス供給問題で交渉決裂
  エネルギー外交では中国側が他のアジア諸国との取引に合わせて様子見体制にある。

○第二章 振り子のように揺れ動くNATOとの微妙な関係

・1 NATOとロシアの和解?

  2010年11月5日にラムスセンNATO事務総長がロシアを訪問し、「ロシアはNATOと戦略的パートナー」と発言
  2010年11月20日のNATOリスボン・サミットにメドヴェージェフ大統領が参加。「新戦略概念」を11年ぶりに採択するが、その戦略にはロシアの協力が必要不可欠
  ⇒アフガニスタンの情勢悪化がNATO、ロシア双方に影響を及ぼすため、打算に基づく協力関係
  MDシステム構築において協議しているが、ロシアが情報交換にだけ参加か、指揮権まで保有するかで交渉が整っていない。

・2 NATOとロシアの関係改善の暗雲「ウィキリークス」問題の余波

   「ウィキリークス」が公表した米外交公電のなかには、旧ソ連諸国に関するものが多く含まれていた。
   ロシアにとって不快な情報も含まれていた。
   バルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)に対ロシアのMD計画が適用されるという公電があり、NATO不信に一役買っている。

○第三章 つのる国民の不満、根強い憎悪の連鎖

・1 天災か、人災か ― ロシア森林火災と政治

  火災により2010年5月以降、ロシア中部・西部で19万ヘクタール以上の森林が消失、死者50人以上、約2000件以上が消失し、35,000人以上が住居を奪われた。
  火災の影響は首都モスクワにも影響・・・その年最悪の大気汚染と一酸化酸素濃度が最大許容値の6倍以上、その他の有害物質も10倍以上に達した。
  軍施設や核関連施設にも火災が広がる
  国際的な影響・・・旱魃により農業に深刻な影響が出ると考えられ、小麦を含む穀物の輸出を一時禁止⇒小麦の国際価格が上昇した
  国民の不満・・・インターネット上で多くの政府批判が繰り広げられる。
  ロシア当局の対応・・・軍幹部、火災が起きた地区の知事や上級官僚への処分を実施し、支援や損害補償に着手、プーチン首相は住民と対話するところをみせ、不満を逸らしている。
  人災の側面・・・プーチン前大統領に進められた極度の中央集権により対応が遅くなった。また、2007年に森林開発の促進のために森林局を閉鎖し、森林監視や防火体制が緩和されていた。

・2 モスクワ暴動 高まる民族主義の危険

  暴動の原因はサッカーチームのサポーターでロシア人グループとコーカサス系グループが喧嘩をし、ロシア人が射殺されたことにある。6人が逮捕され、実行犯以外の5人が釈放されたことに不満を抱いたロシア人がデモを実施した。
  ⇒ロシア人の民族主義者により非ロシア人への暴行が発生。
  ⇒極右やネオナチの強さが表面化
  ロシア人はコーカサス系諸民族に対して嫌悪の感情を持っていて、プーチン前大統領からチェチェン紛争やグルジア紛争への厳しい対応により人気を集めてきた。また極右やネオナチ等を寛容に扱い、利用してきた。
  北コーカサスのソチで2014年の冬季オリンピックが開催されることになっており、安定化は喫緊の課題となっている。

・3 ロシア空港テロ事件 その背後にあるもの

  2011年1月24日にロシア最大規模の国際航空であるドモジェドボ空港でテロが発生し、36人が死亡
  ⇒出迎え客が待つ国際線到着ロビーへの出入りのチェックがされておらず、そこを狙われた。
  同空港は2004年にもテロが発生し、90人が死亡している⇒シベリア航空の地上職員が賄賂を受け取って自爆犯が手荷物検査を受けずに飛行機に乗り込めるようにしていた。
  ロシア当局の打撃・・・メドヴェージェフ大統領が世界経済フォーラム(ダボス会議)で外国投資を多く呼び込むためのアピールをしようというタイミングの直前であったため、国際舞台でのメンツをつぶされ、経済的なダメージも大きかった。
  ロシアではテロが発生すると証拠もそろっていない状態で即北コーカサス系出身者が犯人だと発表される。
  メドヴェージェフ大統領とプーチン首相で北コーカサスへのアプローチが異なる(前者は穏健派、後者は強硬派)
  北コーカサスには「血の復讐」という慣習があり、これを避けるために抑制や忍耐を心がけるという文化がある。
  自爆テロの実行犯は「黒の未亡人」と呼ばれる洗脳された人員を利用するケースが多い。

・4 エジプトの反政権デモの旧ソ連諸国への影響

  ①ロシア・・・エジプトのカリスマ的リーダー不在の革命は脅威に感じている。ウェブサイト等の検閲は2011年に法制化されたが、それ以前から「合法的」に行われていた。

  ②カザフスタン・・・2011年時点で20年の長期政権を維持している70歳のナザルバエフ大統領が4月の繰り上げ大統領選で圧勝した。国民は政治に無関心であり、エジプト政変の影響はないと考えられている。

  ③ウズベキスタン・・・73歳のカリモフ大統領が権威主義的な長期政権を維持している。IMU(ウズベキスタンイスラーム運動)の動きが活発であり、イスラーム関連の組織が反政権的な動きを起こすことに大きな危機感が持たれている。

  ④キルギス・・・民衆による革命が終わり、中央アジアで唯一の議会主導の政権となった。ただ、その後大きな暴動も発生しており、現政権に不満を持っている分子が新たな革命を起こす可能性は大きくはないが考えられる。

  ⑤タジキスタン・・・イスラーム弾圧の動きが目立ち、政治状況も権威化しているため、情勢の不安定化が危惧されているが、国民は1992~1997年の激しい内戦のトラウマを引きずっていて国を不安定化させる活動は望んでいないと考えられる。

  ⑥グルジア・・・2003年のバラ革命で民主化の道を歩き始めたがサアカシュヴィリ大統領の権威主義的な動向が強まっている。野党が革命を考えているが力がなく、しばらく現状が続くと考えられる。

  ⑦アルメニア・・・サルキシャン大統領の対立候補で元大統領のペトロスィアンが抗議行動を起こしているが、それほど大きな反対勢力はない。

  ⑧アゼルバイジャン・・・最もアラブの民主化ドミノの影響を強く受けている国。アリエフ大統領はアラブ諸国の指導者の背中を追って権威主義を強化してきた。首都バクーのバクー中央公園にはムバラク大統領の銅像も設置されている。フェイスブックによりデモが呼びかけられているが、当局にことごとくつぶされており、大規模なデモは実現いていない。貧困の度合いがひどく、「革命」より「安定」を志向せざるを得ない状況である。

・旧ソ連諸国では革命の退行現象がみられる⇒激しい熱気をもって達成された「革命」はすぐ覚める可能性が高い⇒中東の政変も同じ道を辿るかもしれない。

○追補 東日本大震災におけるロシアの動きと今後の日露関係

・1 すばやかった日本への支援

  メドヴェージェフ大統領は地震発生後3時間足らずで自ら日本に対するお悔みと今後の支援を伝えた。
  迅速にチームを整え、日本へ送った。(ロシア史上最大の外国への救助隊結成)
  エネルギー支援、スポーツ支援(場所貸し)も実施。民間レベルでも寄付等、熱い支援。極東や北方領土からも支援。
  北方領土問題の進行もストップさせた。
  欧州経由で日本を支援するとして、中東やアフリカのLNG(天然ガス)輸出比率が増大している欧州向けに輸出経路構築を狙っている。

・2 原発事故 日本に頼られたいロシアの本音

  福島原発事故後もロシア国内外の原発計画に変更はなかった。今後も日本のものより事故防止レベルがはるかに高い祭祀ネイの原発を諸外国に建設していくと述べている。
  ロシア国内でも民間レベルでは原発に対する不安が増大し、ロシアにおいても日本の原発事故は脅威と考えられている。
  「日本政府・東電の対応がまずかった」という論調で、自国の原発は大丈夫だというアピールに走っている。

・3 福島原発事故でクローズアップされるアルメニア原発

  原発がきわめて安定的な電力源となっている国がある。その中で特に問題となっているのがアルメニア
  アルメニアでは地震が頻発する上、1988年の地震で原発の設備自体は大丈夫だったがスタッフが逃げて原子炉加熱の危機が生じた。
  アルメニアは周りを敵対国で固められ、国境の80%が閉鎖されている状態にある。
  原発を閉鎖するべき、という方向が国際世論であるが、電力事情によりアルメニアでは止めるわけにはいかない状態にある。