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【中国経済講義―統計の信頼性から成長のゆくえまで】レポート

【中国経済講義―統計の信頼性から成長のゆくえまで】
梶谷 懐 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121025067/

○この本を一言で表すと?

 中国経済を様々な視点や統計から客観的に評価していく内容の本

○面白かったこと・考えたこと

・それほどページ数のある本ではないですが、トピックがかなり詰まっていて、初めて知る内容も盛りだくさんでよかったです。

・中国に関する本、中国も含めた国際情勢の本を読んでいて、中国に対するイメージが自分の中で出来上がっていましたが、この本を読んで偏見を持たないつもりでも結構な偏見を持ってしまっていたことに気づけました。
ニュースなどで見る中国も真実の一面だとは思いますが、様々な視点で見ないといろいろ見逃してしまいそうだなと思いました。

・中国が様々なリスクを抱えている国というのはこの本でも述べられていますが、それらのリスクを解消できる道が残されていて、解消されれば中国が更に成長していきそうなこと、またリスクが解消されない場合にどうなるかなど、鋭い分析が各所で見られました。

序章 中国の経済統計は信頼できるか

・中国の経済統計が疑わしいものという評価はよく聞きますが、実際にはどうなのかについて検証されていました。

・中国でも1980年代後半からソビエト型の統計システムMPSから国際標準として採用されているSNAへの移行が行われ、MPSのときの、特に毛沢東時代の統計の水増し報告よりかなり正確性は向上しているそうです。
実体経済との乖離も見られるそうですが、日本でのイメージと異なり、統計の動き等はかなり実体経済に沿っていて、統計に採用されている数値の違い、サービス業を含めていなかった時代と含めている時代の整合性などからズレが出ている程度だそうです。

・中国政府は統計法などを施行して正確な統計公表を目指している一方で、地方政府のごまかしがかなり大きく、地方GDPが歪められている問題は残っているそうです。
それでも、全体としては全くのデタラメではなく、誤差がある程度だそうです。

第1章 金融リスクを乗り越えられるか

・中国が2014年から「新常態」を宣言したこと、SDR(特別引出権)の構成通貨となるために人民元の対ドルレートの切り下げを行ったこと、株価低迷に対して政府が株価維持政策を実施したことなど、様々なトピックが同時に見られたそうです。
これらの原因として、中国が「デット・デフレーション(過剰債務のなかでのデフレ)」に陥っていることが挙げられていました。
デフレになっても債務の金額は変わらないために相対的に債務が過大になり、さらに不況を招くというプロセスが続いているそうです。

・民間部門では元来過剰投資体質があるなかで、リーマンショック後の大規模な景気拡大政策と「融資プラットフォーム」を通じた貸し出しの増加の問題もあり、民間投資も萎縮して更に悪化しているそうです。

・デット・デフレーションに対する解決策は債務整理を断行して企業の倒産も辞さない清算主義と、金融緩和によるリフレ政策があるそうです。
清算主義は高い成長率を見込める企業まで潰してしまい、人的資源が有効に活用されず、生産性が低下するリスクがあるため、リフレ政策と名目為替レートの減価容認の方が望ましいらしいですが、為替制度の硬直性からなかなかできなかったそうです。

・香港経由での対外資本投資や外貨取引の増加、アメリカでの量的緩和政策が2014年10月に終了したことによる資金のアメリカへの還流、「一帯一路」戦略推進等による海外への積極的な資本投資などから海外への資本移動は拡大を続けているそうです。

・リーマンショックから「ドルの足かせ」を強く意識するようになり、人民元の国際化を進めるようになり、IMFへの出資比率で第3位になったものの、そのために元のドルに対する価値の変動を防がなければならないようになり、「ドルの足かせ」を強めてしまっているようです。

・ロバート・マンデルの提唱する「トリレンマ」として、「独立した金融政策」「通貨価値の安定」「自由な対外資本取引」の三つの政策に関しては全てを同時に実現することは困難という関係がある中で、中国は「通貨価値の安定」「自由な対外資本取引」の二つの政策を進める中で「独立した金融政策」が困難になっているそうです。
その対処法としてCFETS(中国外貨取引センター)を通じて通貨バスケットの構成を調整し、リスク分散を進めているそうです。

・米大統領線でドナルド・トランプが勝利したことでアメリカの積極財政と利上げ観測の高まりから対ドル為替相場が軒並み下落し、新たなリスクが訪れたそうです。
これを受けて中国では金融引締が行われ、債券市場の価格暴落と利回りの急上昇に繋がり、中国経済の不確実性は高まっているそうです。

・金融監督体制の不備が指摘されてきた中で、2018年3月に「銀行保険監督管理委員会」を発足し、国内の証券・保険会社への外資の出資を認めるなどの対外開放も進めているそうです。

・中国の金融リスクは当局による適切な金融政策が行われるのであればそれほど憂慮するものではないそうです。
ただ、アメリカとの貿易戦争などのリスク要因等があるため、安心できるものとまでは言えないようです。

第2章 不動産バブルを止められるのか

・中国の「投資依存経済」の中でも代表的な不動産投資について分析されていました。

・持続的な高度経済成長と旺盛な国内投資から投資の伸び率がGDPの伸び率を上回り、消費よりも投資が優先され続け、投資の収益率が低下しても投資が続くという循環により投資過剰になっているそうです。
その中でも各地における地方政府のインフラ投資やマンション建設から不動産価格が上昇を続けていて、そのキャピタル・ゲインに期待して不動産投資が持続しているそうです。

・中国の不動産市場は土地が公有であり、土地使用権取引の市場とその土地の上の建物の市場だという特徴になっていて、その中でも工場用地は需要の価格弾力性が高いためにあまり価格が上がらず、商業・住宅用地は需要の価格弾力性が低いために価格の上昇が続いているという構造になっているそうです。

・国内の投資先が限られてきた状況で国内・海外の余剰資金が不動産市場に流れ込み、高騰を続けているそうです。この状況が所得格差の拡大にも寄与していて、政府としてはバブルが大きくなりすぎる前に介入して不動産市場を抑えることが基本姿勢だろうと述べられていました。

・地方政府が地方債の発行を制限されてきた一方で、中央政府が決定した景気刺激策の実行は地方政府の自主財源に委ねられているという事情から、「融資プラットフォーム」を通じて資金を集めることが常態化し、融資プラットフォーム経由で地方政府の債務全体の半分近くを占める金額が集められているそうです。
この融資プラットフォームは地方政府が出資する投資集団が「影の銀行」と呼ばれる銀行から切り離された団体から借り入れる仕組みになっていて、中国全体の債務残高を拡大する大きな要因になっていたそうです。
これに対して、2015年に地方債の発行が省レベルで認められ、公共部門と民間部門の連携事業であるPPP方式も進められているそうですが、これらが融資プラットフォームに代わる資金集めの手段に陥るリスクもあるそうです。

・債務に頼る構造への対抗手段として、不動産税の導入が進められているそうですが、まだ導入は一部に限られていて遅れているそうです。
導入を躊躇する理由として、不動産市場が一気に冷え込むリスクがあるそうです。

第3章 経済格差のゆくえ

・中国の経済格差は拡大を続けているという印象がある中で、実際にはジニ係数は2008年の0.491をピークに緩やかに減少を続けていて、この数字はトレンドを比較的正確に表しているそうです。
ただ、灰色収入と呼ばれる表に出ない収入の割合も大きく、これを含めるとジニ係数は現在でも0.5を超えるそうです。
この灰色収入について、習近平の進める反腐敗運動で大幅に減少しているという政府の発表があったものの、それを示すエビデンスもなく不透明だそうです。

・均衡発展から改革開放により先富論に政策が切り替わると、沿海地区と内陸地区の格差が許容されていったそうです。
一方で、財政請負制に変わり、地方政府が集めた財政資金の一部を中央政府に上納する仕組みに代わると地方政府の動き次第で財政規模が変わるようになり、再分配機能は低下したそうです。

・1994年に分税制が導入されて再分配機能が強化され、西部大開発等により発展の遅れている地域に投資がされているものの、格差是正の手段が公共投資や開発プロジェクトに依存しているために地方政府の財政収入に回ってしまっているということになっているそうです。

・中国では、金融政策は中央政府が、財政政策は地方政府が担っているという点で、EUに似ていて、ギリシャのような経済基盤の脆弱な周辺国が財政支出を増大させる「ユーロ圏の罠」に陥る可能性が考えられるそうです。
内陸部の省は「中国のギリシャ」と考えられ、貴州省や青海省は他省に比べて格段に一人あたり債務残高が高く、EUと動揺のリスクがあるそうです。

第4章 農民工はどこへ行くのか―知られざる中国の労働問題

・中国では国有企業改革で1990年代後半から2002年前後にかけてリストラが行われ、都市住民の失業者数が急激に増加したそうです。
また、農民と都市住民との間に制度的な差別を設ける戸口制度の存在により社会保障等が満足に与えられない農民工が大幅に増加しているそうです。

・中国の農村ですでに労働力が枯渇した状態「ルイスの転換点」を迎えていているという意見と、農家は農村に農地という固定資産を有しており、またその農地の流動性が低いために農地を手放さない「ハウスホールド・モデル」でまだ農村に労働力が余っているという意見があるそうです。
後者から内陸部の農民は出稼ぎに行きたくても行けないために農村に残らざるを得ず、都市の労働力にならないために前者の「ルイスの転換点」を擬似的に迎えているという意見もあるそうです。

・農民工の問題を解決するために、新型都市化推進として城鎮化計画(農村部の市街化開発計画)と農民が一定の条件を満たせば都市の居住証を発行する制度の実施が試みられたそうですが、居住証発行のハードルが高く、農地を捨ててまで居住証を得たいという農民が少なく、あまりうまくいっていないそうです。

・中国では包工制という制度があり、包工頭が包工を現場に派遣し、働かせる仕組みになっていて、派遣される包工には従業員のような福利厚生がなく、労働災害があっても保証されないような状態にあるそうです。
日本の建設業界やIT業界のような下請構造になっていて、包工は勤務している企業に権利を請求できなくなっているそうです。
企業の社会保険未払いが多く、労働者がそれに気づかずに年金等を受け取る権利を失っているケースがかなりあるそうです。

・シェアリング・エコノミーの発展により労働者ではなく個人事業主という立場に立たされる人が増加し、今後も増加していくそれらの人の社会保障がないことも問題になっているそうです。

・日本人は中国の人権問題には関心を持っても労働問題には関心が薄い、という評価があるそうです。中国に関するニュースを見るとその通りだなと思いました。

第5章 国有企業のゆくえ―「ゾンビ企業」は淘汰されるのか

・国有企業は中央政府による改革により国家が資本を有している企業は大きく減少したものの、痛みを伴わない改革であって潰れるべき企業が潰れずに「ゾンビ企業」になっているそうです。
また、国有企業の数は減少したものの、国家が重要と認める業界のシェアは依然として大きいそうです。

・国有企業の給与は非国有企業に比べて大きい状態は改革前からそれほど変わっていないことも問題として挙げられていました。
高い給与に対して生産性が高いわけでもなく、生産過剰に陥ってむしろ生産性を悪化させているなど、問題は多いそうです。

・民間企業では極端に進んだ分業により参入障壁も低くなって活発になっている一方で、「ゾンビ企業」となった国有企業を退出させていくことは避けられない課題であると述べられていました。

第6章 共産党体制での成長は持続可能か―制度とイノベーション

・深圳のエコシステムを例に中国版のイノベーションが説明されていました。
プレモダン層(知的財産権無視の無法地帯、パクリ文化)、モダン層(大企業の知的財産権保護に注力する層)、ポストモダン層(知的財産を開放し、オープンイノベーションを目指す層)に分かれていて、それぞれの層の相互作用で様々な機能、様々な品質の商品が生み出されていくことで独特のダイナミズムが生まれているそうです。

・中国の伝統的な「仲介」の文化とハイテクを組み合わせたアリババのような革新的企業、知的財産にこだわらない無法地帯で参入退出が激しい中小企業、権威主義的な政府という敵対的ですらあるそれぞれの関係者が共犯的になって中国のイノベーションが生まれているのではないかと述べられていました。
共産党体制でイノベーションが生まれるという、民主主義社会では矛盾しているような関係がうまくいっているのは面白いなと思いました。

終章 国際社会のなかの中国と日中経済関係

・日中関係は経済的には相互依存的な関係にあり、破綻すれば大きな損失が待っていること、今は「チャイナ・リスク」より「トランプ・リスク」の方が大きいくらいであることが述べられていました。

・「一帯一路」構想に象徴される資本輸出型の経済発展戦略は、経済成長率低下が避けられない中国にとって「過剰な国内資本を逃すこと」「国内インフラ投資を通じた地域振興政策」「既存の国際金融秩序の不備への対応策」という3つの意味があるそうです。

・「一帯一路」構想に関係している他国とトラブルになっているケースも多く、アメリカや日本にとって大きな脅威とまでは言えないと述べられていました。

・中国は一党独裁体制のままでイノベーションを起こせており、欧米を中心とした価値観に染まる可能性はますます遠のいているそうです。