【茶の世界史 緑茶の文化と紅茶の世界】
角山 栄 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121005961/
○この本を一言で表すと?
茶の位置づけが大きく変わった時期の前と後の歴史について書かれた本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・東洋の文化とともにある茶と資本力に劣る東洋から買い上げる茶という歴史の流れで西洋において、特にイギリスにおいて対極的な位置づけに置かれた茶について、各時期における扱いや、生産量・消費量等について書かれていました。
・1980年に出版された本だからか、今では表現として許されなさそうな描写や死語と言われそうな言い回しが多用されていて面白かったです。
2017年に改版が出ているようです。
・緑茶の方が先にヨーロッパで広まり、しばらく緑茶の方が紅茶よりも流通していた時期があったことなど、あまり知らなかったことが載っていて勉強になりました。
・後半の第二部では開国後の日本の茶についてデータとともに詳細に書かれていて、今まで日本近代史の本で茶が輸出品として扱われていたことや品質が悪くて有名だったことが書かれていたことを知っていたくらいでしたが、具体的な状況がよくわかり、勉強になりました。
<第一部 文化としての茶 ―緑茶の文化と紅茶の社会>
ヨーロッパ人の茶の発見
・中国の北部では「チャ」、南部では「テー」と呼ばれていた茶が、それぞれ伝来経路が異なって「チャ」と「テー」で緑茶と紅茶の文化に分かれていったことは初めて知り、興味深かったです。
・ヨーロッパ人の茶の発見は日本の茶であり、文化的な背景も含めて畏敬の対象となっていたというのも初めて知り、ヨーロッパへの伝来のきっかけが茶の文化であったのは興味深いなと思いました。
・日本の「チャ」をヨーロッパにもたらしたオランダが凋落し、中国の「テー」を改めてヨーロッパにもたらしたイギリスが興隆したことで今のヨーロッパでは紅茶の文化になっていったという話も面白いなと思いました。
イギリスに定着した紅茶
・イギリスでは最初にコーヒー・ハウスが発展し、そこで茶が提供され始め、ココアも提供され始めたものの、イギリスでは茶が最も安価で一番定着することになったことが書かれていました。
紅茶文化の光と影
・当初は食文化を含めてヨーロッパより洗練された東洋の文化ごと茶を取り入れていたものの、重商主義などにより砂糖を入れることから始まり、中国を戦争で打ち破り、インドでも茶を生産し始めるなど、文化を置き去りにして単なる商品として茶が扱われ始めたことが書かれていました。
<第二部 商品としての茶 ―世界市場における日本の茶>
日本の開港と世界市場
・開国したときには輸出できる産業があまりなく、生糸と茶がメイン輸出品だったこと、特に茶は品質の悪さで有名になってしまったこと、対応するために組合を作ったことなどが書かれていました。
茶をめぐる日本の情報活動
・開国後の日本では企業が外国に進出して情報を集めるようなことはできず、領事館の「領事報告」がメインの情報源だったこと、情報収集力が弱くインドの茶について把握することがかなり遅れたこと、紅茶や寒い国向けの磹茶の生産を始めたものの大ゴケしたことなどが書かれていました。
日本茶の戦いとその運命
・日本茶と中国茶の戦い、緑茶と紅茶の戦いなど、様々な局面で勝負しては負け続け、アメリカ等である程度緑茶のシェアを占めても品質の悪さが広まって縮小するなど、現代の日本にも繋がるマーケティングの弱さ等が生々しく書かれているなと思いました。