【繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史 】レポート

【繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)】
マット・リドレー (著), Matt Ridley (原著), 柴田 裕之 (翻訳), 大田 直子 (翻訳), 鍛原 多惠子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152091649/

【繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(下)】
マット・リドレー (著), Matt Ridley (原著), 柴田 裕之 (翻訳), 大田 直子 (翻訳), 鍛原 多惠子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152091657/

○この本を一言で表すと?

 交換を軸に考えた人類10万年の歴史の本

○面白かったこと、考えたこと

・ビジネスに携わった経験があり、経済学の知識もある著者が歴史を検証したことで「交換」がどう繁栄に繋がっていったのかがうまく説明されていたように思いました。

・これまで環境や格差について悲観的な本を何冊も読んできましたが、それらの本を読んで感じた違和感がこの本の事実に基づいた楽観的な視点で少し理解できたような気がしました。
視点次第でこれだけ考え方や行動指針が変わるということが自分でも驚きで、多面的に見ることの重要性をまた思い知らされたように思いました。

第1章 より良い今日

・「昔の方が良かった」という話は、何十年という単位でも何千年という単位でもよく使われ、使う本人は割と本気で言っていたりしますが、実際にどうだったのかを掘り下げると圧倒的に今の方がいいというのは元々そうだろうなとは思っていましたが、より生々しく実感できました。

・歴史上の進歩を昔と現代を消費できる内容や資源や時間などの同じ項目で比較しているのはとてもわかりやすいなと思いました。
その劇的な進歩の理由が「交換」「分業」であるということも数値で説明されていて、わかりやすくより実感できました。

第2章 集団的頭脳

・物々交換の話で、チンパンジーやオラウータンなどの人間に近い類人猿だけでなく、現生人類以外のネアンデルタール人たちまで異なる物の交換、血族以外との交換がなかったということは初めて知りました。
そして家族間の分業すらなかったというのは驚きでした。
このことが本当なら現生人類が他の人類に生存競争で勝利できたことも当然の帰結だったろうなと思いました。

・交換が可能なことで専門化が起こり、ついには貨幣に該当するものまで出来て発展していくというのはよく語られる流れですが改めて地球上でたった一種しか行っていない例外的な流れなのだなと思いました。

・リカードの提唱する比較優位の話が国家間の貿易だけでなく個人間でも通用し、それが発展に繋がっているのはこれも発展を加速させるだろうなと思いました。

・何かを考案した者、卓越した者の近くにいる者がそれを模倣し、他のアイデアと結び付け、さらに発展させていくというイノベーションのプロセスも現代の経営学だけでなく何万年も前から起こっていたのだと思うとこれも「原理原則」なのだろうなと思いました。
その逆に子舌した環境で技術が退化していくタスマニア島の話などは、閉じた環境が開いた環境に大きく差をつけられてしまうよくある経済現象と似ているなと思いました。

第3章 徳の形成

・現生人類以外がごく近いグループ以外は敵とみなすのに対し、現生人類が見知らぬ者をも「名誉友人」といったポジションに置くことができること、信頼の最初の土台があるかないかの違いはとてつもなく大きな違いだと思いました。

・信頼が土台となって交換が起こり、交換することによって信頼が醸成されるという交換と信頼の循環関係は確かに存在すると思いました。

・オキシトシンというホルモンが共感や相手への愛着を引き起こすホルモンとして紹介されていますが、このホルモンは現生人類以外も持っていそうですが、その作用の違いがあるのでしょうか。

・自由であり、オープンであることが補償されている環境がそうでない環境よりも発展するという話は「国家はなぜ衰退するのか」という本のメインの論点でしたが、同じような事例が載せられていました。
主題が似ているだけに互いに参照し合っているのかなと思いました。

・規則・道具・慣習等も信頼と同様にボトムアップで交換と循環関係にあって相互に強化し合ってきたというのも納得できるように思えました。

第4章 九〇億人を養う

・食物生産の発展が農業の開始から農作物の改良、肥料の改良など様々な段階について書かれていました。
種の掛け合わせ等で品種改良が行われてきたことと遺伝子組み換えとの違いが科学的にどう違うのか、高校レベルの生物の知識でも「あまり変わらないのでは?」と思っていましたが、著者が同様の意見でそれほど間違っていなかったのかなと思えました。

・有機農法がそれほど環境に良くないことは他の本でも書かれていましたが、農業の効率を上げることで農地の面積の節約に繋がり、それが環境を良い方向にしているという視点はあまり考えていませんでしたが確かにその通りだなと思いました。
知ってみればなぜこういった視点の本があまりなかったのか、不思議に思えました。

第5章 都市の勝利

・人が集まって都市化が始まり、そして交易が始まったということが定説のように語られますが、そうではなく交易がまずあってそれからその交易のために人が集まり、都市化に繋がるというのは他の本でも書かれていましたが、こちらの方が説得力があるなと思いました。
その交易の自由さを国家が止めた時に衰退し、解放したときに国家が繁栄していくという話はこれも「国家はなぜ衰退するのか」と同じ論旨だなと思いました。

第6章 マルサスの罠を逃れる

・交換から自給自足に移行することで衰退していくという説明の中で江戸時代の日本が書かれているのは面白いなと思いました。
他の本では良い例として日本が出てくることが多いので新鮮な気がしました。

・子供の死亡率が高いことが未来の子供の生存への期待率の低下に繋がり多く生むことに繋がること、子供の死亡率が低くなることで未来の子供の生存への期待率の上昇に繋がりそれほど多く生まないことに繋がること、この見えざる手の話は単純すぎる気もしますが「多産多死⇒多産少死⇒少産少死」のプロセスをうまく説明できている気がします。

第7章 奴隷の開放

・人力で行っていたことを他の物で補えるようになったことで効率が劇的に向上し、人間が単純労働から他の労働に力を振り向けることができるようになったこと、「人力⇒馬力⇒化石燃料」の流れは数値として比較するとそれぞれ圧倒的な効率の革新が起こっているなと思いました。

・バイオ燃料がいかに効率が悪く、そして環境に悪いかということが農業の効率化と同じ論旨で書かれ、この視点は面白く、そして説得力があるなと思いました。

第8章 発明の発明

・アイデアとアイデアが結びつくことの力、これも「交換」と同列で考えるという考え方は面白いなと思いました。
科学からテクノロジーが生まれるのではなく、テクノロジーから科学が生まれるという考え方は全てに当てはまりはしないと思いますが、大部分に当てはまりそうな気がします。

・イノベーションには終わりがなく、人類がイノベーションによる飛躍を繰り返してきたことからもっと楽観的になってもいいではないかという著者の意見は完全に同意はできませんでしたが、一理あるなと思いました。

第9章 転換期

・これまでの転換期に必ず悲観主義的な意見が多数派を占めてきたことの例がいろいろと挙げられていました。
現代もまさにその転換期の悲観主義が多い時期だと思いますが、著者が挙げている過去の例と確かに似ているなと思いました。

・後退することが悲観的な未来を避ける唯一の道だという意見は割と多いような気がしますが、実践した明朝の皇帝や毛沢東の事例をみると確かに悲惨な結果に終わることが多いような気がします。
進歩を止めることで長期間の平和を享受した江戸時代の日本はその反証となりそうに思いますが、そもそも閉じた世界だったという例外的な事例かなとも思いました。

第10章 現代の二大悲観主義

・アフリカを始めとする後進国への援助がうまくいっていない話はいろいろな本で読みましたが、そのいくつかの事例が挙げられていました。
資金や資本の援助より制度構築支援の方がよっぽど意義があるという意見もそれらの本と同様だなと思いました。

・「地球温暖化=悪いこと」ということに疑問を持ち、温かくなることの功罪でむしろトータルではプラスではないかというのはこれも一つの視点だなと思いました。

第11章 カタクラシー

・人類はこれまでにも何度も危機を迎え、その度にイノベーションを起こして乗り越えてきたということ、その人類の性質はずっと変わっていないのだから今後の人類の未来も楽観的に見ることができるという結論は、この著者のこれまでの意見を統合するとそのように見ることができるような気がしてきました。
少なくともこの本を読むことで悲観主義的な視点だけではなく、楽観主義的な視点でも考える土台ができたように思います。

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