【昭和史 (上)】
中村 隆英 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4492061851/
・戦前の昭和の20年間(+その前の数年)にクローズアップして書かれていて、「もういちど読む山川日本史」や「詳説 日本史図録」でその時代の箇所を読んだ時よりもより詳しく背景を知ることができたように思います。
・当時では珍しかった自由主義者で反戦論者だった石橋湛山が設立した東洋経済新報から出版された本だからか、当時の政策等に批判的な目線の本だなと思いました。
・丸山真男の「日本の思想」でマルクス主義が日本に入ってきてから日本は政治・経済だけでなく文学や思想そのものにまで影響を受けたと書かれていましたが、そういった雰囲気がこの本でも伝わってきたように思いました。
思想に感化されて、実際に行動を起こす(コミンテルンの指示に従ったり、革命を目指したり)人たちが描かれていましたが、考え方次第でそこまでの行動を起こす、その「熱」はすごいものだと思いました。
・明治後期以降、太平洋戦争終結前の日本の政治家は頼りないイメージでしたが、原敬などの当時の政治家が採りうる範囲でうまく政治を動かしていたということが描かれていて印象的でした。
・政治家や軍人の中でもごく少数の人たちがキーパーソンとなって、その人がいるかいないかで日本の動きが良くも悪くも変わってしまうという状態では、暗殺が大きく日本の行く末を変えているなと思いました(血盟事件、5・15事件、2・26事件など)。
また、キーパーソンの独走で事態が歪んだり(松岡外相の欧州での動きなど)、コミュニケーションがとれなかったことで事態が悪化したり(日米間のやりとり)、何か一つ変わるだけでも歴史が変わっていたのかなとも考えました。
・近衛文麿は自分の意見を持たずにフラフラしているイメージだったのですが、活発に動いていろいろ事態をかき回した人物だったのだなとイメージを改めました。
・火野葦平の「土と兵隊」の引用部分など、戦争に参加した下士官の生々しい体験談の臨場感がすごいなと思いました。
・著者の「すべての機構に優越する独裁者のいないファシズムというものがあるだろうか。・・・同時に、その子となった支配形態のもとで、ソ連に近い社会体制が実現したのもまたたしかなのである。」という意見は日本の独特な体制をよく表しているなと思いました。
現代でも通じる、100%のコンセンサスを得ない状態で、グランドデザインを描かずに物事を進める日本人の特性がこの時代にもよく表れているなと思いました。