【歴史修正主義】レポート

【歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで】
武井 彩佳 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121026640/

○この本を一言で表すと?

 ホロコースト否定論を中心とした歴史修正主義とその各国の取り扱いに関して述べた本

○よかったところ、気になったところ

・歴史修正主義全般を取り扱うのではなく、その概要を示した上でホロコーストに特化してその取り扱いの歴史を記述した本だなと思いました。

・「歴史修正主義」の定義はかなり幅広そうだなと思いました。
この本のように否定的に見た定義もあれば、肯定的に見た定義もありそうです。

・「歴史的真実」と「歴史的事実」の違いの話は、以前いくつもの本で出てきた馴染みのある話ですが、他の話とも絡めるとより興味深いなと思いました。
歴史的事実は歴史家によって異なる記述になることと、歴史が政治的利益にかなうものかどうかの判断も入ることで望ましい解釈の方向性が決まることは、断ち難い結びつきがありそうだなと思いました。

・歴史が自分たちに都合が悪いものであれば、それを否定する動きが出る、というのはわかりやすい構図だと思いました。
反ユダヤ主義、ナチ擁護としての歴史修正主義が広まり、ホロコースト否定論にまで先鋭化し、ツンデル裁判やアーヴィング裁判で法的な争いになり、対象は限定的ながら法規制の対象にまでなる、というのは歴史的な発展ではなく、政治的な影響が大きいなと思いました。
同じような事例のアルメニア人虐殺や旧共産圏の弾圧はここまで進捗しなかったことと含めて、国家間の力関係・利害関係や世論の動きなどでどう変わるかが異なるということかなと思いました。

・取り扱いや進み方は異なりますが、歴史を政治マターにするというのはアジア各国でもありますし、日本でもあるなと思いました。

・陰謀論やこの本で言う「歴史修正主義」は証拠を完全には提示しないというのは面白いなと思いました。
注釈が多くても同じ文献や同じような論調の本・論文から注釈しあっているだけなのだそうです。
意見を完全にひっくり返すことではなく、他にも考えられるという可能性を示すことが目的というのも興味深いなと思いました。
広める側はともかくとして、受け止める側はそういったことを意識してなさそうだなとも思いました。

・歴史家は歴史修正主義を小馬鹿にしていて、歴史学として検討するに値しないので相手にしてこなかったこと、いざ相手にして否定や論争をしようとすると相当の労力が必要になりやる気が起きなかったことなどから、歴史修正主義は野放しにされがちなのは、なるほどなと思いました。
将来的に、AIで参考文献などの証拠固めをやりやすくなるかもしれませんが、AIで陰謀論を生成する方が強くなりそうだなとも思いました。

○つっこみどころ

・歴史修正主義への批判の一貫で、正史とされているものに異議があれば歴史修正主義と捉えるような偏狭さを感じました。
32ページでバーンズがフランクリン・ローズベルトを戦争に引きずり込んだ張本人としたと指摘していましたが、この説は現代史では割と出てくる話で陰謀論かどうかは判断に迷うなと思いました。
著者は現代ドイツ史が専門のようですが、ホロコースト以外の記述は若干怪しいなと思えました。

・ホロコーストのような大きな事例については歴史修正主義や否定論と対決できるとしても、それ以外の事例では難しそうだなと思いました。
ホロコーストを特別視して、認定された事実に対する異議も認められないというのは、政治的な利益が大きいからとしても、歴史学としては不健全なようにも思えました。

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