【ハプスブルク家の女たち】
江村 洋 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4061491512/
○この本を一言で表すと?
ハプスブルク家の女性のメイントピックを物語風に書いた本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・同じ著者の著作「ハプスブルク家」で書かれなかった時代を補完するような本かと思っていましたが、同じ時代でも女性側の視点や立ち位置で書かれていて、新たな視点でその時代の出来事を見ることができるように思いました。
同じ人物でも「ハプスブルク家」で褒めていた人物を掘り下げて、その至らない点まで書いていて、複数の視点でハプスブルク家を研究している著者なのだなと思いました。
第一章 ブルゴーニュ公家との縁組
・忍耐と逃亡の人生だったフリードリヒ三世に嫁いできたポルトガル王女のエレオノーレが、マクシミリアンを生んですぐに亡くなり、そのマクシミリアンがブルゴーニュ公国の王女マリアと結婚したことで先進的なブルゴーニュ公国の文化に触れることができ、しかし結婚後5年も経たないうちに二人目を妊娠していたマリアが狩りに出て落馬して亡くなるとブルゴーニュ公国での立場がなくなるなど、ハプスブルク家に嫁いできた女性の背景などが結構大きな影響を与えていたのだなと改めて思いました。
第二章 フィリップ美公の妻と妹
・マクシミリアン一世の息子フィリップ美公と結婚したスペイン王女のフアナが狂女として有名になるほどフィリップ美公に夢中となり、一方で娘のマルガレーテはフランスにさらわれて王子と結婚し、離縁して戻ってきて、スペインの王子に嫁ぎ、王子の死亡でまた戻ってきてネーデルラント総督になるなど、二重結婚の二組の女性の人生が対照的だなと思いました。
第三章 ハプスブルク家の「貴賤結婚」
・ハプスブルク家のパトロンでもあった豪商のヴェルザー家のフィリッピーネを見初めたフェルディナント大公が、極秘結婚をするなど苦難を経ても添い遂げたこと、ヨーハン大公が村娘のアンナとの仲を兄の皇帝に何度も反対されながら添い遂げたことなど、多産で一族の数が多いハプスブルク家の中でも有能ながら貴賤結婚であり、メインストリームを外れた、恋に生きた人たちの物語が書かれていました。
第四章 女帝の家族
・女帝マリア・テレジアが身分違いのフランツ・ステファンと結婚するために努力していたこと、そのフランツ・ステファンの女遊びも許容していたこと、家族仲円満と思いきや、子供に注ぐ愛情が著しく不公正で、次女のクリスティーネは貴賤結婚を許す一方で、四女のアマーリエは許さずに別れさせ、内政・外交ともに見事な手腕を見せていたにもかかわらず、偏った結婚政策で失敗していたことなど、同じ著者の「ハプスブルク家」の方ではあまり書かれていなかった負の面がクローズアップされていました。
第五章 フランツ帝の皇女の行方
・フランツ帝の娘のマリア・ルイーズがナポレオンの妻として嫁がされ、ナポレオン失脚により引き戻されて国内の貴族と結婚するなど、不遇な扱いだったこと、別の娘であるレオポルディーネはブラジルのブラガンサ王家のドン・ペドロに嫁いで手腕を発揮し、ドン・ペドロにひどい扱いを受けながらも国民には夫より支持され、夫の失脚後も国民に愛されるなど、生き方の違いが際立っているなと思いました。
第六章 バイエルンからの二人の花嫁
・バイエルンから嫁いできたフランツ・カールの妻ゾフィーと、その息子であるフランツ・ヨーゼフにバイエルンから嫁いだエリザーベトの確執が生々しいなと思いました。結婚時点で夫に失望して権力を握ることに集中した姑とその姑にいびられる嫁というのは、いかにもありそうな立ち位置だと思いました。
第七章 命を賭けた「帝冠と結婚」
・フランツ・ヨーゼフの後継者とされた甥のフランツ・フェルディナントと、身分違いのホテク伯爵家のゾフィー・ホテクが、周りに反対されながらも添い遂げ続け、伯父と甥の確執の種となり、最後は共にサライェヴォで凶弾に倒れるというのは、最後まで悲劇的だなと思いました。
第八章 王朝最後の皇后
・最後の皇帝カール一世に嫁いだパルマ皇女のツィタについては、フランツ・ヨーゼフも好感を持っていて、滅多に表に出ないにもかかわらず写真にも写るという喜びようだったというのは興味深いなと思いました。
その後、オーストリアを追い出されてもハプスブルク家の権威を盲信し続け、1989年に97歳で亡くなるまで復権すると考えていたというその執念はすさまじいなと思いました。