【ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉】レポート

【ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉】
リンダ・グラットン (著), 池村 千秋 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4833420163/

○この本を一言で表すと?

 未来予想から働き方の予想を導き出した本

○いろいろ考えた点

・第1部の未来が変わる5つの要因と32の現象はなかなかボリュームが多いなと思いました。
エコノミスト誌の「2050年の世界」やタイラー・コーエンの「大停滞」の記述との差異が目立つなとも思いました。
「2050年の世界」では今後ほとんど女性の進出は進まないと書いていましたがこの本ではより進むと書いてあったり、「大停滞」ではテレビの発明より後は経済に影響を与える革新的な技術の発展はほとんどない(インターネットは経済に貢献いていない)と書いていましたが、この本ではこれまで・これからの技術の発展などをクローズアップしていたり。
過去を検証して未来予測をする手法を採っていても、結論はだいぶ変わってしまうのだなと改めて思いました。

・第2部の第2章(グローバルに365日24時間働く)、第3章(人と接することなく働く)と、第4章(繁栄から締め出される)のそれぞれに該当するのは第4章に該当する人が全体の大部分を占めそうですが、経済的に何かを生み出す割合では繁栄についていけてより働かされる人と繁栄から締め出された人が、半々か前者が多いくらいの超格差社会になりそうだなと思いました。

・第3部の第5章(コ・クリエーションの未来)のように世界中のいろんな人たちと繋がって問題に対処していけるというのは昔からある良い未来像の典型例だなと思いました。
自分が貢献できる能力を身に付けて、他の能力ある人たちと何かを成し遂げるという未来は私自身も考えたことがあり、今なお胸に秘めていることでもあります。

・第3部の第6章(積極的に社会とかかわる未来)のように、仕事と社会貢献の両方をやっていく生き方は、今でもやっている人のいる素晴らしい生き方だなと思います。
私は昔、「自分が金を稼いでからいいことに使ったらいいんだ」と考えて、まず稼ぐということに焦点を当ててがんばっていたことがありますが、同時にバランスよくやっていく生き方はより人間らしいように思いました。

・第3部の第7章(ミニ起業家が活躍する未来)は、自分がミニ起業家になろうとしたことはないですが、ミニ起業家が動くことのできるマーケットプレイスやビジネスモデルはいくつか考えたことがありますので、イメージしやすかったです。
それなりにしっかりした企業とミニ起業家では、どちらでも同様に負担するコスト(経理や事務などの内部管理面、販路構築や宣伝等の販売管理面など)があることから、後者はなかなか難しそうだと思いますが、逆にそのコスト面を解決できれば成立しやすくなるように思います。

・第2部、第3部のシナリオで悲観的な未来や楽観的な未来を表現しているのはイメージしやすくて面白いなと思いました。
ただ、信用されないとしている政府や大企業経営者のケースもあればよかったなと思いました。(そこは著者の専門分野から離れるのかもしれませんが)

・第4部のこれから必要となる三つのシフトのうち、第一のシフトである「ゼネラリストから連続スペシャリストへ」というのはページ数が多めに割かれてはいますが、他の二つに比べて説得力が薄いなと思いました。
連続スペシャリストというものが、不連続な分野のスペシャリストになることが求められるという話ではないようです。
それならただのスペシャリストが広い範囲で応用するだけではないかと思いました。
著者は就業年数が現代の40年から60年以上に変化することから別分野に移行することが必要と持っていきたいようですが、例えばITの技術者が技術の変化に伴って新しいスキルを身に付けていくのとあまり変わらない気がします。

・第二のシフトの三種類の人的ネットワークの話は面白かったです。
かなり分野違いの本ですが、「思考は現実化する」に書かれてあった「マスターマインド」がちょうどポッセとビッグアイデア・クラウドの中間にあたるかなと思いました。
ポッセという自分と分野が近いいつでも相談できるグループ、ビッグアイデア・クラウドという「知人の知人」レベルで知恵を借りられる多分野のグループ、自分の安らぎの場となる自己再生のコミュニティがそれぞれ別のものとして語られているのは新鮮に思いました。
自己再生のコミュニティが他の2つと同列で語られているのは、仕事とプライベートの人的ネットワークを一緒くたにしてしまっていて違和感があり、別にして語ってもよかったと思いますが、著者は仕事とプライベートを含めた人生に必要なネットワークとしてまとめているようなので、それもありかなと思いました。

・第三のシフトの古典的なお金と消費中心の大量消費から経験や仕事以外へのシフトは「7つの習慣」に書いてある内容とかなり似ているなと思いました。
特に「第三の習慣 重要事項を優先する」で書かれている、「人には複数の役割があり、そのどれもが満たされていなければいけない」という話は、仕事中毒の人たちが子供の5分間の映像を見た時の話と通じているかなと思います。

・第1部から第3部で描かれる未来の話と、その解決としての第4部の三つのシフトの話がそれほどリンクしていないようにも思いました。
第2部の悲劇的な未来に対しての処方箋といて書かれているような印象は受けますが、第1部の32の現象とほとんどリンクしておらず、「未来の状況を概観⇒未来の状況から想定されるシナリオ作成⇒シナリオに対する処方箋」という流れで、かなり限定されたシナリオに対する処方箋にしかなっていない印象を受けました。

・全体として違和感のある記述もありますが、未来予測やそこからの想定などはハッとさせられる記述もあり、「今のままでいいのか?」という挑戦的な問題提起として成功している本だと思いました。

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