【激動予測: 「影のCIA」が明かす近未来パワーバランス】
ジョージ・フリードマン (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/415209219X/
タイトルが変わった文庫版も出ています。
【続・100年予測】
ジョージ・フリードマン (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4150504164/
○この本を一言で表すと?
前作「100年予測」と分析箇所の力点を変え、しかし結論は代わっていない今後10年を予測した本であり、アメリカがどう動くべきかの指針も書かれている本
○いろいろ考えた点
・今後10年アメリカがうまく動くためには「マキャヴェリ流の大統領」が必要と全体を通して伝えていました。(まえがき)
・アメリカが実態は帝国である共和国という自覚がなく、そのためにこの10年は失敗したと書いていました。軍の統帥権が大統領にあることと皇帝ということを結びつけているのが面白かったです。(序章、第1章、第14章)
・これまでに実績を残してきた大統領(リンカーン、ルーズベルト、レーガン)は道徳的目標を達成するために違法なことをしていた、という結論が面白かったです。(第2章)
・9.11のテロが金融危機の一因だったという論理と、大統領の政策が効力を発揮するというより「国民の期待に応えているという幻想」が効力を発揮するという結論が面白かったです。(第3章)
・アメリカの基本政策は勢力均衡(イラク対イラン、インド対パキスタン、など)で、そのための政策をこの10年で誤ったというのはなるほどと思いました。(第4章)
・テロはあくまで手段の一つであり、「テロ根絶」という達成不可能な目標を定めたことが失敗だったという結論は納得です。(第5章)
・アメリカがイスラエルに加担するのはイスラエル・ロビーが活発であることと、キリスト教保守派が擁護すること、と何冊かの本で見ましたが、それを地政学的にみる視点は新鮮でなるほど、と思いました。(第6章)
・勢力均衡のためにアメリカがイランと和解する、ということはすごく違和感がありますが、これまでにソ連や中国と組んだ実績もあるといわれると何だか納得できる気がしました。中東に関する本を何冊か読んでいても全く触れられていない可能性なので面白かったです。(第7章)
・アメリカがグルジアとコーカサスから撤退してアゼルバイジャンに戦略拠点を移す、という構想もこの本で始めてみましたが、可能であり、国益があるのならやってもおかしくないのかな?と思いました。(第8章)
・ヨーロッパではドイツがロシアに接近して他国より強大になるおそれがあり、そのために両国と国境を平野部で接しているポーランドを支援する必要があること、海洋国家のイギリスもヨーロッパにおいて二流国にならないために介入するインセンティブがあることなど、歴史的な背景や地理的な条件が一番込み入っていて興味深かったです。(第9章)
・日本が追いつめられると1930年代のようになるというイメージを海外では持たれているのかと思うと不思議な気がしますが、他国の情勢変化の文脈でみると少し納得できてしまって面白いです。「100年予測」では一切触れられていなかったオーストラリアはアメリカにとっては敵になりえない存在というのも納得です。(第10章)
・ブラジルは安定しているがアメリカの敵になることは考えにくいこと、ただ地域覇権国にさせないためだけにアルゼンチンを支援すること、という流れは他の章と比べて力が入っていないカンジがしますが、それだけ安泰だということかな、と思いました。よくベネズエラが反米だというニュースをみますが、アメリカにとってはあまり影響のないことだというのは一方通行だなと思いました。メキシコの麻薬産業と移民の問題がアメリカと距離が近いだけに重要性が高く、また手を付けられないと書かれていましたが、この本全体を通して一番対処が困難な国はメキシコなのか、と思いました。(第11章)
・他の地域に比べてアフリカへのあまりの関心の薄さに少し笑ってしまいました。(第12章)
・今話題になっているFacebookやGoogleをまったく歯牙にかけないように書かれていて新鮮でした。三菱重工が宇宙太陽光発電に210億ドル投資しているという話を初めて知りました。ネットで見るとJAXAと提携して開発しているような記事がありました。(第13章)
○所感
・全体として「100年予測」に比べて近い未来を描いているからか話が具体的で、他の本やニュースにない知見がいろいろ散りばめられていてよかったです。
・いつかアメリカとイランが和解した、というニュースが出た時には、理解できない人にしたり顔で説明できるかなと思いました。
・100年後を予測するより10年後を予測する方が難しいと最初に書かれていましたが、個人の影響力が及ぶスパンと地政学に個人が影響を及ぼせないスパンの考え方が面白かったです。
・予測される状況に対して打つべき手が根拠とともに書かれていて外交の考え方に触れられたような気がしました。