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【倒壊する巨塔―アルカイダと「9・11」への道】レポート

【倒壊する巨塔〈上〉―アルカイダと「9・11」への道】
ローレンス ライト (著), 平賀 秀明 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4560080194/

【倒壊する巨塔(下〉―アルカイダと「9・11」への道】
ローレンス ライト (著), 平賀 秀明 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4560080208/

○この本を一言で表すと?

 9・11事件に至るまでの背景を描き出した本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・「9・11」事件やイスラム世界に触れた本は何冊か読んだことがありますが、アルカイダが発足する以前から、アルカイダが発足して9・11事件に至るまでの話はほとんど知らなかったことばかりで、また読む前に想定していた内容とも大きく違っていて、これまでとは違った視点から見ることができてよかったです。

・インタビューをベースに書かれているので、どこまで内容が正確かは不明な点もありますが、テーマとして著者のアプローチ以外でここまで深く掘り下げることはできなかっただろうなと思いました。

・著者はあまりイスラム教の教義や歴史に対する知識がないように思えました。イスラム教自体について触れている記述に違和感を感じました。
ですが、それが宗教的な視点より俗な視点から書かれることに繋がり、良い点でもあるなと思いました。

・ビンラディンが金持ちの一族の者だということは知っていましたが、ビンラディンの父親が一労働者から叩き上げで建設業を立ち上げ、王族が金を使いまくって国が回らなくなるほどの借金漬けになった状態でも道路の受注を受けて成功させるなど、かなりサウジアラビアにとって重要な人物だったのだなと思いました。

・ソ連のアフガン侵攻に対抗するためにアメリカがイスラムの義勇兵をパキスタンに集め、訓練を施していたという話は別の本で知っていて、その本ではそれがビンラディンにテロリストとしてのスキルを身につけさせたと書かれていましたが、実態がかなり異なっていたということはこの本で初めて知りました。
アフガンの兵に対して、イスラム義勇兵が対して役に立っておらず、逆に邪魔扱いされていたこと、成果を上げていないのにイスラム各国から資金を流入させ、その窓口となったことでビンラディンが地位を高めたことなど、初めて知ること尽くしでした。

・ビンラディンがアルカイダを率いた主要人物で、組織化や計画立案・実行までいろいろ指導していたものだと思っていましたが、どちらかといえばお坊ちゃんというのんびりした人物で、神輿としてかつぎあげられて周りが動いていたというのは初めて知りました。
アルカイダという組織が厳格にイスラムの教義を守り、偶像崇拝に当たるようなポスター・写真などを認めなかった中で、ビンラディンの家族は割とゆるい環境にいたというのは意外でした。

・ビンラディンは資金繰りに困らずにずっと支援を受けて余裕を持っていたものだと思っていましたが、サウジ本国から縁を切られ、家族からも縁を切られてかなり困窮していた時代があったということを初めて知りました。
そんな状態でも焦らずビンラディン自身が好きな質疎な生活を送り、やがてまた資金が集まるようになっていったというのは、なかなかの第人物かもしれないなと思いました。

・アルカイダはかなりうまく組織化され、組織としての経営とテロの実行で成功し続けているようなイメージを持っていましたが、設立後しばらくはハッタリばかりで他の団体が行ったテロも自分たちがやったと宣言したりしていたというのは初めて知りました。
そんな中でもアルカイダ以外の団体のメンバーの訓練などを引き受け、影響力をつけていったというのは、かなり長期的な視野をもった組織運営だったのかもしれないなと思いました。

・この本で読む限り、アルカイダは理念が実態よりかなり先行し過ぎて妄想だけで終わるお粗末な宗教団体のように思えてきましたが、その理念がいざ行動を起こすとなった際に自爆テロなどをいくつも実行させ、アメリカ大使館や駆逐艦を攻撃するなど、かなり大きな成功を収めていくのは、かなり固まってコミットされた理念自体の強さのようなものを感じました。
「謎の独立国家ソマリランド」という本で、一番治安が悪くて過激な場所はアルカイダ系の組織がいるところだと書かれていて、この本で書かれているしょぼいアルカイダとイメージが異なるなと思いましたが、理念にコミットしたメンバーが行動に移しだすと一気に原理主義として機能しだすのかなとも思いました。

・「9・11事件」が、まるで弟を使ってかなりあやしい選挙で当選したブッシュ大統領を守るようなタイミングで起きたことなどから「アメリカ政府の自作自演ではないか」という説があることを聞いたことがありますが、そういった陰謀説が出る所以をようやく理解できたように思いました。
アルカイダのメンバーがアメリカに入って飛行訓練まで受けていることをCIAが把握していながら他の組織に情報を渡さず、FBIが1年半もアルカイダがアメリカで活動することを知ることができなかったことなど、防ぐチャンスがいくらでもあったのに見逃すことの原因が組織間のセクショナリズムにあったことよりも、政府の陰謀とした方がわかりやすくありがちだと思えそうだなと思いました。

・アルカイダやその他の団体を追う側のCIAやFBIの人物について書かれていて、この辺りの話はほとんどどれも初めて知ることばかりでした。
一番主軸となって書かれているオニールが3人の愛人を作ってオニールの葬式で対面するまでバレなかったことなど、ゴシップネタも混じっていて面白かったです。オニールがFBIの捜査官としてアルカイダを追うためにかなり強くセクショナリズムの壁を打ち崩そうと動き、それを疎まれて出世コースから外され、一度テロに会った世界貿易センタービルの保安部門にスカウトされ、「9・11事件」の被害者となるという流れは、小説でもあまりなさそうなぐらいに演出が効いた流れだなと思いました。