【フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義】
田中宏隆 (著), 岡田亜希子 (著), 瀬川明秀 (著), 外村 仁 (監修)
https://www.amazon.co.jp/dp/4296106716/
○この本を一言で表すと?
フードテックに関する世界の動向と日本の取り組みについて触れた本
○よかったところ、気になったところ
・食に関わる様々な技術や取り組みが紹介されていました。
他の最新技術に関する本や未来予測本に書かれているような内容もありましたが、それ以外の初めて触れる技術や取り組みも多く採り上げられていて勉強になりました。
・フードテックに関する取り組みを推進している人達が書いているからか、かなりの熱意を込めて書かれている内容が多く、その熱量が伝わってくるようでした。
・日本人著者によって書かれた本なので、日本の取組みや当事者へのインタビューが多く挿入されていて、身近な内容や世界の動向との比較もできてよかったです。
Chapter1 今、なぜ「フードテック」なのか
・世界でのフードテック関連のカンファレンスの開催状況と、日本の遅れについて述べられていました。
Chapter2 世界で巻き起こるフードイノベーションの全体像
・他分野に関わるフードイノベーションについての概要と、フード・イノベーション・マップや16のキートレンドについて説明されていました。
Chapter3 With&アフターコロナ時代のフードテック
・「食」が抱えてきた社会課題が新型コロナウイルスによる世界規模のパンデミックによって浮き彫りになっているそうです。
貧困層が安価な加工食品を多用して肥満・糖尿病の持病を抱える「フードデザート」がピックアップされていました。
・アフターコロナで求められる5つの領域(①医食同源、②エンタメとしての料理、③代替プロテインの拡大、④フードロス対策、⑤最前線ワーカー支援)が挙げられていました。
Chapter4 「代替プロテイン」の衝撃
・植物性代替肉の進化とそれを担う企業の取組について紹介されていました。
肉の代用品、肉もどき、肉に近い喫食体験、肉と同じ調理~喫食体験、肉以上の機能性、という代替肉の進化プロセスが述べられていました。
・植物性代替肉以外でも、糸状菌、昆虫、培養肉、微生物・発酵など、様々な方向で新技術の開発が進んでいるそうです。
・日本独自の代替肉への取り組みがいくつか紹介されていました。
この分野では日本もそれなりに進めている印象を受けました。
Chapter5 「食領域のGAFA」が生み出す新たな食体験
・「キッチンOS」という考え方が進んでいるそうです。
IoT家電やWebと共通してデータを取り扱い、連動する仕組みのことを指しているそうで、OSというよりはプロトコルと呼ぶべきであるように思えますが、既に連動して調理を管理するところまで進んでいて興味深いなと思いました。
・「食のデータ」の情報に価値があることが述べられていました。
IoT家電が情報収集し、それがビッグデータ化すれば様々な関連情報が導き出せそうに思いました。
Chapter6 超パーソナライゼーションが創る食の未来
・食のパーソナライゼーションの要素、調理・ヒト・食材の観点で、食材の小売から実食までのフローをする考え方、食のHTMLのようなデータ共通化を目指す方向性、3Dフードプリンターからスタートするフードロボティクスなど、まさに未来の食生活に繋がるような動きが既に始まっているのは興味深いなと思いました。
Chapter7 フードテックによる外食産業のアップデート
・外食産業を変える4つのトレンドとして、フードロボット、自販機3.0、デリバリー&ピックアップ、ゴーストキッチン&シェア型セントラルキッチンが挙げられていました。
フードロボットと自販機3.0が調理の自動化の領域にかなり踏み込んできていること、デリバリーを主軸に置いたデリバリー専門のゴーストキッチンやセントラルキッチンをシェアする形なども生まれているそうです。
・金融業界のフィンテックでもあったようなアンバンドル化がレストラン機能でも起こること、分散された機能を繋ぐプラットフォームの可能性、店舗に限らない「場」の可能性などについても述べられていました。
Chapter8 フードテックを活用した食品リテールの進化
・現在の食品の小売が危機にあること、新たな形の食品リテールとしてバーティカルファーミングで生産場所と販売を同じ場所で行う試みがあることなどが述べられていました。
Chapter9 食のイノベーション社会実装への道
・フードテックの社会実装へのポイントとして、①ベンチャー育成プラットフォーム、②社会実装のエコシステム構築、③新たなチャネルの登場、④食品生産の分散化、⑤新バリューチェーンの構築、が挙げられていました。
・食の共創という観点で、大学の学科として食についての学科の設立や地域との結びつきなど、既存業界に留まらないエコシステムについて紹介されていました。
Chapter10 新産業「日本版フードテック市場」の創出に向けて
・フーチャー・フード・ビジョンとして12項目が挙げられていました。
①“自らつくれること・つくること”を大事にする社会、②調理時間の価値最大化、③1回1回の食を大切に感じられる世界、④超バリアフリーダイニング、⑤食学・料理学のコアスキル化、⑥ニッチな食ニーズにも対応してくれる社会、⑦サイエンス&テクノロジーを通じた日本食文化・技の刷新・世界への発信、⑧食・料理を通じ孤独を減らす、⑨食・料理を通じた地域コミュニティーの復活、⑩食に関わる移動ゼロ化(究極の地産地消)、⑪自分ゴト化して働ける食産業、⑫廃棄しないが前提の食システム・食生活、と日本初にしてはかなりのスケールだなと思いました。
・日本でフードテックを本格的に立ち上げるための4つの提言が挙げられていました。
①共通のテーマを掲げる、②企業の枠を超えた事業創造の枠組みを構築する、③食に携わる人財の発掘と育成の仕組みづくり、④新しいバリューチェーンの構築&既存のアセットの再定義、だそうです。
・日本から世界に発信できるモノ・コトとして、4つ挙げられていました。
①課題先進国としてのポジショニング、②大手食品企業に眠る技術力・人財、③和食が持つポテンシャルの最大化と開放、④食の価値の再定義の発信拠点、だそうです。
○つっこみどころ
・第3章までの総論に該当する序盤の内容が薄く、イマイチでした。
第4章からの各論に入ると様々な情報が採り上げられていて面白くなってきますが、第3章までは読んでいて購入したことを後悔したレベルでした。
・フードテックの質的な話がメインで、量的な話があまりなく、あってもあまり根拠が述べられていないため、紹介されているそれぞれの動きの規模やその影響などが掴みづらかったです。
・フードテックだけでなく、食に係る取り組みと社会の課題を結びつける話も多かったですが、コミュニティーに係る内容などまで結びつけると範囲が広すぎて、取り組む主体との乖離が大きくなりそうだと思いました。