【フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち】
マイケル ルイス (著), 渡会 圭子 (翻訳), 東江 一紀 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4163901418/
○この本を一言で表すと?
アメリカの超高速取引をとりまく利害関係者の動きを書いた本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・市場にシステムを通じて迅速に取引をする業者がいるということはかなり前に聞いたことがありましたが、現代的なそのやり方や実態についてある程度理解でき、すごいことになっているのだなと思いました。
・この本で登場する人物それぞれに癖があり、通常と異なる行動を取る人物の話が複数書かれていることで、ノンフィクションなのに小説のような面白さがある本だと思いました。
第1章 時は金なり
・取引所間を真っ直ぐに光ファイバーで繋ぐことで他のルートよりも速く情報を伝達できることは当然だと思いますが、その差は微々たるもので大したことがないと思いきや、そのわずかな差が超高速取引の勝敗を分けるほどだというのは面白いなと思いました。
そのわずかな差を生み出すための工事の過程がかなり緊張感のある描写で書かれていました。
注釈で取引所が移転したとありましたが、この本では触れられていなかったものの、取引所が移転することでその努力が無駄にもなりえるのかなと思いました。
第2章 取引画面の蜃気楼
・先の章でも重要人物として描かれる、ブラッド・カツヤマの経歴のカナダロイヤル銀行(RBC)の部分が描かれ、その中でシステムトレードのRBCとは異なる文化の者が入ってきたこと、取引注文を出してもそれがなかったことにされる現象が度々起きたことなど、それまでと状況が変わってきたことが伝わってきました。
規制緩和や証券取引委員会の決まりごとのスピードの観点での抜け穴などが揃うことで超高速トレーダーが原因だと分かったことが述べられていました。
第3章 捕食者の手口
・通信システムの専門家ローナンの視点でRBCのブラッド・カツヤマやロシア人の超高速トレーダーの技術者、超高速トレーダーが設立した証券市場BATSなどについて書かれていました。
2010年に起こった急激な株価の低下と直後の高騰を引き起こしたフラッシュ・クラッシュについても触れられていました。
第4章 捕食者の足跡を追う
・証券取引委員会が超高速取引について規制できない理由として、1秒単位のスピードで考えるレギュレーションNBSが全く超高速取引を想定していないことが挙げられていました。
ダークプールやフラッシュオーダーなど、不公正な取引に関わる内容にも軽く触れられていました。
第5章 ゴールドマン・サックスは何を恐れたか?第8章 セルゲイはなぜコードを持ちだしたか?
・リーマンショックより後になって、ウォール街で唯一起訴されたゴールドマン・サックスのセルゲイ・アレイニコフに焦点を当てて書かれていました。
ゴールドマン・サックスのシステム技術者として勤務していて、オープンソースを利用したのでその改善点等をアップしたり、自宅PCに送ったりしたことで訴えられ、セルゲイが行ったことを訴えたゴールドマン・サックスの担当者や裁判官が理解していなかったためにあやふやなままに有罪にされてしまったことなど、訴える側と裁く側に知識がなければまともに裁判されるはずがないという事例について書かれていました。
第6章 新しい取引所をつくる
・不正を行う取引所を回避できない構造の証券取引の仕組みに対抗すべく、ブラッド・カツヤマが自身で証券取引所を立ち上げる話が書かれていました。
証券取引所を管理できる人材であるドン・ボラーマンやパズルマスターのフランシス・チャンなどの人材を集め、証券取引の構造全体を明らかにすることや新しい仕組みをどう運営するかなど、検討と運用に必要な人材が集まっていったのはすごいなと思いました。
・investorsexchangeがそのままURLにすると卑猥な言葉に捉えられかねないので略称のiexでドメインをとった話は笑えました。
第7章 市場の未来をかいま見る
・ブラッド・カツヤマとその仲間たちがIEXを立ち上げ、運用を始めるまでの流れが書かれていました。
それ以外にもBATSやニューヨーク証券取引所が「技術的な不具合」を出して一時機能停止していたりすることがしばしばあり、解明もされないことなどが書かれていました。
・IEXが低調なスタートを切ってしばらく経ってから、ゴールドマン・サックスの良識的なパートナーの主導でIEXを大きく活用するように大きく方向転換し、他の投資会社も動きを変えていったことは、もちろん人的な要因だけでなく環境的な要因やその他の要因もあったのでしょうが、興味深いなと思いました。
○つっこみどころ
・どの取引をどの手段で行った場合に明らかに不正なのか、その線引きが分かりづらかったです。
超高速取引でそうではない取引者を出しぬける仕組みが存在し、それを利用する仕組みが導入され、その通りに動くことで不公正になっていることが問題なのだと思いますが、超高速取引自体が即不公正というわけではないようにも思えました。
BATSのような抜け道が用意されている取引所やブラックプール(証券会社内証券取引スペース)のように先回りできる取引方法が用意され、それを経由せざるを得ない仕組みになってしまっていることが問題なのだと思いました。
スピードで勝負が決まるということ自体もそれなりに不公平だとは思いますが、それだけであればある程度リスクを負っているのでまだましでしょうか。
特に区別なしに超高速取引自体を不公正なものと思わせる記述はミスリードさせてしまうのではと思いました。