【フォーカス】レポート

【フォーカス】
ダニエル・ゴールマン (著), 土屋 京子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532320429/

○この本を一言で表すと?

 3種類の集中力についての解説と訓練方法と活用法についての本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・「EQ こころの知能指数」の著者のダニエル・ゴールマンの著作だったので衝動買いしましたが、「EQ」のように脳の機能に焦点を当てながら「集中力」の様々な側面に触れられて新たな知見を得られる本だと思いました。

・インターネット、SNS、ゲームなどの近年になって出現したツールが「集中力」という点ではマイナス方向に働く側面についてところどころで触れられていました。
いつでもどこでもそういったツールに触れられること自体がマイナスになり得るなど、自分でも思い当たることが多く、今後より気を付けようと思いました。

PartⅠ 「注意」を解剖する

・集中することができるか、不安など情動に関する阻害要因があったうえでも集中できるか、などの集中するための能力が成果を出すために重要ということは、当たり前のようでその能力を獲得しようと努力することはあまりされていないなと改めて思いました。

・「現代人は注意力が足りない」のではなく、注意力、集中力の能力的な部分はそれほど変わらなくても、インターネット等のテクノロジーにより阻害要因となる要素が増加しているために有限の集中力が消費されているというのはなるほどと思いました。

・心の中のトップ・ダウンとボトム・アップという大きく2つの流れがあり、トップ・ダウンは大脳新皮質の側から入力される回路で、ボトム・アップは皮質下から入力される回路であること、それぞれ得意分野があることや、情動のハイジャックによりボトム・アップが有利になることがあるなど、「EQ」でも述べられていたことがさらに広範囲にわたって解説されているように思いました。
身体を動かす時にはボトム・アップに任せた方がよかったり、また勝手にボトム・アップで学習されたことにより、意識していても同じ過ちを繰り返したり、担当領域の分担の難しさも伝わってきました。

・「うわのそら」でいること、ぼーっとして集中できていない状態を「マインド・ワンダリング」と呼ぶそうですが、このマインド・ワンダリングの状態が創造性を発揮できる状態だったり、心を休める状態だったりするのは確かにそうかもしれないなと思いました。
集中している時とマインド・ワンダリングの状態では脳の活性部位が異なるそうですが、マインド・ワンダリングの状態に意識してなろうとすると集中している時の部位が活性しそうで、なかなかコントロールが難しそうだなとも思いました。

PartⅡ 自己を知る

・人生の内なる指針など、内面的な深いところにある「自分の内なる声」や「直観」は大脳皮質下の領域が管轄していて、同じ領域で内臓を管轄している、ということは面白いなと思いました。
「腹の底から」「肝に据える」など、内臓を使った慣用句で決意や強い思いなどを示すことを考えるとよりなるほどと思えました。

・自身を知る、他人が見るように自分を見るということが困難であり、だからこそ360度評価などの手法が重要と考えられることは、確かにそうだなと思いました。
他人に指摘している内容が自分にも当てはまることに気付かない、ということは自分も含めてありがちだなと思います。

・有名なマシュマロ・テストで子供の頃に自分の衝動を制御できる者は大人になってから成功する傾向にある、という研究結果は聞いたことがありましたが、どこか決定論的な、子供の頃の資質が人生を決めるような納得のいかない気もしていました。
その衝動の制御を訓練することができ、その研究結果も述べられていて、訓練でその結果を変えられるというのは自分としてはとても納得のいく話でした。

PartⅢ 他者を読む

・話す内容と、話している時の仕草で、それがちぐはぐだと相当に信憑性がなくなるというのは確かにそうだなと思いました。
体の発するメタ・メッセージを「読み取らずにいることはできない」というのは、本音と建前の言葉上の使い分けだけでは説得も慰めも難しいという当たり前ですが時に忘れがちなことの大きな原因だなと思いました。

・「共感」を三種類に分ける考え方は初めて知りました。
「認知的共感」はトップ・ダウン回路の機能で「他者の視点に立ち、他者の精神状態を理解することができ、他者の胸中を慮りながら自分の情動を管理することができる」というもので、「情動的共感」はボトム・アップ回路の機能で「相手が感じている喜びや悲しみと肉体的にも共鳴する」という自動的・自発的なもので、「共感的関心」はボトム・アップ回路とトップ・ダウン回路の両方の機能により「他者を心配し、必要ならば援助の手を貸すところまで踏み込む」というものだそうです。
最後の共感的関心をそれ以外と分けた意味が分かりにくかったですが、育児本能に根差した共感なのだそうです。

・共感にも二面性があり、また良い面と悪い面もあり、犯罪者と対面していて犯罪者の感覚で面白いことに対してつられて笑ってしまったり、悲惨な事故現場で被害者に共感して感情が動き過ぎて医療行為ができなかったりといったマイナスに働く面と、共感を示すことで患者との信頼関係を醸成できる医者のようなプラス面が説明されていました。

・社会的感受性、暗黙の了解を察知する能力についても触れられていました。権力の壁、地位の高低など、特定範囲の常識やヒエラルキーに従うことなど、内部にいると逃れることが困難なケースについても触れられていました。
暗黙のルールの存在を察知することと、そのルールが正当かどうかを判断すること、それ自体を客観的に見ることは異なる能力が必要なのだなと改めて思いました。

PartⅣ もっと大きな文脈で見る

・自分自身に対する集中力、他者に対する集中力とは異なる、システムに対する集中力という考え方が述べられていました。
物事の仕組みに対する集中力というのは面白い考え方だなと思いました。

・あるものを見て、それが大きなシステムの一部であることを察知する例が、ヒマラヤのある村であるコインを見つけて、当時の文明の影響範囲に気が付いたという事例として書かれていましたが、自分の触れているものが大きなシステムの一部である、という見方ができる人は少なそうだなと思いました。

・このままでいると将来どうなるのか、業界自体が不振な時の打開策は何かなど、様々な範囲で考えられそうです。
狭い範囲でも、日常的な仕事や生活の中でちょっとした違和感から問題を発見したりできそうだと思いました。

PartⅤ 理にかなった練習法

・「一万時間の法則」という、一万時間かければ一流の成功を収めることができる、という方法論があるそうですが、その一万時間の内容次第であるともっともな指摘がされていました。
同じ練習でも、その練習にどれだけ集中しているか、練習法自体も必要な内容に必要だけ集中するようになっているかなど、盲目的に時間をかければいいというわけではないという結論が出されていました。

・ゲームが集中力を消費させる、散漫にさせるという一般論に対して、「ゲームによる」という結論が書かれていました。
注意力を増す練習ができるようなゲームもあるとしていました。
ただ、そのゲームの説明だけ読むと、ゲームとしてあまり面白くなさそうだと思いました。実際にプレイすると違った楽しみがあるのかもしれません。

PartⅥ 良きリーダーの集中力

・良き意思決定者として必要なのは「活用」と「探索」の両利きであることと書かれていました。
個人・組織が持つ能力・資源を活用することと、新たな能力・資源を求めることの両方を使い分けることができなければ頭打ちになってしまうことが、ブラックベリーのRIM社を例に出して述べられていました。

・この本の主旨として当然ながら、優秀なリーダーは自己に対する集中力、他者に対する集中力、システムに対する集中力をバランスよく効果的に発揮しなければならないことが書かれていました。

PartⅦ より大きな視野を

・将来についても責任を持ち、どのように行動すればどういった望ましい結果を出せるかの事例が書かれていました。

○つっこみどころ

・マインドフルネスが重要と書きながらマインドフルネスの説明がなかったりと、専門用語についての説明がなくて分かりづらいところがありました。

・事例別に脳内のどの位置が活性化するか書かれていますが、文章だけでは具体的なイメージができなかったです。
簡単な図でどの部位かを都度示してもらえたらより理解が進んだと思います。

・PartⅤ以降、後半になるにつれ、論点がぼやけてきたように感じられました。各パートのテーマである「理にかなった練習法」「良きリーダーの集中力」「より大きな視野を」の結論はこれ、というものがよく分かりませんでした。

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