【選択の科学】
シーナ・アイエンガー (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4163733507/
○この本を一言で表すと?
「選択」のいろいろな側面について解説した本
○この本を読んで興味深かった点
・「選択」について、心理学や経済学やマーケティングなどのいろいろな見地において書かれていて、自分の「選択」やその背景についても考えるいい機会になりました。
・著者が3歳で光しか見えなくなり、高校生の頃には全盲になっているという背景の中で、視覚的な要素を含めた「選択」について書かれていて、周りのいろいろな人の支援を受けながら、自分の中で自分にない視覚の情報までを統合している著者の能力には驚かされました。
第1講 選択は本能である
・自分に選択肢があること、正確には選択肢があると認識していることが人間だけでなく実験のラットなどの動物においても生きるための努力や寿命に繋がっていて、人間は選択したいという欲求を本能として持っているという話は面白いなと思いました。
第2講 集団のためか、個人のためか
・個人主義と集団主義の文化の違いが、選択の対象や動機づけ要因、結婚観などに繋がっているという話は興味深かったです。
そもそも個人主義の歴史自体が浅いものですが、それを基にした文化が欧米圏で強く根付いているその浸透力はすごいなと思いました。
・個人主義と集団主義の違いがシンデレラ(自分たちが選択した結果がどうなるか、結婚するまでの物語)とタージ・マハル(取り決め婚で結ばれた二人が幸せに暮らし、伴侶が亡くなった後でタージ・マハルを建設した、結婚した後の物語)という違いになっているのは面白いなと思いました。
・よくある結婚式の言い回し「今この時より、幸なるときも不幸なときも、・・・」がカトリックや有名どころのプロテスタントではなく英国王ヘンリ8世が離婚して別の女性と結婚したいがために作った英国国教会の祈祷書からきているというのは面白いなと思いました。
・恋愛結婚の成功は感情的な結びつきの強さと持続時間が、取り決め婚の成功は義務の達成度が主に基準となるというのは改めて考えるとなるほどなと思いました。
・学習の動機づけも、個人主義だと自分が選択できることが、集団主義だと自分が所属する権威の意思に沿うことが重要だと子供の実験で明らかになっているのは面白いなと思いました。
・個人主義の文化圏と集団主義の文化圏に跨る多国籍企業(シールドエア社など)がその文化の違いに苦労させられることもその背景を考えれば納得です。
・金魚が3匹泳いでいる絵を見て、日本人が背景を見る(金魚だけでなく、水草や他の要素にも注意を払う)ことと、アメリカ人が個人を見る(3匹の金魚に集中)という実験の結果も特徴が出ていて面白いなと思いました。
どちらかといえば自分は個人主義よりかなと思っていましたが、この金魚が泳いでいる絵の実験では私もやはり集団主義的に見ていました。
・旧共産圏の人たちが解放されていた時には喜んでいたのに、20年以上たった今でも昔に戻ることを望む人がいるという話は面白いなと思いました。
「からの自由(自由主義的自由)」と「する自由(平等主義的自由)」の違いからこの状況を説明しているのは説得力があるなと思いました。
第3講 「強制」された選択
・バーナム効果(誰にでも当てはまる性格描写を自分だけに当てはまると思い込む効果)で予言者の仕組みを説明しているのは面白いなと思いました。
自分のことを平均以上だと思っている人がかなり多い(半分以上)というレイク・ウォビゴン効果の説明も面白かったです。
レイク・ウォビゴン効果の方は日本でアンケートを取ると低く評価されそうです(実際にそう評価しているかどうかは別として)。
・人はその他大勢とみられることに我慢できないが逸脱しているとも思われたくないこと、相矛盾する二つの認識に板挟みになる「認知的不協和」の解消のために「昔から一貫して自分はこういう人間だった」としてしまうこと、他人にどう思われているかが気になることなどを書いた章に「強制された選択」というタイトルをつけているのはなかなかセンスがあるなと思いました。
個人的には「誘導された選択」でもいいかなと思いました。
第4講 選択を左右するもの
・人間の選択を左右する「自動システム」と「熟慮システム」という脳回路があり、決めていたこと(ダイエットなど)が破られるのは「自動システム」の方が勝った結果だというのは面白いなと思いました。
・物事をパターン化して法則化する「ヒューリスティック(経験則)」とその誤用による「意思決定バイアス」はだれにでも当てはまる話だなと思いました。
この「ヒューリスティック」が「想起しやすさ」「フレーミング(提示される枠組み)」「関連づけ」「確認バイアス(すでに持っている思い込みを裏づけ、さらにその誤りを証明する情報を退ける)」などにより影響されるというのも自分も含めてありがちだなと思いました。
・決定分析の草分け的存在が自分の重要な決定についてはその理論を使わないという話はありがちで面白いなと思いました。
・著者の元生徒が「吊り橋効果」を利用して彼女にしたい女友達と一緒に早くて危険なオートリキシャに乗り、降りた時にその彼女が元生徒でなくリキシャの運転手に好意を抱いたというのは笑えました。
第5講 選択は創られる
・流行りの色やブランド、ミネラル・ウォーターなど、知らぬ間に誰かの意思で決めたものにのせられるということはありそうだなと思いました。
・コカコーラに依頼されたサンドブロムが聖ニコラスをモデルにしたサンタクロースを赤い服に帽子の太った陽気なおじさんとして書いたことが、元は背が高く痩せた姿で、服の色も様々だったという話は広告戦略の凄さだなと思いました。
第6講 豊富な選択肢は必ずしも利益にならない
・豊富な選択肢が売り上げに繋がるとは限らないという話はマーケティングの本などでよく載っていますが、元は著者が行ったジャムの実験だったというのは驚きでした。
・多数の選択肢をある知識を基に特定の集合としてとらえることで判断しやすいようにすることは有用だなと思いました。
ただ、その判断プロセスが適合しなければ、チェックの名人の記憶力が無作為に並べられた駒では逆に判断が遅くなるようなことが起こり得るので注意が必要だろうなと思いました。
・「選択することは創造である」という考え方は、選択にはときに高度な知識やスキルが必要になることを考えれば納得です。
第7講 選択の代償
・自分の子供の命や生き方を左右するような問題で、判断を誰かが行っても自分で行ってもどちらでも最善だったとは思えなくなる、選択の重い事例を読むことで、選択することの人間に痛みを与える側面をより知ることができたように思います。
・強く抑制されたものはより欲しくなり、軽く抑制されたものは自分の意志が抑制に関わることで欲求が小さくなる話は初めて知り、興味深いなと思いました。
最終講 選択と偶然と運命の三元連立方程式
・選択の力を活用するには不確実性と矛盾を受け入れなければならず、選択は本質的には芸術(Arts)だということが書かれていました。
選択の正の側面や負の側面、作為・無作為の様々な選択への影響など、複雑な要素が絡み合う「選択」は難しくありながら避けられないもので、一生の付き合いになるものなのだろうなと思いました。
謝辞
・盲目という環境は著者にとっては所与の条件で、これを克服するためにいろいろな人の助けが必要であったと思いますが、最後に夫と息子の助けに感謝して、「あなたたち二人を、言葉にできないほど愛している。」と書かれているのを見て感動しました。
ソースノート
・巻末に参考文献が載せられていることは多いですが、ソースノートとして著者が各資料からどのような知見を得たかを含めて書かれているのは読み手に親切だなと思いました。