【フィンテック】
柏木 亮二 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532113601/
○この本を一言で表すと?
フィンテックの始まりから未来の動向までを解説した本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・新書サイズながらフィンテックの始まりから将来的な技術までざっと網羅されているように感じました。
金融とITの両者に詳しい著者だからこそここまでコンパクトにできたのかなと思いました。著者が「現代の二都物語」の共訳者だったというのは意外で驚きました。
・金融の仕組み、技術的な仕組みだけでなく、UI(ユーザーインターフェース、使い勝手)とUX(ユーザーエクスペリエンス、顧客経験)も軸にして述べられているのが印象的でした。
第Ⅰ章 フィンテックが注目される理由
・フィンテックがアメリカで勃興した理由として、①リーマン・ショックで大手金融機関の不信感が広がり、金融機関のリストラで金融機関の知識を有する技術者が流出し、起業してサービスを生み出していったこと、②デジタル・ネイティブであるミレニアル世代のコスト意識が高く、大手金融機関よりフィンテック企業を志向したこと、③スマートフォン・SNSの普及によりライフログが蓄積されてきたこと、④ビッグデータ、クラウドコンピューティングによりイニシャルコストをかけずにサービスをスタートしやすくなったこと、などが挙げられていました。
・この本では特に言及されていませんでしたが、野村総合研究所が9位に取り上げられているアメリカンバンカー誌のフィンテックランキングの1位にタタ・コンサルタンシー・サービシズがランクインされていることが興味深いなと思いました。
・日本の資産構成や人口構成などから、海外のフィンテックをそのまま適合させることは困難という著者の意見は納得できるなと思いました。
第Ⅱ章 進化するフィンテック
・フィンテックをバージョン1.0から4.0に分類し、金融機関のITによる効率化を1.0に位置づけ、2.0は近年サービスが展開されている金融機能を分解した(アンバンドリングされた)フィンテック、3.0はAPIに部品化・オープンかされるAPIエコシステム、4.0はIoTなどに再統合される(リバンドリングされる)フィンテック、と定義づけされていました。
この本が出版される2ヶ月ほど前にアクセンチュアが出版した「フィンテック 金融維新へ」でも同様の定義が詳しく説明されていたので、この流用でしょうか。
第Ⅲ章 今何が起こっているのかを押さえておこう
・「金融のデジタル化」という観点を「お金のデジタル化」「情報のデジタル化」「チャネルのデジタル化」「人のつながりのデジタル化」に分解して簡潔に説明されていて分かりやすかったです。
その具体例として本人確認手段、電子マネー、アグリゲーション・PFM(金融情報の集約、UI/UXにこだわった仕様)が挙げられていました。
第Ⅳ章 金融ビジネス・実務への影響
・P2P、AI、クラウドコンピューティング、スマートフォンバンキング・トレーディング、ライフログ、トランザクションレンディング、ファクタリング、クラウド会計、銀行口座不要化、インステック(保険のフィンテック)などを挙げ、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」に紐付けていました。
第Ⅴ章 フィンテックにどう向き合うか
・第Ⅳ章の「イノベーションのジレンマ」を受けて同著者の「イノベーションの解」からイノベーションを阻害する「企業の優秀さ」を構成するRPV(経営資源、プロセス、価値基準)を打破するための方策「外部組織の買収」「社内改革」「別組織の設立」が挙げられていました。
著者の結論としてはオープンイノベーションの活用とITベンダーの立ち位置の変更(保守業者からフィンテック構築のパートナーへ)が重要とのことでした。
・法改正の必要性についても簡単に触れられていましたが、新技術・新サービスの開発がスピードアップされる中で、それらに対応できる法整備はかなり困難だろうなと思いました。
第Ⅵ章 さらに進化するフィンテック
・AI、ブロックチェーンの2技術を軸に今後のフィンテックの動向について述べられていました。
○つっこみどころ
・参考文献の記載がなく、この本しか読んでいない人はこの本の著者オリジナルの考えか参考文献の引用かを判断できないのではないかと思いました。
・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」「イノベーションの解」を取り上げてフィンテックとその興隆に直面する金融機関に当てはめていましたが、若干この理論を当てはめたいがための無理が見られ、中途半端にも感じました。