【タックスヘイブン グローバル経済の見えざる中心のメカニズムと実態】レポート

【【徹底解明】タックスヘイブン グローバル経済の見えざる中心のメカニズムと実態】
ロナン・パラン (著), リチャード・マーフィー (著), クリスチアン・シャヴァニュー (著), 林 尚毅 (その他), 青柳 伸子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4861824168/

○この本を一言で表すと?

 タックスヘイブンの歴史と経緯について追った本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・タックスヘイブンの定義が難しいこと、実態にもいろいろ種類があること、裏技・抜け道といったレベルでなく経済全体に占める影響も大きいことなど、さまざまなデータやこれまでに発表されていることなどを元に書かれていて勉強になりました。

・タックスヘイブンの存在とその弊害が明らかになってもなくせないことの大きな原因の一つは、国家が最大の組織単位であるため、それ以上に広範囲なグローバル社会では国家間の取引を完全にはコントロールできないことが原因であるように思いました。

・タックスヘイブンやマネーロンダリングとそれを規制しようという法制度や仕組みの整備について、経緯やどう動くかが示されていて、関係する専門家の考慮する内容についても触れることができたように思いました。

第Ⅰ部 タックスヘイブンの機能と役割

・タックスヘイブンの定義の違いや、その定義がそれを定める団体の利害関係から生まれることなど、「何を検討の対象とするか」の選定段階から難しい話になっているというのは大変だなと思いました。

・タックスヘイブンの類型として、「法人化の場所」「登記センター」「秘密保持の場所」「特別サービスの提供者」「市場参入の導管」「高い純資産の提供者」「税金乗っ取り屋」とわけているのは、若干重複しそうな領域もありそうですが分かりやすいなと思いました。

・タックスヘイブンを世界のマネーストックの半分が経由し、FDI(外国直接投資)の30%以上がタックスヘイブン経由で実施されているというのは想像していたよりもかなり大きな規模でタックスヘイブンが利用されているなと思いました。

・タックスヘイブンを経由した資金移動方法の具体例で、信託については法人すら必要なく、利益の計上も必要ないというのは確かにやりたい放題だなと思いました。

第Ⅱ部 タックスヘイブンの起源と発展

・タックスヘイブンが明確に成立し、影響を及ぼすようになったのが20世紀に入ってからというのは意外に歴史が浅いなと思いましたが、課税の歴史自体が浅いので当然かとも思いました。

・イギリスの裁判で居住の概念が定められ、その概念に裏道が通されてタックスヘイブンが成立したというのは、制度構築の難しさが大きく出ているなと思いました。
新しいタイプの犯罪に対して法律が後からできることと似ているなと思いました。

・スイス等の国家としてタックスヘイブンになっている地域で銀行の秘密保護義務が法律で定められているというのは国家としてそういう立ち位置にあることを選択し、舵を切ったという意味ですごい意思決定だと思いました。

・世界に広がる様々なタックスヘイブンがそれぞれの経緯でできていったことが説明されていて分かりやすかったです。
大きく大英帝国起源のヘイブン、ヨーロッパのヘイブン、新興国・新興のヘイブンと3種に分かれるというのも納得の区分だなと思いました。

第Ⅲ部 国際政治におけるタックスヘイブン

・先進国において、タックスヘイブンを利用する「Too Big To FAULT(大きすぎて潰せない)」と言われる企業や国際的な大企業が、国家と交渉できるほどの力を持ってその課税を逃れようとしているのは、利用する側の声が大きくてそれに対処することの難しさがよく分かるなと思いました。

・途上国で、その政府やトップの腐敗がタックスヘイブンを通じて守られていることなど、不正に得たお金が正常な場所で使えるようになるマネーロンダリング可能な場所があることで助長されているというのは、かなり深刻な問題だと思いました。

第Ⅳ章 タックスヘイブンの規制と攻防

・タックスヘイブン側の力が強く、黄金時代を築いていた20世紀後半のイメージはまさに元々想像していたタックスヘイブンのイメージだなと思いました。

・政府内でもタックスヘイブンを規制する側と利用する側の立場があり、複雑な構造になっていると解決するきっかけも見つからなさそうだなと思いました。

・様々な国際組織が規制する方向に動きながら、利害関係が壁となって抜け道の多い政策に終わってしまう経緯は、国家レベルでとどまらず国外も関わるとそれを強力に取り締まるための機関が存在せず、大変だなと思いました。

・世界のタックスヘイブンを取り締まる側に回りたいのに国内にタックスヘイブンを抱えるアメリカやイギリス等の国家は動きが取り辛そうだと思いました。
ヨーロッパというある程度のまとまりがあり、発言力のある団体からタックスヘイブンを取り締まる動きが出てきたというのはアメリカの自由と競争を大きく尊重する文化とはまた違うからかなと思いました。

・9.11事件やリーマンショックなどの大きな事件から、その原因の一つとなっているタックスヘイブンの取締りの動きが強くなったというのは、そういったきっかけがないとどうにもならなかったのかと思わなくもないですが、各利害関係者の利害の方向が揃う「機」がなければ動けないということも世の中の原理原則だなとも思えました。

おわりに グローバル経済における富と権力を問い直す

・タックスヘイブンの租税回避機能にはメスが入っていく見込みがあり、秘密保護機能についてはそれ自体がタックスヘイブンの一番の利益にならないのであれば利害を考える立場からなくなっていくというざっくりとした結論が書かれていました。

○つっこみどころ

・データの紹介がメインになってしまっていて、全体としてまとまりがない本になっていました。

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