【「今のロシア」がわかる本】
畔蒜 泰助 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4837976689/
○1章 世界有数の「エネルギー資源大国」 プーチンの「野望」がこの国を動かす!
・ロシアは地政学的、歴史的に常に周辺諸国との接触を持たなくてはならないグローバル国家であらざるを得ない。
⇒この背景から、国を維持・発展させるために優れた研究・教育システムが発展する
例)国際政治経済を専門とするムギモ(モスクワ国立国際関係大学)、国際問題専門のシンクタンクなど
・アメリカがロシアに一目置く理由⇒軍事用語や軍事概念についてはソ連軍参謀本部が優れており、その概念が湾岸戦争でアメリカによって利用された。
・アメリカ的な考え方、ロシア的な考え方・・・例)宇宙ステーション
⇒アメリカにとっては最高テクノロジーを使ったF1のようなイメージ⇒もちろん禁酒
⇒ロシアにとっては古い、枯れた技術で船のようなもの⇒仕事の後で一杯
・エネルギーをテコに復活を遂げるロシア⇒BRICsになぜ入っているか?(他国は人口増加傾向、ロシアは人口減少傾向)⇒世界人口の3割以上を占める中国、インド、ブラジルが成長するとエネルギー供給国のロシアも成長する、という関係
・プーチン政権はエネルギー利権などを握っていたオリガルヒ(新興財閥)を攻撃し、国家財政を立て直した。
・ロシア経済の足を引っ張るもの⇒電力不足と電力インフラの老朽化。天然ガス価格の内外格差問題(国内向け・CIS向けの価格を欧州向けの価格の10分の1から5分の1に抑えてきた⇒エネルギー消費効率悪化)
○2章 ロシアの「地政戦略」① 対テロでつながる米露の“危うい絆”
・コズレイフ外相(エリツィン政権1期目)は「ロシアはアメリカをはじめとする国際社会に対等のパートナーとして受け入れられる」と考え、欧米諸国との協調外交を推進したが、見事に裏切られ、NATO東方拡大などのロシア弱体化政策を取られ続けた。
・プリマコフ外相(コズレイフ外相の次)が取った地政戦略コンセプトは「世界秩序の多極化」⇒プリマコフ・ドクトリンと呼ばれ、プーチンにも継承されている。
プリマコフ・ドクトリンの2つの柱
①「対テロ」を軸にアメリカと戦略的関係を構築
②エネルギーを軸にドイツと戦略的関係を構築
・アメリカのユーラシアにおける戦略コンセプトが9.11テロ事件で大きく変わった。
⇒対ソ連・対ロシアから対テロへ(事件後すぐにプーチン大統領はブッシュ大統領に電話をかけ、全面協力を申し出た)
⇒ロシアの協力はプリマコフ・ドクトリンから考えると当然の路線。
・実は冷戦直後に米露の戦略的構築が検討されていた⇒ネオコン(新保守派)の「ユーラシアに新たなライバルを出現させない」という戦略により、プリマコフの構想が妨げられた(ウォルフォウィッツ政策担当国防次官、チェイニー国防長官が主導)
⇒協調路線が閉ざされたため、ロシアの原子力産業の平和利用分野でアメリカと提携できず、別路線としてイランのブシェール原子力発電プラント建設契約を締結することに。
⇒更に、9.11事件後の米露協調路線もネオコンの対テロ戦争の対象範囲拡大(アフガニスタンなどの中央ユーラシアから中東地域全域へ)によりまた悪化。プーチン大統領は最後までイラク戦争回避路線
・ネオコンが米露協調路線を排したい理由はイスラエルが中東和平で不利な立場に追われることが理由?
・「東欧地域での地政戦略上の戦い」と「中東地域での地政戦略上の戦い」の間に相互作用性がある。(この本全体を通して検討される理論)
○3章 ロシアの「地政戦略」② これがロシアの「対欧州戦略」のシナリオ
・米シンクタンク・戦略国際問題研究所のブガスキー氏によると、プーチン・ロシアの地政戦略は、①対テロ戦争協力でアメリカとの対立回避②ユコス事件によるエネルギー資源への国家統制最強化③東欧地域での影響力回復④EU-ロシアによるユーラシア同盟の構築
・ウクライナの「オレンジ革命」⇒親米派の政権樹立。
・ヒューストン裁判(ロシア政府のユコス抑圧に対してユコス経営陣がアメリカのヒューストン裁判所にユコス子会社のユガンスクの自己破産申し立てによる売却差し止めを請求)⇒請求から2日後に差し止め命令を出した。
⇒中国の国営石油会社CNPCが中期融資を申し出た。
⇒ドイツのドイチェ・バンクがヒューストン裁判に異議申し立て。ロシア側の弁護士にベーカー&ボッツ(ベーカー元国務長官の一族の大手法律事務所)⇒ベーカー氏は反ネオコン派であり独露側に加担⇒ヒューストン裁判の判決は棄却され、独露側の勝利に。
・ロシアのイランの核平和利用推進に向けた「核燃料リース方式」・・・核燃料の供給と利用後の引き取りを管理する方式。(他用途に利用させない)⇒ブッシュ大統領も支持。
・2005年の親米か新露で割れたドイツ総選挙⇒独露協調路線に反対していたメルケル首相がプーチン大統領に「戦略的関係を発足させよう」と述べ、「北欧ガスパイプライン建設」で合意。
・2006年1月に買い取り価格引き上げに要求を受け入れないウクライナへの天然ガス供給停止を実施⇒欧州諸国のロシア警戒論に。
○4章 ロシアの「地政戦略」③ 核、テロ、パレスチナ―中東情勢を巡る“ロシアの思惑”
・1993年に米露間で「メガトンからメガワットへ」協定を締結⇒ロシアに不利な条件⇒1997年には既に「核燃料リース方式」の提案あり⇒2005年にやっと結実。公式発表へ。
・ロシアはイランとシリアに深く関与しており、CIS以外の唯一の海外軍事拠点をシリアにおいている。
・アメリカはイラン向けMDシステムをポーランドとチェコに置こうとし、ロシアは「ロシア向けの対策である」と反発。
⇒2007年に米露賢人会議が設立され、MDシステム構築についても対話がなされた。
・2007年11月末に中東和平会議でイスラエルとパレスチナの和平交渉の再開を目的とした対話が米アナポリスでなされた。
⇒11月中旬にロシアのプリマコフ氏が中東諸国を歴訪し、アラブ諸国に参加を呼び掛けていた。
⇒2008年にシリアも加えて開催するする第2回の中東和平会議がモスクワでなされた。
・ロシアのプーチン大統領は2007年に旧ソ連・ロシア指導者としては64年ぶりにイラン首都テヘランを訪問し、イラン側指導者と会談した。⇒イラン側は再開するオプションを保持しつつも、核開発計画を停止していると宣言した。
○5章 ロシアの「地政戦略」④ 「マネーロンダリング」と戦うプーチン
・リトビネンコ変死事件(2006年にロンドンでFSB元中佐が放射性物質の被曝で死亡した事件)の真相
⇒発覚後間髪入れずにプーチン大統領を批判する遺書が配信された。
⇒英国PR会社の会長ベル卿の仕掛け⇒ベル卿はプーチン大統領の政敵ベレゾフスキーのアドバイザーを務めていた。⇒背後にネオコンの影も。
・冷戦末期のソ連と米CIAの死闘の歴史
1979年末ソ連軍がアフガニスタンに侵攻⇒1981年にCIA長官に就任したケーシー氏がサウジアラビアやパキスタンの情報機関と緊密に連携しつつ、アフガニスタン国内のムジャヒディーンやイスラム諸国からのアフガン義勇兵に武器や資金を供与。⇒1986~1987年の石油価格の暴落(サウジに石油を増産させて意図的に暴落)⇒ソ連の財政状況悪化。
ポーランドを初めとする東欧ユダヤ人を中心とした地下ネットワークにイスラエルの情報機関「モサド」から「ラットライン」と呼ばれる連携をケーシー長官が利用してポーランドの反政府組織を支援。
・BCCI(Bank of Credit Commerce International)の国際資金洗浄ネットワークを利用したケーシー長官の対ソ秘密工作
ネットワークの主要な部分を担ったユダヤ系スイス人のラパポートはBoNY-IMB(Bank of New York-Inter Maritime Bank)を率いる石油トレーダー兼金融家
・サウジやアブダビの王族はBCCIの大株主だった⇒9.11事件の犯人のほとんどがサウジ人だったことからサウジは軌道修正し、ロシアと接近した。⇒エネルギー関係で協力関係を構築⇒ロシアからサウジへの兵器売却も検討されている。
・2005年4月末にソ連・ロシアの代表者として初めてプーチン大統領がイスラエルを訪問⇒イスラエルに亡命していたオリガルヒの問題で交渉したと考えられる
・ロシアのイスラム教徒、ユダヤ教徒への緩和政策⇒アメリカ・サウジ・イスラエルを国際資金洗浄ネットワークから切り離す基本戦略
・地政学の父、英国のマッキンダーによる「海洋大国 対 大陸大国」の仮説
東欧を支配する者がユーラシアを制す
ユーラシアを支配する者が世界―島を制す
世界―島を支配する者が世界を制す
⇒この地政学仮説が独露同盟を阻止するためのインセンティブに。
○6章 メドベージェフ大統領就任 「院政」を選んだプーチンの“もくろみ”とは?
・2008年3月2日のロシア大統領選挙でメドベージェフ大統領就任
⇒サンクト・リベラル派には強いがシロヴィキ派とは一線を画するため、シロヴィキ派にも強いプーチン首相の支援が必要となる。
・2008年2月8日にプーチン大統領が「2020年までのロシアの発展戦略」という最後の演説
⇒「一定の成果を収めた」と自己評価しつつ、経済のハイテク化とそのための大規模な人的資源への投資が必要と述べる。
⇒プーチン氏が首相として自ら経済のハイテク化を推進すべく、積極的な役割を果たすという宣言
・「産業・交通ならびにテクノロジーの発展問題に関する政府委員会」での7つの解決すべき課題
①産業分野の発達。機械産業や自動車産業をハイテク化し、国際競争力のある産業に育成。
②鉄道や道路、港湾設備などの交通・運輸分野のインフラ整備。
③通信分野の発展。現在の通信関連インフラはソ連時代に整備されたもの。グロナス(全地球航法システム)の活用。
④サイエンス&イノベーション。ハイテク産業の基礎となる基礎科学を活発化。
⑤宇宙関連産業の発展。通信産業の発展(グロナスの活用と密接)
⑥原子力産業の発展。2020年までに電力発電量を現状よりも66%増やす国家目標の達成を目指す。
⑦軍需産業のさらなる発展。現在の国際競争力は価格面の優位性が大部分であり、ハイテク化が不可欠。