【幸せな未来は「ゲーム」が創る】
ジェイン・マクゴニガル (著), 妹尾 堅一郎 (監修), 武山政直 (その他), 藤本 徹 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152092297/
○この本を一言で表すと?
ゲームの仕組みを分析し、現実に活かす方向で考えられた本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・ゲーム自体の説明から現実を使ったゲーム、そして現実を変えるゲームという流れで書かれていて、上手い構成だなと思いました。
各部が繋がっているものの、それぞれ異なるテーマといえるほど内容が違っていながら、どれも興味深く面白い内容でよかったです。
・最後まで「ゲーミフィケーション」という言葉が使われていなかったので、何か別の訳語が使われていたのかなと思いましたが、解説で安易にゲームの要素を使用して目的を達成しようとすることが、ゲームの楽しさ自体から逸れてしまうことだと書かれていて、なるほどと思いました。
振り返ってみると、ゲームの要素を応用という方向ではなく、ゲームそのものの領域を広げて現実を変えようという試みで終始一貫されていて、見事だなと思いました。
・原題が「現実が壊れている」だったところを邦題はかなり柔らかい表現になっていました。
内容と不一致という訳ではなく、副題を活かしたタイトルで、手に取りやすくなっていたのではないかと思いました。
・事例となるゲームについて丁寧に説明されていて、自分はプレイステーションとセガサターンの選択で後者を選び、それ以降のビデオゲームに触れることがなかったためにゲームから遠ざかることになりましたが、それでもこの本に紹介されているゲームの内容についてよく理解できました。
はじめに リアリティ・イズ・ブロークン
・最初から、ゲームに比べて現実は不完全だと挑戦的に書かれていました。
「ヘロドトス」に書かれた3,000年前のリディア人のゲームが、飢えを紛らわせて18年間の飢饉を乗り切る助けとなったという故事は興味深いなと思いました。
<第1部 なぜゲームは人を幸せにするのか>
第1章 ゲームとは?
・「ゲーム」に共通する4つの要素として、「ゴール」「ルール」「フィードバックシステム」「自発的な参加」が挙げられていました。
技術的な複雑さや、ゲームにかける長さなどの要素を取り除いた上での共通要素がこの4つになるのだそうです。
ゲームはプレイする人の能力をフルに使い切るハードさがあり、その壁に自発的に取り組むことで感情が活性化され、前向きな感情が生まれるのだそうです。
第2章 「幸せエンジニア」の登場
・ミハイ・チクセントミハイが注目した「フロー(何かを創造的に達成することや高度な能力を発揮して満足した、爽快な感覚)」を体験することは、通常ものごとに習熟して初めて可能と考えられていたところ、ビデオゲームでは誰もが「フロー」をすぐに体験できることを、ジャズピアニストで社会学者のデビッド・サドナウがブロック崩しゲームの「ブレイクアウト」をプレイし続け、その体験を本にしたことを事例として説明していました。
・人が幸福感を得るには外発的報酬より内発的報酬の方が望ましく、特に「満足のいく仕事」「成功体験」「社会的なつながり」「意味」の4種の内発的報酬が効果的であり、これらを優れたゲームは与えてくれると書かれていました。
この章の後の第3章から第6章でこの4種の内発的報酬それぞれについてゲームがどのように与えるかが書かれていました。
第3章 より満足できる仕事
・「ワールド オブ ウォークラフト(WoW)」というゲームを例として、500時間以上もこのゲームをプレイするゲーマーがたくさんいること、それらの人たちは、仕事の時間を半分にされることを喜んでも、WoWをプレイする時間を半分にされることは、ゲームの結果が同じでも嫌がること、レベル上げやチームプレイに着手することが満足できる仕事であることが述べられていました。
第4章 楽しい失敗とより高い成功への期待
・ゲームでは失敗すらも楽しめるように設計されていて、成功に向けてモチベートされ、誰もが成功体験を得られるそうです。失敗を恐れない仕組みづくりができればゲーム以外でもいろいろうまくいきそうに思えました。
第5章 より強力な社会的つながり
・ソーシャルゲームのような他者との関わりを前提としたゲームはもちろんのこと、WoWのような8割以上は1人でプレイするようなゲームでも、他者と同じ空間を共有していると感じる、「独りで一緒にプレイする」という感覚にあること、様々なシチュエーションで、他者と緩やかな関わりを感じ続けることで社会性も醸成されることなどが書かれていました。
第6章 自分の存在よりも大きな何かの一部になる
・「ヘイロー3」という宇宙からの侵入者と闘うゲームで、このゲームのユーザーが合計で100億の敵を倒した時、プレイしていた人たちが感じた「意味」について書かれていました。
多くのプレイヤーが長時間関わったこのゲームで達成した目標、各プレイヤーがそのゲームをプレイした記録が残され、閲覧できるようになっていること、壮大な世界観など、人工的な舞台・ゲーム作成者によって与えられた目的でもそれに「意味」を感じることで内発的な幸福を味わえることが述べられていました。
<第2部 現実を作り変える>
第7章 代替現実の効用
・「代替現実ゲーム(ARG)」の説明と事例が挙げられていました。
家事をこなすことを「クエスト」として、家族間で競争する「チョアウォーズ」の仕組みは面白いなと思いました。
真剣にプレイする者同士なら、この本の著者の夫婦のようにゲームに勝った者と家事を多く相手にやってもらった者の両者が勝利者になることも可能だと思いました。
・学校のカリキュラムを「クエスト」としてゲームのように学校生活、授業に取り組んでいく「クエスト トゥ ラーン」の仕組みは、実現できたらかなり有効だろうなと思いました。
ただ、その「クエスト」を、授業のカリキュラムを過不足なく組み込むように設計するのは、ゲームを設計するのと同じかそれ以上の労力ではないかと思えました。
・「スーパーベター」で病気に対する姿勢、リハビリ等をゲーム化して取り組むというのも、設計がかなり難しそうですが、うまくハマればかなり前向きに闘病生活に取り組めそうだと思いました。
第8章 現実生活でレベルアップする
・現実生活で、必要なことを行うためのモチベーションを向上させるためにゲームを取り入れた事例が挙げられていました。
空港のセキュリティに並ぶという苦痛な作業を、ゲームの要素として(どの空港に並んでいるかをGPSで認識して)ゲームに組み込んだ「ジェットセット」や、飛行機が苦手な人が別のことに集中できるようにすれ違う飛行機同士でチーム戦を行う「デイ イン ザ クラウド」など、不快に思えるシチュエーションをゲームの要素にして楽しみに変えるという試みは興味深いなと思いました。
・「ナイキプラス」のように運動した結果をアバターに反映する仕組みや、「フォースクエア」のように外出していろいろな場所にいくインセンティブを与える仕組みも興味深いなと思いました。
第9章 見知らぬ人と楽しむ
・ゲームを使って見知らぬ人とのコミュニケーションをいろいろな形でとる方法について述べられていました。
「コンフォート オブ ストレンジャーズ」のようにゲームをプレイしている人がお互いを知らなくてもすれ違うだけでそれぞれに影響を与える仕組みは興味深く、この仕組みが自分やプレイしたことがないですが「ドラゴンクエストⅨ」のすれ違い通信などで採用されたのかなと思いました。
・世代の異なる見知らぬ人同士で、共通点を探し合う「バウンス」というゲームは、共通の目的があれば見知らぬ人同士でも、世代が違っても、楽しくやり取りができるということをうまく活用したコミュニケーションツールになっているのだなと思いました。
うまく状況を設定すれば、日本でも介護施設で活用できそうな内容だと思いました。
第10章 幸せハッキング
・ポジティブ心理学の研究の結果、広く推奨されている「見知らぬ人に親切行為をする」「死について考える」「踊る」という3つのアクションを実践するためのゲームが紹介されていました。
「クルーエル2Bカインド」というゲームでは、「心からの歓迎」「褒め言葉・感謝」「ウィンク・微笑み」をジャンケンのような関係として、「善意で殺す」というサバイバルゲームのようにして善意溢れる空間を作るのだそうです。
・「トゥームストーン ホールデム」というゲームでは、墓石をトランプの札に見立てて、墓石の形をスート、没年の最後の数字をカードの数字としてプレイするのだそうです。
このゲームを行うには墓地を掃除しなければならず、敬虔なアメリカ人でもめったに墓地に行かないところを、積極的に墓地に足を運ぶようにして、死について考える機会をつくり、また墓地の保全にも資するという内容なのだそうです。
不謹慎だと捉えられそうですが、元々墓地は生きている人のために造られた施設として、アメリカだけでなく各国で受け入れられたそうです。
・「トップシークレット ダンスオフ」というゲームでは、ダンスについての課題を設定し、そのダンスをアップすることで踊る機会をつくろうということで、他の2つに比べると通常のゲームに近いように思えました。
<第3部 大規模ゲームはどのように世界を変えられるか>
第11章 エンゲージメントエコノミー
・イギリスで国会議員が恒常的に経費の不正請求を行っていることの証拠を突き止めるため、「ガーディアン」紙が主催した「地元選出議員の経費を調べよう」というゲームが、数々の不正請求の証拠を確定していった仕組みはすごいなと思いました。
100万枚の領収書等の書類を分担し、それぞれの重要度を分類する作業をそのゲームの参加者が行い、その結果のランキングが表示されるようにするなど、まさにゲームの4要素「ゴール」「ルール」「フィードバックシステム」「自発的な参加」が活かされた仕組みだなと思いました。
ウィキペディアのような参加型の仕組みもこの「地元選出議員の経費を調べよう」と同じような構造で、スポットではなく長期継続的に参加が進み、結果が出され続けている仕組みなのだなと思いました。
・プレイステーション3の処理能力をタンパク質の分析に活用する「フォールディング@ホーム」プロジェクトのように、ゲームという形を取らなくても、社会の役に立ちたいという欲求を満たす仕組みを用意するという試みは興味深いなと思いました。
第12章 実行不可能なミッション
・「エピック・ウィン(偉大な勝利)」を得られる機会を与えるゲームについて述べられていました。
「ジ・エクストラオーディナリーズ」というゲームをインストールすると2分でできるボランティア活動などが指示されるそうです。
隙間時間でソーシャルゲームをやる、という行動そのままにそれがボランティアに繋がるというのは、短時間でできるボランティアの設計がかなり困難そうですが、興味深い取り組みだなと思いました。
・「グランドクルー」は、PosX(ポゼックス。ポジティブな経験)というゲーム内通貨を誰かの助けになることで貯めていくという仕組みだそうで、これは助けを求める側の意見を集めるプラットフォームの設計や、それを達成する側とのマッチングなどの設計が大変そうだなと思いました。
・「ロストジュールズ」というゲームは、実際にエネルギー使用量が減るとなった時にどうすべきかということを、節約した分をポイントとして考えるゲーム要素を組み込んだプロジェクトとして行い、その節約方法を真剣に考えるという目的を達成する仕組みだったそうです。
第13章 協働のスーパーパワー
・アメリカの若者がゲームに使う時間は1万時間くらいだそうで、1万時間あれば相当の習熟が見られること、つまりアメリカの若者はゲームを通して何らかのスキルに習熟している存在であること、ゲームを通して協働することに習熟していることについて考察していました。
そのスキルを活用するゲームを、北京オリンピックの時に架空の古い競技を解明し、その競技で最高の記録を出すことを目指すプロジェクトとして著者が関わった話が述べられていました。
世界中を舞台にして様々な要素を仕込んで、それが解明され、競技の習熟も進んだというのはすごい話だなと思いました。
第14章 みんなで現実世界を救おう
・現実世界を救うために必要な考えを醸成する、もしくは行動を起こすゲームについて書かれていました。
「ワールド ウィズアウト オイル」というゲームでは、石油が使えなくなった世界を仮定して、どのような世界になるのか、どのような技術が必要となるのか、どのようなコミュニティが形成されるのか、などを参加者が真剣に取り組んで、その知見がまとめられることになったそうです。
・「スーパーストラクト」というゲームでは、人類という種の存続限界点を23年後に設定し、その理由として5つのスーパー脅威を設定し、自分がどのように成長してどのような技術を身につけ、どう対応するか、それによって人類の存続限界点をどれだけ伸ばせるか、ということを考える内容だったそうです。
10年後を予測する団体が主催したゲームで、このゲームの結果がその団体のレポートとして採用されたそうです。
・「イヴォーク」というゲームでは、10年先の未来という設定で、グラフィック述べるという形で背景が語られ、どのようにアプローチするかを考えさせる内容になっているそうで、何シーズンも回を重ねて行われているそうです。
それぞれのゲームが、現実世界で何ができるかという大きな議題について、一人ではなくゲームに参加する者たちが共同して携わるという枠組みとして機能している、もしくは機能させようとしていることが印象的でした。
○つっこみどころ
・各章で述べられている「現実修復法」は、各章の内容を一言で表す内容なのでしょうが、いまいち頭に入ってこず、特にこの本に盛り込まなくてもよかったのではないかと思えました。