【住友銀行秘史】レポート

【住友銀行秘史】
國重 惇史 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062201305/

○この本を一言で表すと?

 イトマン事件当事者のメモを基にした回顧録の本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・1990年から1991年にかけてのイトマン事件に至るプロセスと結末が書かれていました。
当時、事件の名前がテレビでやっていたのを何となく憶えていますが、どういった事件かは全く把握しておらず、25年経った今になって初めて知りました。

・「イトマン事件関係略図」や「主要登場人物一覧」が充実していて、どういう立ち位置の人なのか振り返るのに便利でした。

・当時の銀行と企業、政府、マスコミなどの関係がよく伝わってきました。イトマン事件を含めた経済事件や制度改革が何度もあって今に至っているわけで、まだバブル期と言える当時の感覚のようなものが何となくつかめたように思います。
特に「雅叙園観光」という名称の企業を、裏を取らずに雅叙園の所有者と思って何百億と投資するなど、うまい話と思えれば即動く当時の風潮や、株主総会に総会屋が絡む等の企業と裏社会の関係なども見えて面白かったです。

○つっこみどころ

・帯に「・・・裏社会の勢力と闘った・・・銀行を愛してやまない・・・」とありましたが、著者のやったことは告発文書を各所に送ったこととマスコミと連携したことくらいで、「裏社会の勢力と闘った」はかなりの過言ではないかと思いました。
「銀行を愛してやまない」も、かなり後付け臭く、微妙だと思いました。

・著者の手帳のメモに基づき、そのメモについてのコメントを記述するという形式で書かれていましたが、かなり客観性に欠けるなと感じました。
特に著者と他者との関係性のところで、重要人物と著者の関係が深いと思えるように書かれていましたが、それらもかなり後付けの所がありそうでした。
例えば、大蔵省の管理職とかなり関係が深いように書かれていましたが、イトマンに会社更生法を適用しようと画策したときにそれを大蔵省が止めようとしたことに最後まで気付かず、頭取等に止められて「自分は不愉快です」と告げて立ち去ったシーンがありましたが、大蔵省との関係が密ならばあり得ないことではないかと思いました。

・この本を出版した時点で著者が71歳頃、この事件の主要な当事者が著者の10歳くらい年上なので80歳前後、既に亡くなった人もいます。
この時期にこの本を出版したのは、登場する当事者がこの本を読んで解釈して反論できる能力が厳しくなってきた頃を狙ったのではないかと邪推してしまいました。

・都度「自分だけは違う」「自分だけが正しい動機で動いていた」というコメントがあり、著者の出した告発文書について「整然とされた見事な文書だった」と送られた当事者から言われたようなコメントも数回あり、この本全体を通して著者の承認欲求がこれでもかと溢れていたように感じました。
著者が取締役を最後として常務にもなれずに住友銀行から出向になった経歴の傷を、自己弁護で取り返したかったのかなとも思えました。
社会で半端に成功して、自己認識が実際の経歴を過剰に上回っている人が「自分は周りで考えられているよりすごかった」と武勇伝を語りたがるという典型パターンでしょうか。

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