【現代スペインの経済社会】
楠 貞義 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4326550678/
○この本を一言で表すと?
大航海時代から現代までのスペインについて経済の視点から書かれた本
○この本を読んで面白かった点
・PIGS、PIIGSなどと呼ばれ、ギリシャやポルトガルと並んでEUのお荷物と考えられている国の一つだと考えていましたが、経緯や対策と2011年時点の状況を知ると、それほど悲観しなくてもよい国ではないかと思いました。
・スペインの経済を考える上でヨーロッパ全体との関係を外すことができないという著者の視点はうなずけるなと思いました。
・第二次世界大戦で一応は中立国という立場をとったものの、ドイツに近い立場だったことから各国からアウタルキー(経済制裁)を受けて戦後しばらく孤立していたこと、冷戦により浮上したことなどは日本と似ているなと思いましたが、敗戦国ではなかったことからフランコの独裁が続き、国民への弾圧などがあったもののアウタルキーを見越した政策を予め採られていたことなど、なかなか一面的な判断が難しい国だなと思いました。
・フランコの死亡後にフランコの膝元で幼い頃から育てられた王子フアン・カルロスとフランコ主義者と目されていたアドルフォ・スアレスによって、フランコ主義が続くと思われていたところが国民主義と法治主義を進める方向に進んだという話はなかなか興味深いなと思いました。
・EC加盟のために課された「経済安定化計画」にフランコが対応しようとしたこと、フランコ没後もその方向に進んだことでスペインの経済的な体制は民主化より先に整っていたことはなかなか興味深いなと思いました。
・EC加盟のための条件、EU加盟のための条件、ユーロ採用のための条件など、高いハードルに急ピッチで対応しようとし、それを成し遂げていったスペイン政府の実行力はすごいなと思いました。
・スペインからの移民、スペインへの移民の多さとその経済的な影響がかなり大きいこと、スペインの歴史的な経緯から旧被支配国である中南米の国からの移民が多いことなどはスペイン独特の話だなと思いました。
・投資環境の整備と元々の国民の教育レベルの高さを活かして直接投資を集めて成長し、海外に直接投資をする側に移っていったという話はなかなかうまい政策だなと思いました。
ただ、地政学的に有利なポジションにあったことも重要な要因だろうなと思いました。
・スペインの巨大な国営企業の分割と民営化、銀行の統合や海外進出、スパークリングワインのフレシネ社や軌間可変可能な鉄道車両のタルゴ社といったスペイン独自の企業の創出など、うまく経済発展していった国だなと思いました。
・日本から15年以上遅れてスペインにやってきた住宅バブルとその独特の背景、リーマン・ショックの直撃など、スペインが大不況に陥った状況が詳しく書かれていてなかなか興味深かったです。
その状況だけならかなり国家破綻の危険のある国だと断じていたかもしれませんが、スペイン政府が次々に有効な手を打って出口が見えるところまで持っていったところは称賛に値するなと思いました。