【ユダヤ人とユダヤ教】レポート

【ユダヤ人とユダヤ教】
市川 裕 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/400431755X/

○この本を一言で表すと?

 ユダヤ人とユダヤ教についてコンパクトに説明した本

○よかったところ、気になったところ

・200ページに満たない新書でありながら、ユダヤ人とユダヤ教について4つの観点で説明していて内容が充実していたように思いました。

・ユダヤ教の教義や信仰に関する文書の構成などについても分かりやすく説明されていました。

第1章 歴史から見る

・エルサレムから離れざるを得ない状況に置かれていき、イスラム教の興隆とともにその啓典の民として広範な地域に展開していったこと、レコンキスタなどでヨーロッパからイスラム教徒が排斥されるとともにユダヤ人も追い出され、中欧に移っていったこと、フランス革命以降には国民国家という枠組みに組み込まれていったこと、ポグロムやショアーなどの弾圧を経て戦後にイスラエル建国とアメリカ在住に二極化していったことなどが述べられていました。

第2章 信仰から見る

・ユダヤ教の信仰の基本となるトーラーが口伝トーラーであるミシュナと成文トーラーである律法に分かれ、ラビやハラハーの指導の元、法律としての位置づけも持ちつつ運用されていることが述べられていました。
その時代・地域によってトーラーの解釈を示すハラハーはイスラム教のウラマーに似ているなと思いましたが、ユダヤ教が元でイスラム教がそれに倣ったのかなと思いました。

第3章 学問から見る

・ユダヤ教ではミシュナについて内容をそのまま受け止めるのではなく、現実と矛盾する事柄などを思索してそのプロセスも含めてタルムードとしてまとめ、新たな事柄を更新していく流れになっていて、能動的な学習が求められるそうです。
ついていけない人が多くいそうにも思いましたが、このプロセスに子供の頃から触れていれば思考力が途轍もなく鍛えられそうだなとも思いました。

第4章 社会から見る

・ユダヤ教の教義と各時代の現実とをどのように擦り合わせていったかが大枠で述べられていました。
利息を始めとする経済活動に関する解釈、シオニズムなどの潮流などの概要が説明されていました。

・最後の第4節で現代のユダヤ人の定義やイスラエル国家などとユダヤ教のゆくえについて触れられていました。

○つっこみどころ

・ユダヤ教はキリスト教成立前の紀元前から存在していると思いますが、紀元後にしか触れられていないことが気になりました。
西暦70年からのラビ・ユダヤ教が研究の対象だからかもしれませんが、それ以前のエルサレムという土地に根ざしたユダヤ教も現代国家としてのイスラエル成立に関わっているので無関係ではなさそうに思えました。

・ユダヤ教を信仰しているユダヤ人という、ユダヤ人の中でも一部の限られた人たちに焦点を当てていて、マジョリティである世俗国家であるイスラエルやアメリカ在住のユダヤ教に熱心でないユダヤ人などの実態と乖離しているのではと思えました。
この本だけ読むとユダヤ人に関する固定観念が敬虔なユダヤ教徒になってしまいそうに思いました。

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