【ホンネの経済学―教科書ではわからない世の中とお金のしくみ】
グレッグ・イップ (著), 貫井 佳子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532354870/
○この本を一言で表すと?
経済学をアメリカの事例を元にわかりやすく解説した本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・それなりに前提知識がないと理解できないようなところもありましたが、基本的に経済学を学び始める人が読むとイヤにならずに経済学に入っていけそうなよい入門本だと思いました。
あまり理解していなかったり、理解していると思っていながらもあやふやになっていたことが整理されたように思いました。
第1章 繁栄の秘訣
・経済成長に「労働力」と「資本」が必要というのは知っていましたが、それに「アイデア」を加えているのは面白いなと思いました。
第2章 景気のバンジージャンプ
・景気の波はあって当然のもので、長期的に見たらそれほど問題がないというのは、実感通りだなと思いました。
・時折経済システムのエラーで落ち込んだ後でしばらく回復できないことがあるというのも、20世紀末から21世紀にかけての実感通りだなと思いました。
第3章 経済のフライトモニター
・経済成長のエンジンが「個人消費」「企業投資」「政府支出」「輸出」の4つというのはシンプルでわかりやすい分類だなと思いました。
・「個人消費」は経済における割合が大きいもののそれほど問題が起こることは少なく、個人消費の中の高額商品(住宅、車の購入等)と企業の在庫などが振れが大きくリスク要因になるというのも、景気などに左右されそうなところから納得出来ました。
・経済予測は謝ることが多いものの、アナウンス効果で経済に影響を与えるというのは一方通行でなく相互関係にあり、またそのことが経済予測を困難にしているのだろうなと思いました。
第4章 消えては生まれる職
・不景気になってくるとニュースなどで職がないと言われたりしますが、職自体がなくなることはまずなく、提示された内容に合意できない労働者がいるから失業するというのはたしかにそうかもしれないなと思いました。
完全なマッチングがありえないとはいえ、やりたくない仕事はやりたくないというのもわからないでもないですが。
・時代にそぐわない産業が雇用を減らし、成長する新規産業が雇用を増やしていくという話はたしかにそのとおりだなと思いました。
第5章 インフレとデフレ
・マネー供給より実体経済と潜在生産力の差、余剰生産力がなくなってくることで成長が鈍化していくというのはあまり知らない視点で勉強になりました。
・インフレよりデフレの方が改善が難しいというのはニュースでも言われているとおりだなと思いました。
第6章 拡大する世界貿易
・貿易それ自体はアメリカを豊かにしていても、その豊かさの恩恵が平等に受けられないといのは改めて言われてみればそのとおりだなと思いました。
・サービス貿易が拡大したことで、高いスキルを持つ労働者が勝ち組となり、スキルの低い労働者が負け組になるというのは、貿易の質の変化の側面で、興味深い話だなと思いました。
・自由貿易が国家の政治としては受け入れられにくいというのは、それによって不利益を受ける関係者の反抗などからよく分かるなと思いました。
その中でもWTOのような機関が設立され、存続しているというのはすごいことなのだなと思いました。
第7章 ボーダレス化が進む金融市場
・資金のグローバル化が選択肢を増やすとともに、利害が別れるところがあるというのはそのとおりだろうなと思いました。
為替はその上下で一喜一憂しやすいですが、長期的に見れば実情と一致するというのは改めて言われるとなるほどなと思いました。
第8章 米国大統領を支える行政機関
・アメリカの行政機関が乱立している話は別の本でも書かれていましたが、そのことが中央の集中を嫌うアメリカの体質にあっているというのは言われてみるとそうかもしれないなと思いました。
第9章 ドルはここから生まれる
・アメリカで中央銀行がなかった時代があったことは知っていましたが、その経緯を改めて知ると興味深いなと思いました。
・通貨に対するFRBの権限がかなり強く、かなり弾力的な対策が取れるというのは、その必要性があるのでしょうが、管理する少数の者にそれが委ねられているというのはリスクもありそうだなと思いました。
第10章 市場を動かすFRBの金融政策
・FOMCという会議体が存在することはなんとなく本などで知っていましたが、FRBや地方の連邦準備銀行のトップが集まって会議する重要な団体だったというのは改めて知ったように思いました。
・基本的には議長の意見が通る形式ながらも実質的な討論が交わされるというのは会議運営として結構うまく行っていそうだなと思いました。
・フェドスピークと言われるような内輪言葉が生まれるのはどのような業界でも一緒なのだなと思いました。
第11章 世界の火消し役FRB
・FRBがアメリカの最後の貸し手としてだけではなく、世界の最後の貸し手となっているというのはすごい話だなと思いました。
・ドルが世界の基軸通貨となっていることから、そのドルを管理できるFRBがその位置にあるのは考えてみれば当たり前の話かもしれないなとも思いました。
・FRBに世界中の銀行等から緊急の情報が集まってくるというのも、そうでないと対応できないことがありそうで、必要が仕組みを生むという典型例だなとも思いました。
第12章 米国経済の巨象
・歳出と歳入のバランスが悪くなることの理由の一つに、管理できる歳出と管理できない歳出があり、その管理できない歳出の中に高齢者等への福祉の費用があるというのは確かにそうだなと思いました。
広い意味で言えば、その福祉の仕組みを構築したことは国家の責任で、管理「できた」歳出でもあったのではないかとも思いました。
第13章 良い債務、悪い債務
・債務がすべて悪いものであるわけではないというのは企業でも国家でも同じで、民間の支出を圧迫させないように国家で支出する場合など、良い債務もあるというのは納得出来ました。
・債務危機に陥るかどうかは、その額やGDPに対する割合だけでなく、その国家に対する信任がより重要な問題だというのは確かにその通りで、アメリカや日本とギリシャなどの国家でかなりその要因が出ているなと思いました。
第14章 金融業界の光と影
・リーマン・ショック以降から金融業界に対する批判が大きくなっていますが、それでも金融業界が有用になっている点も否定出来ないというのはたしかにそうだなと思いました。
・金融があることで実取引自体も大きくなること、デリバティブもそれ自体はリスクをうまく回避するために使われることなど、それぞれ納得できるなと思いました。
ただ、その仕組み自体が悪用もでき、歯止めが効かない大きな災厄を起こすことがあるというのもそのとおりだなと思いました。
第15章 再発を繰り返す神経痛
・金融危機を起こす要因の中で、バブル・レバレッジ・ミスマッチなどは当然の話しだと思いましたが、選挙がその要因の中に入っていることが新鮮だなと思いました。
確かに選挙の前後でそれ以外の時期と異なる動きを政府がするというのは大いに有り得ると思いました。
○つっこみどころ
・邦題を「ヤバい経済学」などに便乗してつけたのでしょうが、やはり内容と一致しないなと思いました。
原題の「THE LITTLE BOOK OF ECONOMICS」だと直訳すると「経済学の小冊子」とでもなるのでしょうし、そのままだとあまり目を惹かないのかもしれませんが、内容に沿ってかつ目を惹くようなタイトルを考えてほしいと思いました。