【空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略】
松島 大輔 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062881632/
○この本をひと言でまとめると。
「現地化」することにより「空洞化」を阻止するという、通説から見れば逆説的な本
○考えた点
・第一章で、海外進出による空洞化(雇用の空洞化、技術の空洞化、資金の空洞化)はデータの裏付けのない懸念であること、日本は2005年以降貿易収支と所得収支が逆転している「投資国家」であることなどが書かれていて、今まで自分が認識していた空洞化に関する考えを見直そうと思いました。
・日本企業のコア技術と現地企業の技術を餡子と饅頭の薄皮に例えて、組み合わせて製品化する取り組みの話(例としてP.205~207の三菱化学のDVD技術とモーザーベアーの映画コンテンツ提供)はかなり効果的だなと思いました。
・P.144~149の「現地化のマトリックス」の話で登龍企業(海外展開高、競争力高)、臥龍企業(海外展開低、競争力高)、スーパーザウルス企業(海外展開高、競争力低)、ゆでガエル企業(海外展開低、競争力低)の4パターンが示されていて、ここでは競争力が低ければ(コア技術がなければ)かなりどうしようもない状況と描写されていて身も蓋もないなと思っていましたが、P.218~240で姉妹クラスター形成、護送船団式進出でコア技術がない企業でも海外進出のメリットを享受できる方法が書かれていてなるほどなと思いました。
・経営学や経済の本で、グローバル化の話とセットで空洞化の話がよく書かれていますが、「空洞化のウソ」では違った目線で書かれていて興味深いなと思いました。
○つっこみどころ
・建設業という特に衰退の激しい産業をもって国内市場の縮小傾向を示しているのは恣意的な気がしました。(P.56,57)
・日本企業FDIが大きく効果を上げているという話と、日本企業が中国や韓国に比べて進出できていないという話の矛盾が解決されていない気がしました。(前者は質的、後者は量的な話と個人的には解釈しましたが)
・「新興アジア」を大きく取り上げながら、タイとインドの事例以外ほとんど出ていないように思いました。(著者が活躍した場所で事例を挙げやすいためにクローズアップされているのかもしれませんが)