【桂太郎 – 外に帝国主義、内に立憲主義】
千葉 功 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121021622/
○この本を一言で表すと?
桂太郎を桂太郎自身の経歴と当時の出来事や他の人物から描いた伝記の本
○面白かったこと・考えたこと
・歴史の本などで必ず登場する「桂太郎」がどういう人物でどういったことを成し遂げたのかをようやく詳しく知ることができたように思いました。
・幕末・明治でよく小説や歴史の本でピックアップされるような人物がそれぞれ命を懸けて物事をやり通す、といったイメージが強いのに対して、桂太郎の処世術や政治力による生き方はある意味人間らしさに溢れ、ある意味では伝記で描くには人間的魅力に欠けているような印象を受けました。
自分の功績を最大限に大きく見せ、自伝でも後付けで自分に先見の明があったように書いているところは、実際にやり遂げたことは大きいはずなのに小物っぽく感じられました。
著者がかなり批判的な視点で書いているからかもしれませんが。
・幕末から日清戦争、日露戦争と日本にとって大きなイベントが続く中でその位置をどんどん高めていき、藩閥や政党や軍部などの様々な利害関係者とうまく擦り合わせて結果を残していった調整力はすごいなと思いました。
この時代に桂太郎がいなければ極端な方向に進んでいるか、制度崩壊していたかもしれません。
この本では小物っぽく書かれていましたが、書き方によっては問題なく大人物として書けそうだと思いました。
・ところどころで乃木希典が桂太郎やその周りの邪魔をしているような書かれ方をしているところが笑えました。著者は乃木希典が嫌いなのかなと思いました。
第一章 戊辰戦争、留学を経て陸軍官僚へ、第二章 政治家への道程
・十代のころから幕末の前線で士官クラスの立場で戦い、ドイツ留学で軍政と軍事を学び、陸軍官僚として順当に出世して日清戦争には師団長として参戦、台湾総督を経て陸相、という流れは当時の人間の中でもかなり恵まれた立ち位置にいたのだろうなと思いました。
長州閥の人間との付き合いや小村寿太郎との出会いなど、人脈面でもかなり恵まれているなと思いました。
良い流れに乗っているだけでなく、所々で上の立場の者に対して意見を具申して成果を出しているところから、機会を得られたらその機会を大いに活かしているなと思いました。
第三章 日露戦争に向けて
・桂太郎が明治元勲ではなくその下の世代で内閣を組閣し、ロシアとイギリスを両天秤に掛ける外交を行い、日露戦争への体制を整えるところは大変な時期に大役を担いながらよく果たしているなと思いました。
・桂太郎が自伝で自分は最初からイギリスとの同盟を自分が模索していたとしているのは、自分を取り立ててくれた伊藤博文や実際に日英同盟を実務レベルで構築していた林薫の手柄を自分のものにしようという意図が見え見えで自身の価値を下げているように思えました。
しかし、桂太郎が生きている間にはその地位を保つ役に立ったかもしれず、これも処世術なのかなとも思いました。
第四章 日露戦争と桂園体制の成立
・戦争前・戦争中・戦争後の政府の運営の苦労が書かれていました。なんとなく「戦時だから」という理由で予算もなし崩し的に通りそうなイメージがありましたが、都度折衝した上で戦時も財政が運営されていたというのは意外で、当時の戦争遂行の困難さがより一層理解できたように思いました。
・日露戦争以後の財政運営の困難さも当時の他の帝国主義国家との政治的・経済的・軍事的力関係なども影響して運営が大変そうだと思いました。
第五章 第二次桂内閣と「桂園体制」の特質
・「桂園体制」という名称から桂太郎と西園寺公望の仲が公私ともに良さそうなイメージがありましたが、私的には仲が良くても公的にはどちらかといえば対立関係にあるくらいの位置づけだったというのは初めて知りました。
そんな中でも他の利害関係者との関係も含めてそれなりにうまく回していた桂太郎の調整力はすごいなと思いました。
・韓国を併合するまでの経緯、財政立て直しなど、結果を出しながら政権運営しているところもすごいなと思いました。
・大逆事件や南北朝正閏問題など、思想的な問題まで解決しなければならなかったところは政府にとっても試練の時代だなと思いました。
第六章 大正政変前夜
・中国での辛亥革命、明治天皇死去、軍事予算折衝の緊張など、ある程度落ち着いてきている時期でも内外でいろいろなイベントが起こり、乗り越えなければならなかったというのは本当に激動の時代だなと思いました。
第七章 桂新党
・藩閥にどっぷり漬かり、大いに利用してきた経歴の中で政党政治に変わっていくことを実感して自身で政党をつくり上げようとしているところなど、桂太郎は大局的な判断ができる人物だなと思いました。
当時の政党運営と現代の政党運営では大きく異なりそうですが、構想通りにはいかなかったものの、ある程度の形になった時点で大したものだなと思いました。
第八章 桂のいちばん長い日
・桂太郎が亡くなった年にもいろいろ動きがあり、海軍で軍制改革を行った山本権兵衛に美味しいところを持っていかれて失意のうちに胃癌になり、亡くなったというのは本人にとっては悔しい話だったろうなと思いました。
・この本では批判的な視点での記述が多かったですが、桂太郎は時代に必要な資質を持ってその資質を活かしてその人生を生き、日本に大きな影響を与えた人物だったのだと思いました。