【約束の地 大統領回顧録 I 上】
バラク・オバマ (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4087861333/
【約束の地 大統領回顧録 I 下】
バラク・オバマ (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4087861341/
○この本を一言で表すと?
オバマ元大統領の一期目までの回顧録の本
○よかったところ、気になったところ
・大統領になるまでの話と大統領になってからの話がプライベートも含めて書かれていました。
家族を愛していること、バスケットボールが好きなことがよく伝わってきました。
事あるごとにバスケットボールをプレイしている描写があり、面白いなと思いました。
・政策を提言するまでの経緯とその結果などが描写されていて、アメリカの政治プロセスの実例がよく分かるなと思いました。
どれだけのことを考え、検討していたのか、オバマ元大統領の政治的実力が伝わってくるように思いました。
これだけの本を書けるということ自体すごいなと思いました。
トランプ暴露本で描写されるトランプ元大統領の姿と比較すると、アメリカの大統領の多様性に驚かされるなと思いました。
・所々でバイデンが副大統領としてポイントを押さえた動きや提言をしている描写が書かれていました。
オバマ元大統領からバイデン大統領へのアシストのような意味も込めた本なのかなと思いました。
トランプ批判や自身の政策・政治プロセスの弁護と、出版時期も含めて、ある程度政治的な意味合いもある本でもあるのかなと思いました。
・「はじめに」で二巻目も執筆予定と書かれていて、二巻目は大統領を辞めた後の話かなと思っていましたが、一期目までで終わっていました。
二期目とおそらくその後まで書かれている二巻目も楽しみです。
・「はじめに」で脚注や巻末注が嫌いだと書かれていましたが、厚めの本で最後まで本文の詰まったボリュームたっぷりの本になっていて驚きました。
アメリカで出版された邦訳本のほとんど脚注が厚めなことが多かったので新鮮に思いました。
第一部 賭け
・第一部ではオバマ元大統領がどのように育ったか、学歴や社会経験が書かれ、大統領選への出馬を決意するところまでが描写されていました。
・家族については父親についての描写はほぼなく、祖母と母親について厚く書かれていました。
祖母と母親の影響を大きく受けたということがよく伝わってくる内容でした。
・下院議員選挙に出馬した時、大敗して挫折した話は初めて知りました。
選挙活動中に母親が亡くなり、夫婦関係もぎくしゃくして大変な状況だったそうですが、その後ミシェルの反対を受けても上院議員選挙に出馬して、オバマ元大統領が有名になるきっかけになった「一つのアメリカ」演説でブレイクして大勝したのはすごいリカバリーぶりだなと思いました。
それから更に理想主義に燃えてアメリカ大統領線に出馬することになるまでのスピード感もすごいなと思いました。
第二部 YES WE CAN
・第二部では大統領予備選から大統領選挙が終わるまでが描写されていました。
・黒人であることが様々な人の希望になったり、暗殺対象になるのではないかと心配されたり、それまでにない属性の大統領候補がどのような立場にあったのかがよく分かるなと思いました。
・選挙戦での活動内容が細かく描写されていました。
どのように資金集めや票集めを行っていったか、どの州ではどのようなことがあったか等、細かい事も含めて様々なことが書かれていました。
民主党予備選で誹謗中傷も含めた熾烈な争いがあったり、オバマ支持のライト牧師が過激なアメリカ批判をして問題になったり、いろいろなことが起こっていたのだなと思いました。
・大統領本戦終盤でリーマン・ショックが起こり、その対策ができるかどうかで共和党のマケインとの差が大きく出て選挙に勝利できたプロセスが書かれていました。
第三部 反逆者
・第三部では大統領就任前から就任後数ヶ月までにあった様々な出来事が描写されていました。
・オバマ陣営で共和党の国防長官留任やヒラリーの国務長官就任など、多様な人を集めていったところはオバマ元大統領の理想主義を貫徹する意気込みが伝わってきました。
ただ、その後の一期目の大統領期間を通して理想主義を最も発揮できたのは就任までの間だったのかもしれないなとも思いました。
・リーマン・ショック対策として、それなりに時間を掛けて金融機関の財務評価を実施し、健全性を評価して、その結果ほとんどの金融機関を問題ないと評価でき、対策が進んだ話が書かれていました。
オバマ大統領一期目になって割とすぐにアメリカではリーマン・ショックのダメージが収束して、日本のほうがダメージを引きずり続けた印象がありましたが、その内幕を改めて知ることができたように思いました。
第四部 グッド・ファイト
・第四部では一期目初期の外交状況と、オバマケアの法案を通すプロセスが描写されていました。
上院のフィリバスターを避けるために5割ではなく6割の票を得る必要があり、様々な妥協やすり合わせが行われた上、ギリギリで通せた法案だったということを初めて知りました。
第五部 今ある世界
・第五部ではアフガニスタン、イラクの駐留米軍に関する様々な動きと、イランやロシアへの対応など軍事・外交面の動きが主に描写されていました。
・環境や気候変動に関して、国際協定の締結にかなり積極的に動き、コペンハーゲンの会議で合意案の支持を得るまでの各国とのやり取りが描写されていました。
第六部 苦境
・第六部では第一期序盤の様々な法案の提出とその審議のプロセスが中心に描写されていました。
・BPのメキシコ湾海底油田流出事故の始まりから収束までのプロセスが描写されていました。
原因も把握できていなかったような状況から、専門家投入と解決策の立案・実施まで、かなり優れた対応だったように思えました。
・中間選挙で民主党が大敗する流れと、大敗後に法案審議を可能な限り進めた話が書かれていました。
決められる期間が明確になっている状態で、多数党になることがわかっている共和党の妨害もありそうな中でよく進められたなと思いました。
第七部 綱渡り
・第七部ではアラブの春などの中東情勢の変化とビンラディン暗殺の流れなどが描写されていました。
・アラブの春をどの程度前から察知していたのか、エジプトのムバラク元大統領が楽観的で結局防げなかったこと、その後の混乱に繋がったこと等、国際情勢への関与はアメリカの立場でも困難なのだなと改めて感じました。
・ビンラディン暗殺の経緯がかなり詳細に描写されていて興味深かったです。
ビンラディンを居場所確定後、どのような経路でどのような手順で実施するのかを決める過程、そのゴーサインを出す過程、それを見守るホワイトハウスの状況など、緊迫感が伝わってくるようでした。
○つっこみどころ
・章のタイトルがなく、後で振り返りにくい構成だなと思いました。
下巻の各部でも時系列が前後するところもあり、期間で明確に区切られているわけでもなく、各部で特定の分野に限っているわけでもなく、そういった意味でも若干わかりにくい構成でした。
・序盤に書かれていた「一つのアメリカ」を目指す理想主義を大統領になってからも実践しようとして共和党の上院下院の議員の徹底的な反対を受け、この本の後半(大統領一期目の後半)ではその姿勢が見られなくなっていました。
法案を通す際に様々な議員の意見を受け入れて修正したためにオバマケアもツギハギの政策になってしまった印象もあります。
理想論を曲げて現実に即していく過程や妥協した理由はあまり書かれていなくて、どの場合もきれいに着地したような書き方がされていて気になりました。
・外交政策で弱腰だったとよく評価されていますが、対話を重視する外交は当時の国際情勢からもあまりうまくいっていない印象を受けました。
その辺りはこの本ではある程度ぼかして書かれているように思いました。
・政策決定過程で情緒的な判断、理由付けの描写が多かったですが、国益等より信念を優先しているようにも思えました。
実際には様々な要素を考慮してシミュレーションなども実施してそれらも踏まえて意思決定しているのだと思いますが、その前提に情緒的な決断があり、そこに紐付けるために理由付けをしているような印象もあり、国家のトップとしてそれでいいのかわからないなと思いました。
トランプ元大統領よりかなりマシだとは思いますが。