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【国家はなぜ衰退するのか:権力・繁栄・貧困の起源】レポート

【国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源】
ダロン アセモグル (著), ジェイムズ A ロビンソン (著), 稲葉 振一郎(解説) (その他), 鬼澤 忍 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152093846/

【国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源】
ダロン アセモグル (著), ジェイムズ A ロビンソン (著), 稲葉 振一郎(解説) (その他), 鬼澤 忍 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152093854/

○この本を一言で表すと?

 国家が長期的に繁栄する理由・衰退する理由について歴史を分析することで抽出し、歴史上の事例だけでなく現代にも当てはめて立証している本

○考えたこと

・ジャレド・ダイアモンド氏を含め、この本で批判されている人もこの本に賛辞を寄せているのがすごいなと思いました。

・全体として「政治学」に立脚して書かれている歴史分析の本で、かなり珍しい立ち位置でいろいろな知見が得られたようにも思いました。
人間のインセンティブとその抑制の仕組みが収奪的制度と包括的制度の差を決める大きな要素であるという主張もこの本の大きなテーマであったように思います。

・歴史上の国家等について、どのような制度であったのかが書かれ、その衰退の要因が分析されていて、著者の「収奪的な政治、収奪的な経済は衰退する」という議論の土台としての部分もかなり面白かったです。

・「包括的な制度と包括的な経済を持つ国家は好循環にのる」「収奪的な制度を持つ国家は経済が包括的であれ、収奪的であれ、衰退に向かう」という結論はシンプルですが、その包括的な制度を持つに至るまでの流れがなかなか複雑だなと思いました。

・さまざまな国家の歴史を権力者のインセンティブなどから見て、収奪的な制度の権力者は創造的破壊を避ける方向にあるというのは面白い考え方だと思いました。
エリザベス1世が自動靴下編み機の製造を却下した話は興味深かったです。その後の産業革命で労働者の反抗が起きたことを考えると、統治者の意思決定としては正しかったのかなと思いました。

・イギリスのマグナ・カルタの承認から分権化が進んでいたということ、ペストによる人口激減による西欧・東欧の分岐、キーとなる人物、など包括的な制度に至る歴史は様々な偶然の結果でもある、というのはなるほどと思いました。

第一章 こんなに近いのに、こんなに違う、第二章 役に立たない理論

・ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」で主張されている地理的条件による文明の栄枯盛衰の話(地理説)に真っ向から対立するように、各政治体制の地理的な相違が少ないにもかかわらず大きな差が出ていることを述べていました。
個人的には別に対立しているわけではなくて、文明の成立しやすさの話と、実際に支配を築いた地域と築かれなかった地域の違いの話で特に対立していないような気もしました。
文化説もそれなりに一理あるような気がしますが、無知説だけはピントのずれた意見だなと思いました。

第三章 繁栄と貧困の形成過程

・同じような地理条件、同じような民族でも政治体制が異なることでその後の流れが大きく変わり、フィードバックループにより循環的に繁栄と貧困のどちらかに収束していくことが、韓国と北朝鮮の比較とコンゴ王国を例に書かれていました。

第四章 小さな相違と決定的な岐路―歴史の重み

・ペストによってヨーロッパで人口が半分に減るほどのダメージを受け、そのせいで労働の相対的価値が向上し、西欧では労働者の権利意識が形成され、東欧ではより抑圧的な農奴制になっていったこと、さらにイングランドではマグナ・カルタなどの分権性の素養があったことが分岐点になっていることが書かれていました。
同じ刺激に対しても環境や条件が異なれば大きく異なる反応を示す、歴史的な事例だなと思いました。

第五章 「私は未来を見た。うまくいっている未来を」―収奪的制度のもとでの成長

・収奪的制度の中でも成長は可能であること、収奪的であるがゆえに成長できることがあること、収奪的であるためにイノベーションがリスクとして認識され、阻害されることがソ連やコンゴ王国などを例として書かれていました。

第六章 乖離

・ヴィネツィアやローマ帝国のような興隆した国家がその政治体制ゆえに滅亡の要因を持っていたというのはかなり一面的な見方であるように思えましたが、一理あるかなとも思いました。

・民衆に権利を与えようとしたティベリウス・グラックスが元老院の者たちに殴り殺された話は、包括的な政治に向かうことが既得権益を持つ者にとってどれだけ疎ましいことなのかを端的に表している気がします。

第七章 転換点

・エリザベス1世の時代にはイノベーションを避ける方向だったのが、名誉革命を経て、産業革命に繋がり、完全ではないながらも包括的な政治制度によって好循環が回り始め、発展に繋がる経済制度が構築されたというのが、かなり意図的でない偶然の要素もあったこと、諸条件が偶然揃っていたことという、すごいタイミングがそこに存在したのだなと思いました。

第八章 領域外―発展の障壁

・中央集権と分権のバランス、貿易の主体が国家か民間かによる発展過程の違い、民間の成長による権力者の立場が脅かされることに対する恐怖など、ここでも何に対して誰のインセンティブが働くかの違いで、大きく国家としても舵の取り方違ってきているなと思いました。

第九章 後退する発展

・帝国主義国家の植民地国家に対する「二重経済」の強制の話は包括的か収奪的かの議論とは直接の関わりはなさそうにも思いましたが、国力の格差の原因がそこにあったということで話を繋げていました。

第十章 繁栄の広がり

・包括的な政治を築かざるを得なかったアメリカ、王政を打破した考え方、市民の台頭による包括的な制度と中央集権が重なったフランスが強大な国家になっていった要因が「包括的」ということを中心にして書かれていました。

第十一章 好循環

・貴族や成功した企業家など、制度の構築にも関わった者自体が、自分たちが構築した制度に従わなければならないことを包括的な制度の大きな好循環の要因として挙げていました。
貴族の荘園に対する反発で逆らった者が裁判で有効な証拠がなかったとして無罪になり、それを貴族側が責められなかったという事例は特殊かもしれませんが、確かにこういった「法の支配」を象徴しているなと思いました。

第十二章 悪循環

・収奪的な国家において革命が起きたとしても、その革命を起こしたものの理念が正しかったとしても、寡頭制の宿命として悪政を引き継ぐ傾向がかなり強いこと、内戦による国内の荒廃も合わさってより衰退の方向に向かうことが、シエラレオネやエチオピアの独立運動などの事例から導かれていました。
他のアフリカ諸国やアジア、ラテンアメリカの事例などからもかなり説得力はある歴史的な原則かもしれないなと思いました。

第十三章 こんにち国家はなぜ衰退するのか

・現代的な収奪の形、独裁が戦前とはまた違った形で収奪が起きていることが、ジンバブエの絶対当たる宝くじ(大統領だけ)、ウズベキスタンの少年労働(学校の1年の内2、3ヶ月は綿花の収穫に向けられる。綿花の収穫に割かれる労働力の75%は児童労働)など、平等な機会の排除によって、更に収奪的な制度や経済が回り、一部の者が繁栄し、大多数の者が貧困の下に置かれる仕組みが出来上がることが書かれていました。

第十四章 旧弊を打破する

・アフリカの、どの国も収奪的な帝国主義国家から独立してより収奪的な国家になってしまった中で、ボツワナだけが包括的な制度を持つことができた経緯は興味深かったです。
天(タイミング)・地(地の利・地政学的状況)・人(個人の利より部族全体の利を考える首長)が揃っているなと思いました。

・中国も、大躍進と文化大革命でかなり衰退への道を歩んでいたところ、鄧小平の主導する政策によってまだ収奪的ながらも既存の制度による不利益を打破したことが書かれていました。
他の章では割と中国の今後の展望を疑問視する中でも鄧小平の改革については著者は評価しているようです。

第十五章 繁栄と貧困を理解する

・包括的な制度が構築される前提として、ある程度の中央集権が必要であるということを歴史の分析からの導出しているのは、確かにその通りだなと思いました。
この本で書かれている包括的であるか収奪的であるか、またその転換は予測が困難というのはこれまで読んできた中での自分の感想としてもその通りだなと思いました。
ただ、予測が困難ということと、未来に対して何もできないということは異なるという著者の意見にも同意できます。
歴史に関する本を読んでいると一人の人物の影響力が絶大であるケースが何度も出てきますが、その前提や偶然などの要素も大きいことを改めてこの本を読むことで実感しました。

○つっこみどころ

・ローマ帝国等の歴史上の政体を創始から滅亡までを後付けで考えているなかで、数百年という単位で続いた政体についても「収奪的な政治だったから滅びた」というのはかなり強引である気がしました。
かなり大きな要因ではあると納得できますが、決定論的に述べられていたので違和感がありました。
他者の説を批判しているその内容(地理説や文化説の例外を挙げて批判)もなかなか納得できる文章でしたが、その批判はこの本の内容自体にも通じそうに思いました。

・中国が収奪的な制度でありながら包括的な経済を持つ国として、長期的な繁栄は難しいと思われるという結論を出している論旨は、若干偏見も入っていそうで、創造的破壊を避ける方向にあるというのはある程度は納得できるものの違和感も残ります。

・下巻の帯に書かれている通り、第十章で日本の幕末で大久保利通がクローズアップして出てきて、坂本龍馬も出てきますが、内容はかなり偏りがあり、はっきりと間違いと言える記述もありました。(坂本龍馬が将軍に船中八策を持って迫った、とか)

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