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【日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学】レポート

【日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学】
小熊 英二 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065154294/

○この本を一言で表すと?

 日本の雇用慣行から日本社会を規定している「しくみ」を考える本

○面白かったこと・考えたこと

・同じ著者、同じ講談社現代新書の「社会を変えるには」もそうでしたが、緻密に様々な検証を突き詰めていっているので読むのが大変でした。
ただ、最後の最後で著者オリジナルの意見が打ち出され、そこが一番面白くて、読み終わった後の読後感がいい本でした。

・「日本社会のしくみ」の特徴を、明治時代からの日本と日本以外の国家の雇用慣行を比較し、各時代の有り様を述べている本でした。
本文で500ページ以上ある本で、ここまで雇用について書き切っているのはすごいなと思いました。

・これまでに何冊も近代史・現代史の本を読んできましたが、知らなかった情報が結構あり、「そうだったのか」とはっとさせられる箇所が結構ありました。

・各時代の様々な文献、一次資料や二次資料にあたっていて、他の研究者の成果を活用しながら、その研究者の導出した考えを批判しているところも多くあり、細かいところまで著者本人によって検証されていることが印象的でした。

・各章末の注釈だけでもかなりボリュームがあり、読み応えがありました。

第2章 日本の働き方、世界の働き方

・欧米企業の三層構造「上級職員」「下級職員」「現場労働者」
欧米ではこのタテの移動は難しい。でも転職など働く会社を変えるヨコの移動は簡単。
日本ではタテの移動のほうが簡単。でもヨコの移動が難しい社会。

・欧米社会の方が「学歴社会」で、修士号・博士号などの学歴がなければタテの移動ができない。
日本社会は大学までが基本の「低学歴社会」。OECD諸国で大学院進学率は底辺。

第3章 歴史のはたらき、第4章 「日本型雇用」の起源、第5章 慣行の形成

・ヨーロッパでは職種別組合が発達し、それが職種別の技能教育、企業を横断する人材につながった。
中世のギルドからではなく、労働運動が職種別のしくみと結びついて社会のしくみを作った。

・日本も高度成長前までは三層構造だったが、職務よりも学歴で処遇が決まる社会だった。
階級による待遇、給与格差はすごかった。現場労働者は日雇いて薄給。明治時代だと職員でも下級初級と上級職員で給与が500倍違うことが制度化されていた。
日本社会は官庁や軍隊のしくみを民間が模倣することで形成されていった。

第6章 民主化と「社員の平等」、第7章 高度成長と「学歴」、第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ

・欧米と異なり、戦後日本では職員と工員(現場労働者)の混合型労働組合が形成されていった。
職員と工員を包含した「社員」という呼称が定着していった。

・中卒、高卒、大卒の学歴社会が続いたが、高学歴化によって高卒・大卒も現業員に配置されるようになっていった。財界・日経連などは高学歴化に反対して進学率を下げることを提言していたが世論の猛反発に負けた。
戦後の労働運動で工員レベルにまで長期雇用が定着したため、採用が慎重化し、学校から情報を得られる利点のある新卒一括採用が一般化していった。
日本では職務を評価する客観的な基準が確立できなかったため、勤務年数と「がんばり」を評価する職能資格制度しか選択肢がなかった。

・1974年に大企業正社員の量的拡大が止まり、大学・短大の定員も抑制され始めたことから、受験戦争の激化に繋がった。
企業は「日本的雇用」の重荷に苦しみ、出向・非正規・女性社員などの「社員の平等」の外部を作り出した。
1980年代に正社員と非正規社員の二重構造が始まっていた。(騒がれだすバブル崩壊より前)

・結局、「日本型雇用」はコア部分では現在まで続いている。

○つっこみどころ

・副題が「雇用・教育・福祉の比較歴史社会学」で、序章で「雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している『社会のしくみ』を検証している」と書かれていましたが、どこまで読み進んでも雇用の話がメインで教育と福祉に関しては雇用に関わる形で学歴や社会保障などが出てくるくらいでした。
あとがきで「途中で全て書き直して雇用メインの本にした」と書かれていました。
副題が「雇用の比較歴史社会学」だといまいち売れなさそうだからそのままにしたのでしょうか。

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