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【国際メディア情報戦】レポート

【国際メディア情報戦】
高木 徹 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062882477/

○この本を一言で表すと?

 PR能力を駆使した世界規模の情報戦についての本

○面白かったこと・考えたこと

・PRというと、「自己PR」など、アピールの同義語のように使われているように思いますが、「Public Relations」の本来の意味だと、世論を作り上げたり、対象のイメージを変えたり、広報とは別方向からの情報戦略だとよくわかりました。
このPRを活用できる人・会社がどれほどのことができるのか、事例で示されていて、とてつもない力だなと思いました。

・PRは日本がかなり弱い分野で、広告宣伝と同一視するほど意識されていない分野でもあると思いました。
PRで検索すると広告大手がヒットしました。この分野について調べた著者が日本に対して警鐘を鳴らしているのも当然だと思います。

序章 「イメージ」が現実を凌駕する

・中国の反体制活動家である陳光誠の米国留学をあっさり認めた中国の意思決定の背後に国家イメージを守るという考えがあったなど、どのような「イメージ」を作るかが、冷戦中では明らかだった敵味方が分かりづらくなっていること等から、大事になっていること、その技術が重要視されていることが書かれていました。

第1章 情報戦のテクニック

・ボスニア紛争時にボスニア・ヘルツェゴビナ政府を勝たせたPR戦略について説明されていました。

・多民族国家だったユーゴスラビアを構成していたボスニアで、モスレム人とセルビア人が対立し、セルビア共和国と隣接している立地からセルビア人が優位に立っていた状況から、PR会社のルーダー・フィン社のジム・ハーフがPR戦略として「サウンドバイト」「バズワード」「サダマイズ」という3つの手法を駆使し、世界中で起こっている紛争の中からボスニア紛争に注目させ、ボスニアに勝たせたことが書かれていました。

・「サウンドバイト」はコメントを区切りやすいようにしてニュースに加工しやすくすること、「バズワード」は短いがインパクトのある深い意味を含意するキーワードを使用すること、「サダマイズ」はサダム・フセインのように敵を絶対的な悪者化することだそうです。

・シンガポールの首相であるリー・シェンロンにレポートした時、シンガポール側ではPRに関する戦略が練られていて、不意打ちの「明るい北朝鮮」と呼ばれているという質問に対してもうまく回答して見せたことは見事だなと思いました。

第2章 地上で最も熾烈な情報戦

・イメージ戦略に資金が投入され、大きく注目を浴びるアメリカ大統領選挙で、クリントン大統領やオバマ大統領のPR戦略や、敵対した大統領候補の失敗などが挙げられていました。
特にオバマ大統領の徹底した準備に基づく公開討論はすごいなと思いました。

第3章 21世紀最大のメディアスター

・ビンラディンと、アルカイダのPRを担うアッサハブの活動が書かれていました。
アッサハブのPR能力がかなり優秀で、アルカイダの活動がどのように世間にとらえられるか、どのようにメディアに放送されるかを計算し、ある程度中立的なアルジャジーラに番組の企画まで持ち出していたというのはすごいなと思いました。

・ビンラディンをメディアスターとして、世界でイスラム教の象徴・反米の象徴のように位置づけていることもすごいなと思いました。

・以前読んだ9.11事件について解説した「倒壊する巨塔」ではこのPR戦略については触れられていませんでしたが、この方向の戦略は理解していなければ取り上げにくいものなのだろうなと思いました。

第4章 アメリカの逆襲

・ビンラディンのPR戦略に対する、アメリカからのPR戦略について書かれていました。

・ビンラディン暗殺について、大統領とその側近が見守る姿をメディアに公開するなど、取り組み方のアピールもあれば、ビンラディンがAVを見ていたなど、象徴としての姿を貶める活動もあり、またビンラディンの後継者と目されていたPRに強いアンワル・アウラキとその息子も暗殺するなど、硬軟含めたアメリカの戦略の徹底ぶりはすごいなと思いました。

第5章 さまようビンラディンの亡霊

・ビンラディン暗殺後も、ビンラディンの活動を受け継ぐような事件が相次ぎ、その原因としてPR活動があったことが書かれていました。

・アルジェリア人質事件を起こしたアルカイダのフランチャイズ組織とも言える組織の活動や、ボストンマラソンでの爆破事件など、各地の直接アルカイダに関係があったわけではない者によるテロが起きていたようです。
このテロに対して、「隣人」が起こしたのではなく「特殊な外部の者」が起こしたというニュースが指示され、一般には信じたいがために信じるという群集心理が働いたこと、「ラディカライゼーション(過激化)」「チェチェン・コネクション」などのバズワードでその群集心理に沿ったイメージを作っていったことなど、心理戦・PR戦めいたやりとりが興味深いなと思いました。

・オープンソース・ジハードとして、当初はアルカイダ所属組織主幹だった雑誌「インスパイア」で、テロの起こし方、爆弾の作り方などを載せ、テロのQ&Aのコーナーまであったこと、ネット上でそれらの情報が出回っていることなど、紛争の種の残しているアルカイダやその後継者の執念もすごいなと思いました。

第6章 日本が持っている「資産」

・オリンピックに絡む各国のPR戦略について書かれていました。
ロシアがソチオリンピックを誘致した考えは分かりやすいなと思いましたが、トルコがイスタンブールにオリンピックを誘致しようとしたその理由と、誘致と引き換えにしてもデモを弾圧する必要があった、打算に基づくエルドアン政権の判断は興味深いなと思いました。

・日本が東京オリンピックを誘致できた裏でイギリスのPRコンサルタントであるニック・バーリーがいたこと、東京にはオリンピックの開催理念が弱いことに対し、すでにオリンピックそのものに理念は埋め込まれていて、日本の平和と安全さをアピールすることが決め手だったということは、ニュースでよく採用理由として伝えていた「おもてなし」よりも説得力があるなと思いました。

終章 倫理をめぐる戦場で生き残るために

・国際社会で映像として残ることが印象を決める要因を大きく占めていること、アメリカでは国家のトップがそれを理解して様々なアクションを起こしていることが書かれていました。

・日本は最大の禁忌を犯したと世界で認められているナチスドイツと組んだ国という、歴史上のハンディを負っており、それを覆すためにも日本の平和さや民主主義の成熟などを世界に知らしめるPRが必要だろうという話で締められていました。

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