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【老年について 友情について】レポート

【老年について 友情について】
キケロー (著), 大西 英文 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065145074/

○この本を一言で表すと?

 対話形式でそれぞれ一つのテーマについて語ることで著者のテーマに対する考え方が披露された本

○よかったところ、気になったところ

・著者のキケローより前の歴史上の人物同士の対話を通してそれぞれのテーマについて語られていく形式で、読みやすいなと思いました。

・訳者解説がかなり充実していて、時代背景や思想的な意味合いなどが詳しく書かれていて、本文と訳注を読み終えても読み取れなかったことにも気付くことができました。

・訳者解説でキケロー小史としてキケローの経歴が説明されていました。
「愛国者」と「学」を行き来するような人生だったそうです。
幼少期から神童として注目され、貴族ではない騎士身分で、執政官を排出したことのない家系で法定最低年齢の43歳で執政官に上り詰め、執政官に就任した年にクーデターを未然に防いで「祖国の父」という称号を得たそうです。
ただ、その前には26歳の時に独裁官スッラに関わる弁論で勝利したためにローマを離れて遊学したり、執政官になった3年後にはカエサル・ポンペイウス・クラッススの第一回三頭政治が始まり主流派を外れて、10年ほど政治から外れて執筆活動に入ったりして、カエサル暗殺後の独裁者となったアントニウスを弾劾して恨まれ、刺客を放たれて暗殺されて63年の障害を終えたそうです。
生きた時代が激動の時代だったとはいえ、その時代の政治に大きく関わって激動の人生を歩んだ人だったのだなと思いました。

老年について

・精神的な面での老年の欠点と考えられている点で、肉体的な面はともかく偏屈さ・怒りっぽさなどの精神的な面はすべての老人に共通するものではなく、老年の欠陥ではなく当人の性格の欠陥だとしていること、この対話篇で語られている老年への賛辞は当然に老年の者に与えられるのではなく、若い頃に礎を築き、敬意を払われるように生きてきた者に与えられること等、老年を全面的に賛美するのではなくて、どのように老年を迎えたかで変わるというのは、現代にも通じる考え方ではないかと思いました。

・快楽主義のエピクロスやストア派の中でも理想主義的で非現実的なものに対する批判が徹底しているなと思いました。
キケロー自身はエピクロスの考えもストア派の考えも学んだ人で、様々な考え方の中から実際の生活に役立つ実践的な考え方を重視していたそうで、その考え方が反映されているのかなと思いました。

・この「老年について」で語られている大カトーと、歴史上の大カトーには大きな乖離があるそうで、キケローの理想を重ねた大カトーなのだそうです。
実際の大カトーは気性が荒く言葉が辛辣で節度をわきまえぬ傍若無人さで、ギリシア文化を徹底的に否定した人物であり、小スキピオーとラエリウスと対話を交わすようなことはあり得なかったそうです。
そういった人物を採用して対話篇として一つのテーマを語らせているのは面白いなと思いました。

・近年、日本でも「老害」という言葉が日常的に聞かれるような「嫌老社会」とも呼ばれるような社会になっていますが、古代ギリシア・ローマでも老人を嫌う風潮があり、「老年について」のような老いることを肯定するような内容は珍しかったそうです。

友情について

・友情・友愛を至上なものとしつつ、友情を築く上での注意点や、友情と国家を比較して国家を重視すべきという意見などが述べられていました。

・成熟した人格の人同士でないと真の友情は築けない、というようなアリストテレスの「ニコマコス倫理学」で語られていたことがほぼそのまま引用されていたように思います。

・友情を築いていくプロセスにおける注意点にかなりの文章が割かれているのが面白いなと思いました。
「まず相手を判断し、そのあと愛すべきであること」「誠実・率直な忠告や非難こそが真の友人の務めであり、へつらいや迎合、おもねりがあってはならないこと」「狡猾なへつらいには用心すべきであること」など、誰に対しても友情を築いていることが正しいわけではなく、相手を見定める必要があるというのは友情に対する賛美が中心の文章の中で妙に実践的だなと思いました。

○つっこみどころ

・「老年について」は本文64ページで訳注52ページ、「友情について」は本文74ページで訳注48ページ、訳注の方が字が小さいので「老年について」は訳注の方が文字数が多いくらいで、「友情について」は同じくらいの文字数で、本文と訳注を往復するのが大変でした。
本文を右側、訳注を左側にしてくれると読みやすかったように思いました。
訳注を都度読まない人もいるのでそうはいかないのかもしれませんが。

・「老年について」で述べられている老年の良さについてまとめると「枯れているから欲望に流されない」となるようで、あまり共感できませんでした。
平均寿命が伸び、それにつれて健康寿命が伸びている現代では枯れない時期が長くなるので、そのまま参考にはできなさそうだと思いました。

・「友情について」はほぼ一方的に友情が良いものであると語っていく内容で、対話篇である意味があまりないように思いました。

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