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【文明の衝突】レポート

【文明の衝突】
サミュエル・P. ハンチントン (著), 鈴木 主税 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4087732924/

○この本を一言で表すと?

 20世紀末に書かれた文化・文明を軸とした国際情勢分析の本

○面白かったこと、考えたこと

・いろいろな本で参考文献とされたり批判対象とされたりしている本で気になっていましたが、ようやく読むことができました。
今まで読んできた本ではどちらかというとこの本の誤りの指摘が多かったですが、書かれた当時の状況を考えるとその指摘は酷だったのかなと思えました。
なかなかしっかりと文献に当たり、著者なりに分析を展開しているように思えました。

・アフガニスタン、ボスニア等における紛争の話で、ここまで文明間への協力があったのかということを初めて知りました。
ただ、ここまで露骨だったのかどうか、他の文献にも当たって確証を得ないといけないなと思いました。

・現代における国際情勢と比較して読むと、20年経っても同じような状況のままである内容であったり、大きく変わっている内容であったりして面白いなと思いました。
この本が書かれた後に起こった9.11事件に繋がる記述もあれば、中国の台頭レベルを過大評価している記述もあり、当たり外れを考えるだけでもその理由も含めていろいろ考えさせられるなと思いました。

第一部 さまざまな文明からなる世界

・文明に関する定義や考え方が複数あることについて述べられていました。
文明の定義について、「複数の文化の総体」と定義しているのは単純すぎるような気はしますがわかりやすく、そこそこ妥当性があるかなと思いました。

・西欧文明が普遍的な文明という考え、西欧とそれ以外と二分する考え、さまざまな文明に分かれるという考えで、著者が当時においても多文明であることを採用しているのも妥当だと思いました。
それを採用しなくては「文明の衝突」という話に繋がらないでしょうが。

第二部 文明間のバランスのシフト

・時代によって文明間の力関係が変わってきていて、相対的に西欧文明の世界における比重が小さくなっていることについて触れられていました。

・トルコのように西欧化を肯定した国、西欧化を否定した国、文化としては採用せず技術面だけを採用した国など、成功した文明の取入れ方針に関することについても触れられていました。
総じて西欧に対するアジアの台頭について力が入っていたように思いました。

第三部 文明の秩序の出現

・同一の文明と異なる文明とにおいて、協力する度合いが大きく異なること、トルコやオーストラリアが文明の再定義を図ったことが失敗であったことについて書かれていました。

・トルコはこの本で著者が書いている通り現代においては世俗国家からイスラム国家へと移行する傾向にありますが、オーストラリアはアジア化しようとはしていませんが、太平洋に面する国家としてそれなりに存在感があるように思います。文明の中核国の話はなるほどと思いました。

・イスラム文明に中核国がまだ存在しないというのは今も同じだなと思いました。

・同じ国家の中でも二つ以上の文明に所属することがあり、各文明からの干渉を受けることなど、文明(文化)を基準とした秩序の話は説得力があるなと思いました。

第四部 文明の衝突

・この本がイスラムを否定的に書いているという話を人伝に聞いていましたが、確かにイスラムが関わる紛争が多いと書かれていました。
ただ、著者の思い込みというよりはデータを挙げてそう書いてあり、それ自体に誤りはないようにも思いました。
イスラム文明に属する国家や民族が他の文明のそれと衝突しやすいというのは実際にそうかもしれないかとは思いますが、イスラム文明側の責任かと言えば、それも違うように思えました。

・かなり穏健派に属すると思っていた東南アジアのイスラム国家(インドネシア、マレーシア等)でもアフガニスタン戦争の時にはイスラム側について武器や資金を供与していたのは初めて知りました。
アフガニスタン戦争は冷戦の代理戦争の一コマという認識でしたが、イスラム側から見ると大きな転換点だったということは興味深いなと思いました。
この戦争に参加するために様々なイスラム国家から戦闘要員がパキスタンに集められアフガニスタンに参戦し、その中に後にアル・カイーダを率いるビン・ラディンがいたことを考えると、著者の想定以上に大きな話だったのかもしれないなと思いました。

・ボスニア紛争についてはある程度別の本で読んだことがありましたが、その紛争における支援関係が入り組んでいて、各当事者が属する文明のそれぞれの国家がさまざまな協力をしていたその内容は初めて知りました。

第五部 文明の未来

・かなり長めの未来予測が書かれていて、「100年予測」という本を思い出し、国際情勢を分析する本だと未来予測を仮定するのがお約束なのかなと思いました。
その予測の精度はともかくとして、西欧、特にアメリカが採るべき方針が書かれていましたが、実際のアメリカもこの方針を参考にしていたのではないかと思える記述がいくつもあり、興味深かったです。

○つっこみどころ

・「最初に・・・」「次に・・・」「三番目に・・・」と並列して書かれる記述が多かったですが、その各記述が長いときには「今何を並列して書いているのかな?」と悩むことが多く、読みにくかったです。

・人伝にこの本が日本を文明の一つとしてクローズアップしているという話を聞いてどれほど書かれているかと期待して読みましたが、それほど多くは触れられていなくてがっかりしました。

・文明間の力関係の分析において、軍事力に関する分析は西欧とソ連・ロシア以外の文明については、当時においても過大評価ではないかと思いました。現代の視点で見ているからそう思えるのかもしれませんが。

・文明が衝突として第四部でボスニアの話がかなりのページ数を割かれて書かれていますが、分かりやすく極端な例ではありますが、これを文明が衝突することの証拠とするには他事例も挙げて書かれないと弱いなと思いました。説明しやすい事例を恣意的に採用している印象を受けました。

・今の「文明」から他の「文明」に移ることは不可能、文明同士は必ず相容れないものでいずれ衝突するというのは極論過ぎるかなと思いました。
多様な文化の否定、特に「多様な文化が存在することをめざし、アメリカが非西欧化すればアメリカでなくなる。」というのも極論に過ぎると思いました。

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