【文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)】
ジャレド・ダイアモンド (著), 楡井 浩一 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4794214642/
○この本を一言で表すと?
人類が文明を崩壊させてきた歴史と現代の状況について述べた本
○面白かったこと・考えたこと
・「銃・病原菌・鉄」の続編のような本かと思って読み始めましたが、また違ったアプローチで面白いなと思いました。
「銃・病原菌・鉄」はなぜある地域が別のある地域より優位に立ったかという観点が主でしたが、この本ではなぜ滅びたかという負の要因の追求が主である気がします。
プロローグ
・過去の社会がみずからの環境を害していく過程は八つの要因からなり(森林乱伐と植生破壊、土壌問題、水資源管理問題、鳥獣の乱獲、魚介類の乱獲、外来種による在来種の駆逐・圧迫、人口増大、ひとり当たり環境侵害量の増加)・・・今日直面している環境問題は新たな四つの要因を含んでいる(人為的に生み出された気候変動、環境に蓄積された有毒化学物質、エネルギー不足、地球光合成能力の限界)というP.16~20で書かれた12の要因と、P.25以降で書かれている「崩壊を招く五つの要因」(環境被害、気候変動、近隣の敵対集団、友好的な取引相手、環境問題への社会の対応)が重複しているところもあり、片方だけで書かれているところもあり、第1章以降でも両方に基づいて書かれているようで若干わかりにくく、どちらかに統一してほしかったです。
・過去の文明崩壊に関する史実が現代文明のリスクをも示唆しているという切り口は、私自身今までに考えたことがなくて新鮮でした。
第1章
・最初に現代のアメリカのモンタナ州という事例を挙げ、その素晴らしさを最初に紹介してから実はその内に重大なリスクがあること、その重大だと思われるリスクは他地域に比べてまだましなことが書かれていて、現代社会のどこでも過去の文明が崩壊した要因と同じような要因を秘めていることが示唆されていて、世界の見え方が変わるような気がしました。
第2章
・モアイで有名なイースター島は謎で包まれているということは何十年も前から言われていましたが、徐々に解明されてきていることが分かって面白かったです。
過去に南米から渡ってきたという説が有力であったが、インドシナから徐々に渡ってきたという説に変わってきたというのは、「銃・病原菌・鉄」でも書かれていて改めて面白いなと思いました。
最寄りの人が住める島から1,000km以上離れたところにカヌーで渡るということはなかなか想像しづらいですが、事実として達成しているというのは本当にすごいなと思います。
・第2章以降全体に言える話ですが、「昔から住んでいるからその人たちとも自然の一部」だと私もつい思ってしまいがちでしたが、人間が入植したこと自体が自然にとって不自然で、生きるために行った行動が自然を破壊するということは現代だけでなく、1,000年以上昔の人でもそうなのだということを改めて認識できました。
第3章
・数百kmであれば渡航圏内という南東ポリネシアの人たちの感覚がすごいなと思いました。
島単体では人が住む条件を満たさないところを交易で維持する、というあり方は、今の日本と世界の関係の縮小版のような印象を受け、その関係が崩れたことが直接滅び、または衰退に繋がったマンガレヴァ島、ピトケアン島、ヘンダーソン島の関係が人ごとではない気がしました。
第4章、第5章
・住み辛い場所を工夫で住めるようにして繁栄する、という営みは歴史上世界中で行われてきた中で、その工夫が環境破壊に繋がっていたり、保っていたバランスが気候変動などで崩れたりという事例がアメリカのアナサジと中米のマヤの事例を通して、どこでもあり得る一般化できることとして伝わってきました。
第6章、第7章、第8章
・ヴァイキングがコロンブスのアメリカ発見より何百年も前にアメリカに入植していたという話は、その事実は知っていましたが、その具体的な流れを知ることができて良かったです。
「ヴィンランド・サーガ」というマンガでちょうどヴァイキングがイギリスを支配していた時代や、「ヴィンランド」を伝説の地として目指す話が出ていて、その話とリンクしました。
ちなみに、その「ヴィンランド・サーガ」に出てくる登場人物の名前がP.375,376のエイーナル・ソッカソンのサーガに出てくる名前と同じで、これらも原典として使われていることがわかり面白かったです。
・ノルウェー人が入植した「時点」のグリーンランドの植生がノルウェー本土と似ていたことと、その状態に至るまでの環境・プロセスが全く違うこととを両方認識することができなかったせいで、意図しない環境破壊を進めたという事例は、日本の公共政策でもありそうな話だと思いました(因果関係を無視してその時点だけを見て対応)。
・ノルウェー人の入植の「後」にイヌイットがグリーンランドに入植したという話は初めて知りました。
ノルウェー人が豊富な魚介資源を思い込み・しきたり的に避けたこと、キリスト教やヨーロッパ文化を大きな代価を払ってでも頑なに取り入れたこと、イヌイットを愚劣な民とみなしてイヌイットの明らかに生存のために優れた手法を取り入れようとしなかったことなどは、他の民族でもありそうな事例だなと思いました。
・鉄が基本の文化でありながら、鉄がないために苦労していること(鉄製品を徹底的に再利用)や、装備面でもイヌイットに負けていたことなど、資源を前提とした文明がその資源を失ったときにどうなるかの教訓を示しているように思いました。