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【ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき】レポート

【ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき】
レイ・カーツワイル (著), 井上 健 (監訳), 小野木 明恵, 野中香方子 , 福田 実 (共訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4140811676/

○この本を一言で表すと?

 シンギュラリティに至る理由と、至ったらどうなるのかについて考察した本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・人工知能に関しての本や未来予測に関しての本を読むと必ずと言っていいほどこの本が引用されていたので、気になっていました。
どの本でも真剣な内容としての引用としてよりは、こんな突飛なことを考えている者もいる、というネタとしての引用が多かったので、実際にはどういった本かと思いながら読んでいましたが、これまでの技術史や現代のすでに開発されている技術、未来の技術の方向性などについて様々な論拠を挙げて説く真面目な本だったので少し驚きました。

・前半四章でなぜシンギュラリティに至るのかを要素別に説明し、後半五章でシンギュラリティが近くなるとどうなるか、シンギュラリティを超えるとどうなるか、ということが述べられていました。
前半はこれまでの技術史と現代技術、シンギュラリティに至る理由等、様々な論拠が詰め込まれていて、かなり読み進めるのが大変でした。
後半はかなり読みやすくなり、スケールの大きさや世界観の変化などを楽しみながら読めたように思いました。

・本文でも原注でも著者の名前がついた著者の創立した企業がかなりの数でてきました。
様々な発明や事業の立ち上げなど、すぐれた発明家、すぐれた企業家として成果を上げていて、かなりすごい人物なのだなと思いました。
様々な分野について深い理解を示し、応用して発明や事業化にまで結びつける能力があり、様々な情報が入ってくることなどの要因があってこの本の内容につながっているのなら、一定の信頼性があるとしてもよさそうに思いました。

・この本が書かれた2005年から現在までの流れでみると、著者が予測していたほど技術が進んでいないようにも思えます。
研究開発レベルと民間レベルの差で、実際には最先端では追い付いているのか、何かの要因で進んでいないのか、どうなっているか知りたいなと思います。

第一章 六つのエポック

・六つのエポックの、「1 物理と化学」「2 生物」「3 脳」「4 テクノロジー」は宇宙の始まりから今までを4段階に区分していることでわかりますが、「5 テクノロジーと人間の知能の融合」は何となく理解でき、「6 宇宙が覚醒する」はこの章だけではさっぱり意味が分かりませんでした。
この本の後半でこのエポック6が主題になっていて、その内容を読んだ後で見てみると何となくわかったような気がしました。

第二章 テクノロジー進化の理論―収穫加速の法則

・ランダムな数字の情報と秩序ある情報の違い、後者の圧縮しやすさ、完全に規則的でなくてもある程度の方向性があれば秩序あるものとして扱えることなど、情報処理の理論がかなり分かりやすく書かれていたように思いました。

・いろんなものが指数関数的に成長していること、半導体などは指数関数的に面積当たりのトランジスタ数が増え、その距離が近くなることで更に指数関数を重ねたスピードが出ることは、改めて考えるとその通りだなと思いました。
人間はつい直線的で考えてしまうということと、指数関数の最初のスピードと後のスピードの違いなども、短期的な結果だけを見て長期的な成長に対する判断を誤ることをうまく説明しているように思いました。

第三章 人間の脳のコンピューティング能力を実現する

・ハード面で人間の脳の能力を超える処理能力について検討されていました。人間の脳の処理能力を見積もって、その能力を超えるコンピュータの能力はどの程度か、どういった技術なら超えられるか、などがいろんな方向から検討されていました。
処理能力があるコンピュータは熱という点で限界が現れ、その点を回避している脳を参考にして可逆的コンピューティングが実現されればクリアできるそうです。
岩の原子の数をビット数と捉えると、1kgの物質は人間100億人の1万年の思考を1万分の1ナノ秒で処理できるのだそうです。

第四章 人間の知能のソフトウェアを実現する―人間の脳のリバースエンジニアリング

・ソフト面で人間の脳の能力を実現する方向について検討されていました。
高校の生物の授業で、ニューロンを伝わる情報のスピードがかなり遅いと思ったことがありましたが、やはり電子部品に比べて桁違いに遅いそうです。
そのスピードの遅さを超並列処理によってカバーして機能しているそうです。

・脳の機能をスキャンする方向で、侵襲性・非侵襲性の両方から検討されていて、外部から磁気や電気で読み取る方法から内部でナノマシンにより測定する方法まで様々な手段が述べられていました。
脳が常に欠損し続けていながら継続的に支障なく機能しているというのは、稼働継続能力という点でも改めてすごいことなのだなと思いました。

・脳の仕組みを完全に理解できれば、電子部品に置き換えることで脳の能力を格段に上げることができるというのは、第三章のハードウェア面の検討と、この章のソフトウェア面での検討を合わせて考えるとそういうことになるのだろうなと納得できるような気がしました。

第五章 GNR―同時進行する三つの革命

・G(遺伝子)、N(ナノテクノロジー)、R(ロボット)の三つの革命についてそれぞれ説明されていました。
この三つのなかでRが最も大きな影響があるというのは意外な気がしましたが、RがGとNの土台となる説明のところを読んでなるほどと思いました。

・Gについて、遺伝子の解明が進んだことで、何を解決すれば病気の発症や症状を抑制し、寿命を延ばせるかがかなりわかってきており、著者は自分の遺伝的な病気を理解して、体内の血液や体液の分析、栄養等の調整を毎日250粒のサプリメントや静脈内投与等で行って、身体的には歳を取るどころか若返っていると判断されたと書かれていました。
この内容は他の人工知能に関する方法で茶化されていたところですが、この本の文脈で読むと割と自然な考えと行動であるようにも思えてきました。

・Nについて、ナノテクノロジーはこの本が書かれた2005年時点である程度実現していて、小さいことで実現できること、生体と結びついて、例えばATPとナノチューブが結びついて体内でエネルギーを供給されながら活動することなどが書かれていました。

・Rについて、ハードではなくソフトの方面で、特にAIについて述べられていました。
強いAI(汎用型AI)と弱いAI(特化型AI)について、他の本だと全く異なるもので、特化型AIの進歩は汎用型AIの進歩に直結しないと書いていたりもしましたが、この本では近しいものとして扱っている印象でした。

・AIの冬と言われた時代について、AIについて進歩しなかったのではなく、指数関数の初期の部分のあまり上昇しない段階を見て、期待より低いと判断してしまっただけであって、実際には進歩し続けていたと説明されていました。
特化型AIの使用例はそれぞれ聞き覚えのあるもので、まとめて考えてみるとAIの進化は着実に進んでいるなと思いました。

第六章 衝撃・・・・・・

・GNRの三つの革命が進むと人間がどのようになっていくかについて述べられていました。
食事などの栄養摂取の仕組みが変わり、体の器官が内臓から血液まで代替できるようになり、脳まで置き換えることができるようになっていく様子が書かれていました。
生命の枠を広げて、機械が自分になれば宇宙を探査することもでき、知能が物質法則を超えるというところまで話が拡げられていました。

第七章 わたしは特異点論者[シンギュラリタリアン]だ

・人間の細胞がかなりのスピードで置き換わり、1ヶ月後には元の細胞からすっかり入れ替わるほどの代謝を行っていることと、機械に体を置き換えることの差、脳も含めて自分と全く同じ構造の人間が目の前にいてもそれを自分とは違うと考えるであろうこと、「意識」を客観的に測定することができないことなど、シンギュラリティ後における著者の哲学のような考察が述べられていました。その考えに沿うと、確かに人間と機械の領域は曖昧と考えられるのかなと思いました。

第八章 GNRの密接にもつれあった期待と危険

・GNRの三つの革命が進むことのポジティブな面が前章まで語られ、この章ではネガティブな面についても語られていました。
ナノテクノロジー、AIが誤作動を起こすような事象、コンピュータウィルスのような人為的な悪意を持った行為に対して、どうなるかなどについて考察されていました。
読み進めていて自分でも「こういうトラブルはあり得るのでは」と思いついていたので、著者がその点についても考慮されていたのはさすがだなと思いました。
規制や原理主義的な反抗などがあったとしても、技術は止められず、誤作動や人為的トラブルについても問題なく対処されるというのが著者の結論のようです。

○つっこみどころ

・読み終わって改めて邦題を見ると、邦題がこの本の内容の一部しか表していないこと、副題は内容に一致すらしていないことに気付きました。
現代の直訳のタイトルで2016年にエッセンシャル版が出ていますが、初めてその本について知った時はタイトルが全く違うので同じ著者の全く別の本かと思いました。

・各章、各節の最後に挿入されている、歴史上の人物や未来の人物の対話の意味が余りわからず、最後まで読んでもそれほど意味を感じることができませんでした。なくてもよかったのではないかと思いました。

・原注のボリュームがかなりあり、また分厚い本なので本文を読み進めながら原注に当たるのがかなり大変でした。

・第八章のリスクに対する考え方について、コンピュータがコンピュータウィルスの存在によって破綻して世界から消え去るわけではないから、GNRも大丈夫、という論調は安易過ぎではないかと思いました。

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