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【世界インフレの謎】レポート

【世界インフレの謎】
渡辺 努 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/406529438X/

○この本を一言で表すと?

 近年の世界インフレの内容や特異性について説明した本

○よかったところ、気になったところ

・世界インフレについてあまり知りませんでしたが、世界でどのような状況だったのか、日本がどれだけ特異なのかがよくわかったように思いました。

・ほとんどの経済学者が予想できなかったこと、著者自身も読み違えていたことなどが書かれていて、どれほど独特な状況だったのかが感覚的にもわかったような気がしました。

第1章 なぜ世界はインフレになったのか―大きな誤解と2つの謎

・リーマン・ショック以降の世界経済の低インフレ化と2021年からの唐突なインフレの発生の流れと、2021年のインフレの原因として戦争やパンデミックを検討していました。
戦争はあまりインフレには影響せず、パンデミックも生産性を左右する要素「資本」「労働」「技術」の3要素についてはそれほど影響を与えなかったとされているものの、労働者や消費者の行動変容の「同期」という特殊な現象により需要と供給のアンマッチが起こったことが大きな原因と考えられるそうです。

・政府や経済学者の重視する、失業率とインフレ率との関係を示す「フィリップ曲線」を、2021年以降は大きく乖離する動きを見せているそうです。
インフレの原因が需要過多であればフィリップ曲線に沿うものの、供給過小が原因であれば乖離し、また中央銀行は供給に対しては何もできないそうです。

・パンデミック後に新たな価格体系に移行し、元に戻らないというのは、ゲーム理論のナッシュ均衡に似ているなと思いました。
均衡状態になるポイントは複数あり、二者が互いに均衡点から離れるメリットが無いために特定のポイントに留まるものの、外的要因で大きくずれて異なる均衡点に移行したら今度はその点に留まるというのが、似ていると思った点です。

第2章 ウイルスはいかにして世界経済と経済学者を翻弄したか

・過去のパンデミックであるスペイン風邪や、近年の天災である東日本大震災と、新型コロナウイルスの経済への影響を比較していました。
震災とパンデミックとの違いは影響が一部の地域に留まるか国内全体に広がるかで、経済への影響は大きく異なるそうです。
スペイン風邪と新型コロナでは、同じパンデミックでも時代背景が異なり、グローバル化の進展と情報の広がり方が大きく異なっていて、恐怖心の伝播具合が大きく違い、経済への影響も大きく変わったそうです。

・健康被害と経済被害が直結していないことなど、状況の背景を探るプロセスが興味深いなと思いました。

第3章 「後遺症」としての世界インフレ

・「フィリップス曲線」が通用しなくなった要因として、各変数を検討し、その他要素としての「ファクターX」が原因だと結論し、そのファクターXの候補として消費者・労働者・企業の行動変容を挙げ、それぞれ分析していました。

・消費者の行動変容として、サービス経済化トレンドの反転が挙げられていました。
米国消費割合ではパンデミックからモノの割合が上昇してサービスの割合が下降し、パンデミック以前のサービス割合の上昇が反転したそうです。
またサービスはそのコストの大部分が人件費であることから価格硬直性がモノより大きく、価格差が開いているそうです。

・労働者の行動変容として、パンデミックで退職・離職が大幅増加し、かつパンデミック後も戻らないという状態が続いているそうです。
その原因としてソーシャル・ディスタンスに後遺症を表すロングをつけた「ロング・ソーシャル・ディスタンス」と呼ばれるパンデミック時の行動変容が持続する動きが見られるそうです。

・企業の行動変容として、グローバルな供給網を見直して国内回帰する「リショアリング」が見られるそうです。
伸びたサプライチェーンは途切れるリスクが高いということが改めて注目されたというのは、興味深いなと思いました。

・151ページのパンデミックから消費者・労働者・企業の行動変容により世界インフレにつながる流れの図はわかりやすいなと思いました。

第4章 日本だけが苦しむ「2つの病」―デフレという慢性病と急性インフレ

・世界インフレの中で、日本だけが異常な慢性デフレも継続しているということ、それを支えているのは価格上昇を嫌うノルム(社会的慣行)と賃金が上がらないという共通認識であることが指摘されていました。
また海外との価格差で毎日バーゲンセールの国になっているとも指摘されていました。
価格上昇については、最近はある程度許容され、進んでいるように思えますが、賃金が上がらないことですぐに限界になりそうですし、賃金も上がるというニュースは度々出るものの大企業の一部だけで、また継続的に上がるという見込みはなさそうで、日本全体としてはそれほど賃金が上がらないという状況が続きそうに思いました。

第5章 世界はインフレとどう闘うのか

・欧米ではインフレを引き起こす「賃金・物価スパイラル」をどこかで断てばよく、金融引締で物価を抑える常套手段や賃金上昇を政府が抑える非常手段が考えられるそうです。
日本は逆に賃金・物価スパイラルが据え置き方向に働いていて特殊で解決が困難な状況だそうです。

○つっこみどころ

・各論点で、世界全体なのか、欧米だけなのか、先進国だけなのか、日本だけなのか、どの対象について論じているのかがわかりにくく、日本をイメージしていたら日本は対象外だったりして混乱しました。
もう少し対象について整理されていたら分かりやすく読みやすかったように思えました。

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