読書オタク&資格オタク おさるのブログ

【古代インドの思想: 自然・文明・宗教】レポート

【古代インドの思想: 自然・文明・宗教】
山下 博司 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480068023/

○この本を一言で表すと?

 古代インドの史跡・文書・気候から文化・思想の源流を探った本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・自然を含めた環境が文化に与える影響など、発見された史跡・文書の枠だけでなく広い範囲で当時の様子を検討していて、かなり多面的に研究されているなと感じました。
環境が文化を決めるという環境決定論に囚われないようにしたとしながらも、環境が大きな影響を占める古代インドの文化について、異説も含めて丁寧に説明されていました。

第一章 インドの大地と自然―思想と宗教を育んだ風土

・インドという地域が熱帯から亜寒帯までのほとんどの気候を包含していること、山脈や砂漠によってインドの外からアクセスする経路がかなり限定されていること、モンスーンによる雨季とそれ以外の乾季で雨量がはっきりと分かれていることなど、地域の特殊性について述べられていました。

・自然の厳しさと豊かさによって生かされる環境から、作為より無為、生産より分配に重点が置かれる思考・思想になっていること、低緯度に位置する地域として勤勉さや生産性を尊ぶ文化ではないこと、同じ低緯度地域でも東南アジア地域の人々に比べると何かにつけ耐え忍ぶ資質に優れていることなども述べられていました。

第二章 インダス文明と原ヒンドゥー教―半乾燥地域の先史文明

・インダス文明についての研究結果が述べられていました。
インダス文明以前からそれ以後に関わる宗教の源流というようなものが存在したこと、遺跡が点在して広範囲に分布していたこと、インダス文明はアーリヤ人に滅ぼされたという説があったが、アーリヤ人がインドに来るより前にインダス文明の地域が乾燥化により衰退していたことなどが書かれていました。

第三章 アーリヤ人の侵入とヴェーダの神々―モンスーンとの出会いと衝撃

・アーリヤ人も環境変化により民族移動してインドに侵入したこと、それまでも乾燥地域にいたアーリヤ人がモンスーンによる雨季に衝撃を受けたこと、その衝撃からアーリヤ人最古の文献ヴェーダで神々として崇めることになったことなどが書かれていました。

・アーリヤ人がインドに来る前から作成されていたヴェーダの内容が、インド侵入以降影響されて降雨に関することに重点が置かれるようになったことなど、神話もその時々の民族が置かれた環境に大きな影響を受けることが良く分かりました。

第四章 ウパニシャッドから仏教・ジャイナ教へ―ガンジス平原と森林の思考

・インドの北西から侵入してきたアーリヤ人が、侵入した地域の乾燥化などにより東漸し、森林に出会ったことによってまた宗教観に影響があったことが書かれていました。

・バラモン教でバラモン男子が生涯に経るべき階梯である住期(アーシュラマ)で、学生記、家住期、林棲期、遊行期の四住期が定められ、森で自己を見つめ続けるなど、神への祭祀から自己への沈潜へ、外から内へ信仰の対象が変わっていったことなど、環境の変化から宗教観まで変わっているのは興味深いなと思いました。

・遊牧から農耕に生活がシフトしたことで余剰ができたこと、生産しない階層も存在できるようになったことも大きな影響がありそうだと思いました。

・カルマ(業)の考え方について、善因善果・悪因悪果の因果応報の考え方から、一生だけでは善き行いに善い結果が返ってくるとは限らないので輪廻・転生という考え方で帳尻を合わせたというのは、若干強引な気がしますが面白いなと思いました。
因果応報の考え方から自助的・自律的な考え方になりそうなものですが、行為の結果を受けない、余計な輪廻をしたくないという発想から無為の方に流れたというのも面白い流れだなと思いました。)

第五章 仏教と雨―修行者の暮らしと教団の成立

・初期仏教の修行僧のあり方などについて書かれていました。神話や物語から修行僧の置かれた環境を類推する手法で、修行する森が集落の近くにあったこと、修行する地域はある程度安全が確認されている場所であることなどが解き明かされていて面白いなと思いました。

・雨季と乾季では乾季の方が辛そうに考えていましたが、修行僧にとっては雨季の方が辛かったというのは意外でした。不殺生を貫くためには、雨季で様々な生物が路上に出てくる方が困難だったようです。
そのために雨季は雨安居といって修行を休む時期に充てたというのは柔軟だと思いました。

○つっこみどころ

・「インド的なもの」の源流として古代インドの思想を持ってくる流れが若干強引に感じました。
現代まで共通する思想・思考は間違いなくあると思いますが、「一貫して現代に至る」という枠を著者が決めて、その枠に着地するように書かれているようにも思いました。

モバイルバージョンを終了