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【2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する】レポート

【2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する】
英『エコノミスト』編集部 (著), 東江 一紀 (翻訳), 峯村 利哉 (翻訳), 船橋 洋一
https://www.amazon.co.jp/dp/4163755004/

○この本を一言で表すと?

 過去40年の経緯からある現在から、40年後の未来のいろいろな項目を楽観的に予測した本

○いろいろ考えた点

・各論文をそれぞれ別のテーマで別の人が書いているのでそれぞれレベル感は違いますが、全体的に楽観主義過ぎる気がしました。
「はじめに」で、40年前の悲観的な予測がほとんど外れたことを根拠としてそういった傾向にしていると書かれていましたが、「悲観的な予測が外れる」ことと「楽観的な予測が当たる」のはまた別だろうと思いました。
時折日本の話が出てきますが、日本についてだけは悲観的で、そこが妙にリアルな印象を受けました。

・各章のあとで2ページの「まとめ」があり、簡潔でわかりやすく振り返ることができるなと思いました。

第一章

・今後人口が増加するのはアフリカが中心だと書かれていました。イスラム圏の人口増加でアジア圏の人口増加もかなりのものだと思っていましたが、国際連合の予測(P.17)ではあまりクローズアップされていませんでした。
中国の人口減少と日本の高齢化が大きく取り上げられていました。

第二章

・病気の撲滅が進み、ゲノム解析により遺伝病の対処法もかなり進むそうです。病気よりも高齢化と肥満が問題になるそうです。

第三章

・女性の権利獲得は戦後にかなり進んだため、この先の40年ではそれほど急激な変化はないようです。
宗教的に女性の権利を認めない地域も改善は見られるものの、完全に男性と同一にはならない見込みだそうです。
労働人口の減少は女性の社会進出を促進しますが、高齢化による介護の必要性が抑制する方向に働くそうです。

・女性参政権がスイスでは1971年、ポルトガルでは1976年にようやく認められたというのは意外でした。

第四章

・ソーシャル・ネットワークの今後について、Facebookの一社支配の可能性は小さいと予測されていました。
パソコンやスマートフォンだけでなく、いろいろなモノを巻き込んだソーシャル・ネットワークが開発される発展性と、国家としての一社支配に対する危機感があるそうです。

・日本ではほとんど広まっていないグーグル+について高く評価していることには違和感がありました。

第五章

・「文化」が今後どうなっていくのかについて書かれていました。
「言語」については中国語が英語に取って代わることがないだろうということをQWERTY配列キーボードを例に書いていました。

・芸術については自国のローカルなものを好む傾向からグローバルに支配できる音楽などは今後もないだろうということでした。

・K-POPについて、「影響力はアジア地域に限定される」とはっきり書かれていることは、嫌韓の人が喜びそうだなと思いました。

・デジタル社会の進展においても、有名なブロガーなどは結局出版社に所属することなどを根拠に、出版社・新聞社・レコード会社は生き残ると判断しているそうです。
このあたりは若干「エコノミスト誌」の「そうであってほしい」というバイアスがかかっている気がします。

第六章

・宗教は富裕国で無宗教派が進展していくことと、貧困国では宗教がそのまま残り、出生率の大きさから進展していくことが拮抗していくそうです。

・アメリカだけは宗教が発展していることを、アメリカは殺人の多さや服役者の多さから貧困国と同様の反応を示しているそうです。
このあたりはイギリスの雑誌だから書けることかなと思いました。

第七章

・地球の温暖化が今後進展するかどうかは、はっきりとは分からないものの、それほど大きくは進展しないだろうという見方をしていました。
世界的な取り組みと発展途上国の発展の必要性などが拮抗しているそうです。

・エアロゾルを成層圏に注入すれば冷却化効果があることが分かっているそうですが、リスクがあるためにまずされることはないだろうと書かれていました。

第八章

・戦争による死者は戦後確実に少なくなっているものの、不確実性は高まっているそうです。
特に敵対的な隣国が核を保有した場合に自国も核を保有しようとするため、核戦争のリスクが高まると考えているそうです。

・高齢化により先進国の防衛費が削減され、軍事的なバランスも崩れていく可能性があるそうです。

・兵器の無人化が進展し、ロボットの戦争が起きるかもしれないと書かれていました。

第九章

・「民主主義」が非効率になり、「自由」を狭める可能性について書かれていて、この論文は他と比べて悲観的でした。
民主主義では金と圧力団体によるバイアスがアキレス腱になり、「法の支配」と「公共心」がより重要になるそうです。なんだかサンデルの哲学に書かれていそうなことが語られていました。

第十章

・世界的な高齢化に対する対処は財政改革で何とかするべきだということが主張されていました。
一部の国では貧困者に対して厚く支援し、そうでないものに対して支援しないような仕組みを導入しているそうです。
財政改革できるかどうかという点で、日本はかなり難しく、今後のリスクが大きい気がします。

第十一章

・「新興市場」は四十年前には存在していなかったことと、四十年後も存在していないかもしれないということが書かれていました。
遅れている国家ほど早く成長するが、その遅れている国家が四十年後にはなくなっているかもしれないそうです。

・成長に必要なのは教育だとはっきり書かれていて、他の本で読んだこととも一致している結論だなと思いました。

第十二章

・現在はまだ準グローバリゼーションの時代で、本格的なグローバリゼーションの時代はこれからだと書かれていました。
国家間のやり取りがまだ少ないからだそうです。

・アジアがかなり進展し、2050年には経済の半分をアジアが占め、中国は過去(清の興隆時代)の姿(経済に占める割合)を取り戻しているそうです。
日本だけ今後の四十年でどんどん落ち込んでいくと書かれていました。

第十三章

・貧富の格差は各国間の格差と国内の格差の二種類あり、現在では前者の割合が大きいそうです。
その前者の割合は今までの四十年で大きくなったが今後四十年でかなり縮小されるそうです。
中間層が今の貧困国で増えてきて、国内の格差も縮小し、全体としてもかなり貧富の格差が縮小するとのことです。

第十四章

・シュンペーターの理論が今後四十年で一番当てはまることになるのだそうです。
革新的な技能を持つものが複数の企業に技能を売るようになり、知識階級に富が偏在し、労働者はグローバル化でより過酷になるとか。
第十三章の論文の結論と正反対のような気もしましたが、全体として革新的な技術の恩恵を受けることで向上していくそうです。

・新結合についての理論を発表したシュンペーター自身は何も新しいものを試さない人で、車の運転を覚えず、飛行機には近づかず、地下鉄にも載らず、最新式の道具にはいらだちを抑えられず、原稿を複写も取らずに郵便で出版社に送る変人だったというのは面白いなと思いました。

第十五章

・景気循環のサイクルについてのこの論文は何も新しいことに触れていない気がしました。
ほとんど予測らしいことも書かれていませんでした。
「当たるも八卦当たらぬも八卦」になりそうなので、それが正しい態度なのかもしれませんが。
「日本型の鈍化した市場が欧米などでも長期間続く可能性がある」とここでも日本は酷評されていました。

第十六章

・今後進展する科学は生物学だとはっきりと述べられていました。
生物学が他の分野と結びつき、いろいろな技術が生まれていくそうです。
2030年にほとんどの生物の遺伝子サンプル化が終了するそうです。

・アジアは体質的に革新的な研究が生まれにくいそうです。
特に日本は、科学部門のノーベル賞受賞者が人口が日本の7%のオーストリアよりひとり多いだけで、若手科学者が先達に迎合的で、欧米の旧来の理論を否定することでキャリアが築かれることと真逆だとかなり否定されていました。

第十七章

・宇宙への進出が今後四十年でもかなり進展し、民間宇宙旅行が金持ちの道楽として広まっていくとも書かれていました。
地球外生命体の発見にかなり力が入れられそうだとも書かれていました。

第十八章

・情報技術の発展は、それまでの線形関数世界から指数関数世界へと激変し、今後もさらに発展し、ユビキタスネットワークの推進や企業のあり方の変革にまでつながるそうです。
ただ、まだ情報技術は生体の足元にも及んでいないそうです。

第十九章

・常時接続の世界により、距離が死に、位置が意味をなしていくそうです。
拡張現実でハリー・ポッターのような世界になるかもしれないというコラムがありました。
これらの技術の進展により国際分業がより進む契機となるそうです。

第二十章

・最後の章で、予言が当たらない理由として、「良いニュースが目立たず、悪いニュースだけが頭に残りやすいというバイアス」「人間が対策を講ずることを無視している」ということを挙げていました。
結論として、技術の発展が世界を良い方向に変えていくという、この本の中で最も楽観的な予測が書かれていました。

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