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【日本経済の死角】レポート

【日本経済の死角 収奪的システムを解き明かす】
河野 龍太郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480076719/

○この本を一言で表すと?

 実質賃金横ばいを主要因とした日本経済低迷解説の本

○よかったところ、気になったところ

・趣旨や主張が明確で読みやすい割にかなり突っ込んだ内容が書かれている本だと思いました。
「○○の死角」というタイトルの本や記事はたくさんありますが、実際に死角と思えることはほぼないことが多い中で、この本では自分の知らなかった内容もあり、いろいろ勉強になりました。

・この本では実質賃金の横ばいを企業の内部留保や投資抑制などが理由でそれを批判していましたが、伊丹敬之氏の「平成の経営」では内部留保や生産性向上を肯定的に捉え、「平成の間の企業はよくがんばってきた」という評価でした。
どの立場に立つのかで評価が変わるのだなと思いました。日本経済や消費者としては低迷であっても、各企業においては健闘の結果だという典型的な合成の誤謬でしょうか。

・以前読んだ「世界インフレの謎」で、「賃金・物価スパイラル」の話が載っていて、欧米ではインフレに対して物価や賃金上昇を政府が抑えればいいのに対し、日本は逆回転して据え置き方向になっているので対処が難しい話がありました。
今、物価だけ上がっても賃金があまり上がらないのも同様の理屈になるでしょうか。個人的にはジョブ型とメンバーシップ型の雇用形態の違いが原因で、雇用の流動性等が確保されない限り賃金上昇はあまり見込めないのではと思えます。

・実質賃金の上昇と定期昇給は別の話、というのはシンプルですが結構気づかない話かなとも思えました。
自身でも大企業で勤務していたときは給料が勝手に上がっていくし残業代もフルに出るので実質賃金横ばいなどには気づかなかったですし、中小企業に勤務して給料が上がらないのを実感として理解できた気がします。

・働き方改革の影響の話は新しい話で他の本でも紹介されていたなと思いましたが、1990年代の週48時間制から週40時間制への移行時にも同様のことがあったというのは初めて知りました。
経済低迷はアジア通貨危機などが原因と私自身も思っていて、よく考えたらそれだけが原因はおかしいなと思えました。個人的にはこの本で一番衝撃を受けたのがこの内容でした。

・イノベーションが収奪的な存在だというのはなるほどなと思えました。
新技術が常に既存の労働者から仕事を奪ったり、情報技術の発展は複製がゼロコストという特徴から特に人間から仕事を奪うという話があったり、納得できる話だなと思えました。

・個人的に、日本経済の低迷と、低迷前の状況の違いとして、国家の介入の程度の問題もあるのかなと考えています。
行政法の施行・改定で介入しづらくなっているのかなと思いますが、政府として集中すべき産業に参画するくらいの20世紀の時代のやり方は難しいのでしょうか。
「クールジャパン」のような最初から失敗しそうな政策しか最近はないように思えます。

○つっこみどころ

・帯に「私たちの働き方は間違っていなかったんだ。そう自信を持たせてくれました」と担当編集者のコメントが書かれていましたが、そんな趣旨の本かなと疑問に思えました。
「生産性は上がっているのに実質賃金が上がっていない」という著者の主張に対してのコメントだと思いますが、「そこ?」という感覚があります。

・実質賃金の上昇が日本経済低迷の原因で、それを解決すれば日本経済はよくなるという趣旨の内容でしたが、相関関係はあっても因果関係が正しいのか、それが主要な原因なのかは微妙ではないかと思えました。
人間の労働の形が変わってきている近年の状況を過去の統計の分析だけで判断しているのも枠にハマりすぎではと思えました。

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