
【格差という虚構】
小坂井 敏晶 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480074287/
○この本を一言で表すと?
様々な思想やその根拠などを虚構として断じた本
○よかったところ、気になったところ
・書店で見かけて「尖った内容のタイトルだな」と思って購入していましたが、読んでみるとタイトルの印象よりもかなり内容が尖っていて驚きました。
ルソーやロールズなどの政治哲学の有名どころをまとめて批判したり、例示する内容までわざわざ尖った、一般的に受け入れにくいものを選んだりしていて、その尖りっぷりが面白く思えました。
・論考に論考を重ね、厳密に根拠を追求していくスタイルで、内容を理解するのに時間がかかり、読み終えるまでかなり時間がかかりました。
読了時はかなりの達成感を得られました。
・様々な思想や概念を虚構と切り捨てていましたが、ユヴァル・ノア・ハラリが虚構として論じていた国家や貨幣などには触れられず、ハラリの著作が参考文献に入っていなかったことが興味深いなと思いました。
あえて外しているなら、対抗心などの動機からでしょうか。
・著者のオリジナルの言説はなく、様々な言説をとりまとめたものだと何度も本文で触れられていましたが、著者の解釈と再構築の能力がすごいなと思えました。
行動遺伝学や能力については今までに読んだことがある本が参考文献になっていて、その内容が展開されたり、その内容について挙げたうえで批判していたり、自分の知っている内容も再確認、再解釈できてよかったです。
サンデルのメリトクラシー批判は著者も肯定的に挙げ、安藤寿康の行動遺伝学については強度の否定が加えられていました。
特に自分も安藤寿康氏の著作については読んで違和感があったので、その違和感の内容について具体的に説明されて納得できました。
・近代以前と近代以後について、あらゆる物事や制度の根拠に神や宗教を据えることができた近代以前と、それを否定する代わりに何らかの別の概念や考え方を構築する必要のあった近代以後の論述は興味深いなと思えました。
・行動と意志の因果関係の否定、犯罪と処罰の因果関係の否定などは、以前に別の本で触れた時にはそこまで自分は重要視していませんでしたが、厳密に考えると興味深いものだと思えました。
○つっこみどころ
・様々な思想やその根拠を厳密には虚構であると断じていながら、自論にはあまりその厳密さを適用していない、そのダブルスタンダードなところが気になりました。
特に主題であるはずの格差について、「格差をなくそうとするほどよりひどくなる」などの主張がされていましたが、その自論については厳密さが全く適用されていないなと思えました。
・読んで内容を把握するのに時間がかかる内容にもかかわらず、何章も前の内容を「第4章で述べたとおりである」のように提示されても、そこで何が書かれていたか思い当たらない、ということが結構ありました。
文字数・ページ数が多少増えても、その内容の概略でもあればよかったのになと思いました。
・本のタイトルに挙げられている格差についてと、格差が虚構であることについて、本文であまり触れられていなかったように思いました。
格差以外についても、同じ内容の繰り返しや、まとまりのない論考も多かったように思います。
・様々な思想が虚構であったとして、その思想に基づいて構築された社会がそれなりにうまく回っているのであれば、そこまで問題にする価値があるのか疑問に思いました。
ある思想に真実や確かな根拠があったとして、その思想に基づく社会がうまく回るかどうかは別問題だと思いますし、そもそもその現代・近代の思想に代わる社会の根本になるべき思想などについては触れられていないので、著者の論述はただの思考実験であるに過ぎないように思えました。