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【春秋左氏伝 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典】レポート

【春秋左氏伝 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典】
安本 博 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4044072264/

○この本を一言で表すと?

 「春秋左氏伝」そのものについての解説と、ごく一部が紹介された本

○よかったところ、気になったところ

・「春秋左氏伝」と関連する「春秋」や「春秋公羊伝」「春秋穀梁伝」などの紹介と背景、記載内容の差異などについて書かれていて、「春秋左氏伝」の特徴である「春秋」に記載のない伝が多いことや、他の「春秋公羊伝」「春秋穀梁伝」とは異なる解釈が見られることなどが説明されていました。

・「春秋左氏伝」に記述されていることの意味や、その時代における背景説明、解釈などがあり、実際に春秋左氏伝を読んでも理解できなかったところや、「春秋左氏伝」で参照されている他の古典を引用している意味で、自分の感覚で読んだ解釈と真逆の解釈だったりするところなどもあり、理解を深めることができました。

・コラムが4つ挿入されていて、それぞれ面白かったです。
関羽が「春秋左氏伝」を愛読書としていたことと、毛沢東が孔子廟を破壊しても関帝廟は残していたこと、福沢諭吉や夏目漱石が愛読書とし、褒め称えていたこと、宮城谷昌光さんが春秋左氏伝の記述を元にした小説で直木賞を受賞したことなどが書かれていました。

・一般的に批判的な意味で用いられる「宋襄の仁」について、「史記」や「春秋左氏伝」は批判的に記述しているものの、「春秋公羊伝」では戦時の重大局面においても礼を守りきったことを周の文王よりも優れているとして絶賛しているそうです。
同じような時代に書かれたものでも、評価の視点によって違う見方になっているのは興味深いなと思いました。

・「陳の夏姫」の話はわかりやすいくらいにドロドロした話である一方で、「春秋左氏伝」の評価が現代の感覚からすると不思議に思えたところでした。
陳の霊公と卿の孔寧・儀行父の三人が大夫の夏御叔の妻の夏姫と密通して夏姫の肌着を身につけてふざけあっているところ、大夫の洩冶が諌めたところ、孔寧・儀行父が洩冶を殺そうとし、霊公はそれを止めず、洩冶は殺されてしまった。
その年の五月に、夏氏の家で酒宴があり、霊公と儀行父がお互いに夏姫の息子の夏徴舒があなたが似ていると言い合い、それを耳にした夏徴舒が気に病んで霊公を射殺した。

この話で、洩冶は「明哲保身」の出処進退の原則に反していて浅薄であると判断され、夏徴舒は主君を殺したという罪で後に討伐されてしまったそうです。

○つっこみどころ

・この本で紹介された春秋左氏伝の文章は、春秋左氏伝全体の1~2%程度で、全体を代表するような内容でもなく、春秋左氏伝全体をつかむことができず、入門本としては不十分な内容であるように思えました。

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