【夫婦仲の経済学 皿洗いからセックスライフまで、妻と夫の不満は経済理論で解決】
ポーラ・シューマン (著), ジェニー・アンダーソン (著), 永井 二菜 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4484121085/
○この本を一言で表すと?
夫婦間で起きる様々なトラブルについて経済学を処方箋として解決する本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・経済学の基礎的は理論を丁寧に説明し、それを夫婦間のトラブルに当てはめて解決する、もしくは解決した手法を経済学的と判断する、という内容でした。
もちろんテーマがテーマなので、こじつけに近い内容もあったように思えますが、経済学の内容を理解する目的でもよい本であったように思えました。
・各経済学の理論を打ち立てた経済学者の説明で、その経歴に夫婦仲の内容まで記載されているのは、「経済学者の夫婦仲」としてこの本のテーマの裏返しになっていてユーモアが効いているなと思いました。
・30組の夫婦(一部例外あり)の事例、背景が事細かく書かれていて、アメリカのホームドラマをダイジェストで観ているような感覚で楽しめました。
・ちょいちょいでてくる「手間とひまと金をかけた世紀の夫婦実態アンケート」の調査結果が意外だったり、日本だとどうなるのかなと思ったり、いろいろ考えさせられる内容でした。
第1章 労働の分業
・アダム・スミスが提唱した分業と、デビッド・リカードが提唱した比較優位の話を家事に適用して、完全な公平を志向した分業から、比較的得意な家事を割り振る適切な分業に変更した話は面白いなと思いました。
第2章 損失回避
・利益を得るより損失を被ることを重く考える損失回避の思考は自分にもありがちで、自分の所有物への価値偏重も、引っ越しなどのきっかけでようやく本を処分できたことがあったので、大いに自覚するところだなと思いました。
その引越しがリフレーミングするきっかけになったのかなとこの章の事例を読んで思いました。
第3章 需要と供給
・需要と供給のバランスが自動で調整されない場合の改善策の一つとして、シグナリングがあるそうですが、これを夫婦生活に使うというのは面白いなと思いました。
「Yes・No枕」なども露骨ですがある意味シグナリングかなと思いました。
第4章 モラルハザード
・モラルハザードの解決として、出資をさせることでインセンティブを与えるということと、子育て・家事への参加を結びつけるのは若干強引な気もしますが、荒療治の一つとしてありなのかもしれないなと思いました。
但し、失敗するリスクも見込まないと破綻しそうだなとも思いました。
・逆誘引の話で、インセンティブの目的とそのインセンティブが一致していない場合の是正は、会社組織などでも大いにあり得る話で、個人的にも重要だなと思いました。
第5章 インセンティブ
・インセンティブによって目的を達成する方法というより、その濫用をやめて、外発的誘引から内発的誘引に切り替えた方がうまくいくという話が述べられていたように感じました。
第6章 トレードオフ
・複数の達成したい内容に固執して身動きが取れなくなった時に、優先順位を定めてどれかを達成し、どれかを諦めること、一時的にどちらかが不利益を被っても将来的な利益をとることなどが事例として挙げられていました。
・有名なアルフレッド・マーシャルがキャリアか恋のトレードオフを迫られ、恋を選択したエピソードや、事例のなかで奥さんが樽の上で逆立ちをしてビールを一気飲みしているところが出会いのシーンだったエピソードなど、全ての章で一番インパクトがあった章だったと思いました。
第7章 情報の非対称性
・コミュニケーション不足で互いの意図が伝わらずに喧嘩になるケースはかなり多そうで、そのケースと情報の非対称性を重ねているのはうまいなと思いました。
円滑なコミュニケーションがうまくいかない場合には、シグナリング、事実申告など、取り決めで何とかするという試みが大事な気がしました。
第8章 異時点間の選択
・冷静な時と熱くなっている時の考え、選択が異なるというのは、それこそ冷静な時に考えると当たり前に感じますが、熱くなっている時には気付かないのだろうなと思いました。
冷静な時に決めたことを熱くなった時にも継続できる仕組みを導入するというのは、結構大事なことのように思えました。この考え方は、自分自身で何かの努力を継続する時にも継続できそうな考え方だと思いました。
第9章 バブル
・確証バイアス、群集行動など、過去の成功や周囲の行動・意見などが意思形成に関わって、その延長でしか意思決定できないことの弊害は、個人でも社会でも大いに経験してきたことであり、社会の場合はその傾向がバブルに繋がるというのは分かりやすい説明だなと思いました。
第10章 ゲーム理論
・基本的なゲーム理論について紹介しながら、夫婦を事例にして説明されていました。
○つっこみどころ
・女性二人が著者で、アメリカで出版され、翻訳者も女性・・・ということで、かなりオープンに性描写が書かれている本だなと思いました。
特別それがいやらしくは感じられませんが、400ページ強の本で1,000回以上はセックスという言葉がでてきたのではないかと思えるほどで、やり過ぎである気がして笑えてきました。
・30組の夫婦でうまくいった方法・・・と思わせておいて、1組は離婚してしまい、1組はゲイのカップルというのは意表を突かれました。