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【デフレーション―“日本の慢性病”の全貌を解明する】レポート

【デフレーション―“日本の慢性病”の全貌を解明する】
吉川 洋 (著)
http://www.amazon.co.jp/dp/4532355486/

○この本を一言で表すと?

 古典派マクロ経済学者が今の主流になっている現代マクロ経済学者の学説を批判し、自身の意見を述べている本

○この本を読んでよかった点・考えた点

・経済学に疎い私でも知っているような経済学者や元日銀総裁の意見を爽快なほど統計データを基にめった切りにして、自身の意見を述べているのは面白いなと思いました。
批判対象として日本の経済学者でも本屋で何度も見たことがあるような名前が並び、クルーグマンなどの有名な海外の学者も並び、彼らをまとめて批判しているのはすごいなと思いました。

・日経新聞などに載っていた記事がよく引用されていて、当時にどのように発言され、どのように受け止められていたかがわかって面白かったです。

・著者の主張「貨幣数量を上げても利率に影響を与えるだけ。それだけでデフレが解決するわけがない」と現代の主流の経済学者の主張「貨幣数量を上げれば物価が上がり、デフレが解決する」の対比とそのそれぞれの論拠が書かれていてわかりやすかったです。
ただ、シンプルに書いてくれているだけに、その裏にある論理を知らないと著者の主張をそのまま鵜呑みにするのは危険かもしれないなとも思いました。

・「ゼミナール現代日本政治」もそうでしたが、日本経済新聞出版社の本は日経新聞の記事を載せて当時の状況がわかるようになっていて、新聞社が出版物を出しているシナジー効果がでているなと思いました。

第1章 デフレ論争

・中学校の社会の時間か何かで「ほとんどないけどインフレの逆のデフレってのもあるからな」と聞いたことがあり、「デフレはインフレの逆で物価が下がる」くらいに単純に考えていましたが、「デフレ」の定義やその影響について何種類かの学説が述べられていてわかりやすかったです。

第2章 デフレ20年の記録

・バブル崩壊からアジア通貨危機、大手金融機関破綻、ITバブル崩壊、不良債権問題、原油価格上昇、食料危機、リーマンショック、政権交代、東日本大震災、と事件尽くしの日本の状況を当時の記事を追って詳しく知ることができて興味深かったです。

第3章 大不況1873―96

・過去のイギリスの不況を通じて、古典経済学の有名な人たちが当時の状況をどう分析して理論を打ち立てたか、貨幣数量説のマーシャルが当時の状況に貨幣数量説を適用することを避けていたことなど、なかなか面白く、この当時の経済学者を著者が尊重し、同じ意見を持っていることが伝わってきました。

第4章 貨幣数量説は正しいか

・この本のなかで一番ページ数を多く割いて、貨幣数量説の概説とそれに対する批判が書かれ、クルーグマンが日本の状況を参考にして学説を打ち立て、それを日本が受け入れてその学説通りに動こうとしていること、その根拠が曖昧であることが書かれていました。
この章で書かれていることが本当なら「間違った梯子を急いで上る」ということを日本がやってきたのかと思うと、一つの考え方の影響力というのはすごいなと改めて思いました。

第5章 価格の決定

・一次産品と「つくられたモノ・サービス」は違う論理で価格が決定され、一次産品は需要と供給の交わるところで、「つくられたモノ・サービス」は生産コストに適正なマークアップで決まるというのはなるほどと思いました。
違うというより、「つくられたモノ・サービス」の方は供給曲線が生産コストに許容できるマークアップの下限で垂直になりそうなイメージかなと思いました。

第6章 デフレの鍵は賃金

・日本だけがデフレに陥っている理由として日本だけが名目賃金が下がっている、という説はシンプルでわかりやすいなと思いました。

・ミクロ的に良いことがマクロ的には悪いことになってしまう「合成の誤謬」が雇用を守るために賃金を下げることがさらに雇用の基になる企業・経済自体を悪化させるという意味で使われているのはなかなか面白いなと思いました。

第7章 結論

・ミクロな環境を束ねてミクロ経済学をマクロ経済学に適用するというのが現代の主流で、著者がそれに大いに反対して著者自身の過去の言説を取り上げていたり、デフレに至る害悪の原因はコストカットによる「プロダクト・イノベーション」から「プロセス・イノベーション」重視への移行で、デフレで環境が悪くなればよりプロセス側に移行するという悪循環に陥っているという説を述べていたりして面白かったです。

○さらに知りたいこと

・経済学をある程度知っている人を前提に書かれていた本だったように思いました。批判的に読もうにも私にはその前提知識がないのでできなかったのですが、この本に対するつっこみどころがあれば知りたいです。

・ところどころ、「統計的な数字を恣意的に用いる」ことについての批判があって面白いなと思いましたが、著者自身の統計の用い方におかしいところはないかを知りたいです。

○つっこみどころ

・ページ数が少なく、ページあたりの文字数も少なく、割と読みやすい本だと思って読み始めましたが、経済学の見解が当たり前のように説明なくでてきたり、考えながら読まないと理解できない(考えても理解できないこともある)ところもあり、フェイントをかけられたように思いました。

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