【人類が知っていることすべての短い歴史】
ビル ブライソン (著), 楡井 浩一 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4140811013/
○この本を一言で表すと?
科学史と科学者ゴシップの本
○よかった点、興味深かった点
・ページ数がかなりありましたが割と読みやすく、最後まで楽しく読めました。
この本を読むことで科学について詳しく知ることができるというより、科学がどういった変遷を遂げてきたかがわかる「科学史」を面白おかしく語れる小ネタをたくさん仕入れることができたように思います。
・学校で習った科学の背景に、科学者の功績だけでなく、人間らしい力関係などで定説が定まったりひっくり返されたりしてきたこと、科学者が功績の裏でやっていたことやその末路などをいろいろ知ることで、「科学的発見の偉人」というだけでなく、妙に人間らしいというか際立った変人といった側面があったことを知って面白かったです。
・科学者は重大な発見を見つけることだけではダメで、それをうまく説明したり、うまく文章化したり、うまく公表したり、うまくプレゼンしたりすることができなければ全く見向きもされないのだということは、ある意味ビジネスよりも厳しい世界なのかもしれないなと思いました。
第Ⅰ部 宇宙の道しるべ
・宇宙の広さなどが10の何べき乗という表現ではなくて、イメージしやすい単位で書かれていて面白いなと思いました。
・お手製サイズの望遠鏡で超新星を発見していくオーストラリアのエヴァンズ師の才能はすごいなと思いました。
・「超新星」という存在に初めて気づいたツヴィッキーがフィットネス狂でどこでも片手腕立て伏せをやってのけるというエピソードは、天文学には全く関係ないですがウケました。
第Ⅱ部 地球の大きさ
・緯度差一度に対する子午線の長さ(地球の外周の360分の1)を測るために派遣されたペルー調査隊の苦難っぷりはすごいなと思いました(リーダー2人の仲が険悪、地元民に石を投げられる、女性問題で医師が殺害される、植物学者が発狂する、隊員が13歳の少女と駆け落ちする、など)。
・ハレー彗星の名前の下になったハレーがいろんな職業人生でいろんな功績を残してきた中で、彗星の発見だけはやっていない(他の者が過去に発見した彗星が同一のものだと気付いただけ)というのは面白いなと思いました。
・ニュートンがかなりの変人だったというエピソードも面白かったです(自分の目玉で実験、考え出した微積分や分光学を数十年間秘匿、有名な著作「プリンキピア」の結論の巻の出版を拒む、など)。
・子午線の長さを精確に計測したノーウッドが息子や娘婿に徹底的にいやがらせされて晩年を過ごしたというのは可哀そうなことだと思いました。
・才能があるのに異様に人が苦手なキャヴェンディッシュが、それでもその知識を知りたい人たちから話すときに目を合わせないなどの気の遣われ方をしていて、ついには引き籠って現代でも計測数値がほとんど変わらない地球の質量などを導き出したりしていたのはすごいなと思いました。
・独力で地質学という分野を生み出すほどの才能を持っていたのにもかかわらず、自分の見解を他人に理解させることが絶望的に下手くそだったハットンの話は、科学者にもコミュニケーション能力が必要だということがよくわかります。
親友のプレイフェアがハットンの理論をわかりやすくまとめてくれたからいいものの、そうでなければ地質学の発展がかなり遅れたのだと思うと、人の才能や人の縁、そしてその組み合わせの大事さがわかるような気がします。
・何でも食べてみるバックランド師が真夜中にキロテリウムの足跡と亀の足跡がそっくりだと思いついて奥さんを揺すり起こして亀を捕まえてこねた小麦粉の上を歩かせて夫婦で喜んだというエピソードは、他の科学者変人エピソードに比べると微笑ましい気がしました。
・オーエンという「恐竜(ダイナソア)」という用語を創った人物が、古生物研究者として他の研究者の功績をパクったり蹴落としたりしてかなり傲慢で悪事をためらわないような人物だったというのは「恐竜」好きな人からすると嫌な話だろうなと思いました。
・さまざまな元素を発見したシェーレが研究材料を何でも舐めてみずにはいられないという人物で、水銀や青酸なども舐めていて、43歳の若さで度肝を抜かれたような表情で息絶えていたという話は、いろんなエピソードの中でもなかなか突き抜けているなと思いました。
・有名なラヴォアジエがフランス革命のときに断頭台で処刑され、その死後100年経って建てられた彫像の頭部が彫刻家の手抜きで別人のものだったというエピソードは不謹慎かもしれませんが笑えました。
・偉人で有名なキュリー夫人が不倫をしていたために科学アカデミー会員に選ばれなかったという話や、キュリー夫人が1890年代に使っていた書類や料理の本ですら現在でも防護服なしには取り扱えないくらいに放射能で汚染されているという話は初めて知りました。
第Ⅲ部 新たな時代の夜明け
・アインシュタインが大学の教授どころか高校の教師にすらなれず、特許の下級技術調査官という立場で相対性理論を考え出したというのはすごいなと思いました。
・原子の考え方を打ちだしたドルトンが12歳で学校の責任者になるほどの聡明さを得ながら自分自身は栄誉を望まずに少年たちに加減乗除を教えるような人物だったというのは、いろんな人物が登場するこの本でも格別の人格者だなと思いました。
・地球の年齢を導き出したパターソンが石油業界に対して鉛被害について追求し続け、大気汚染防止法の導入の後押しまでしながら、石油業界からの弾圧を受け、功績が世に広められなかった(ある雑誌では女性に間違えられたりした)というのは清廉な人物が不遇な人生を送ることになった悲しい話だなと思いました。
・今では当たり前のように教えられる地殻移動について、長い間有力な学者の反発から認められず、地殻移動を否定する側の著書にアインシュタインが賛辞を贈るような時代があったということには驚きました。
今当たり前のように受け止められていることがそれほど前でなくてもそうでなかったことがあるという当たり前のことにはっとさせられました。
第Ⅳ部 危険な惑星
・隕石で地球の環境が変わるほどのダメージを受けることをなかなか信じられない状況で、木星にレヴィ彗星が衝突するという大事件が起きることで信じてもらえる状況になったというのは幸運にも程があるなと思いました。
・イエローストーン国立公園の名前は聞いたことがありますが、公園全体(9千平方キロ)が超火山のカルデラというのはとてつもないなと思いました。
第Ⅴ部 生命の誕生
・地球の環境がとんでもなく小さい確率で成立しているという話は聞いたことがありますが、いろんなエピソードや比較の話を改めて読んですごいなと思いました。
生命誕生の確率についてもどんでもなく小さい確率だと聞いたことがありますが、実態を詳しく知ることで想像以上だなと思いました。
生物学者がみな「神の存在を信じざるを得ない」という結論を出すと聞いたことがありますが、その気持ちも分かる気がします。
すべてが偶然と考えるのではなく、偶然できたものを固定してその上に偶然を積み上げることのイメージで、完全に進化論を否定しそうなところをギリギリ踏みとどまれる気がしました。
・細菌、粘菌、バクテリアなど、結構似たようなものと思っていたものが、人間と他の動物以上にすごくかけ離れているという話は、生物の多様性が想像以上に広がっていることを感じさせました。
・二名法を考え出した有名なリンネが、エロ中学生が辞書のエロ単語にチェックをするようなイメージの命名をしていたというのには吹き出すほど笑いました。
・存在する生物が多様過ぎて、細かい分野の専門家は存在するものの、それを引き継ぐ方法がなく、専門家が辞めるなり亡くなりすると研究成果も消え失せてしまうという話は仕方のないものだと思いますが、もったいないなと思いました。
ワイアード誌の会社が生物のデータベースをつくる話は別の本で読んで期待していたのですが、予算が付かず進んでいないという話はがっくりきます。
ググってみるとこの本がアメリカで出版されて以降もいくつか活動している様子がヒットするので、うまく進んでほしいなと思います。
・ダーウィンの「種の起源」は最近読んだので内容が重複していてかなり理解しやすかったです。
ダーウィンが世界中で見聞したビーグル号の船長はかなり不遇だったことや、ダーウィン自身が当時は博物学の素養がなくて他の人の見識に頼っていたことなどは初めて知りました。
ダーウィンとメンデルが同時期に研究しているのに研究結果をあまり参照し合っていなかったという話は初めて知りましたが、残念だなと思いました。
・「DNAの構造研究と言えばワトソンとクリック」とすぐに繋がるくらいに覚えていましたが、その背後にウィルキンズと女性科学者のフランクリンがいて、研究結果はほとんどワトソンとクリック以外のものだったというのは初めて知りました。
第Ⅵ部 わたしたちまでの道のり
・氷河期の高さ300メートル以上の氷が動くというイメージはとてつもないなと思いました。
氷河が大地を削るイメージが頭に描けないヨーロッパでは認められず、アメリカでは認められたという話は、人は自分の頭で繋げることができない事象は信じないという性質がよくでているなと思いました。
・猿人、原人、旧人、新人などの歴史の年表などを見たことがありますが、その発見の歴史には初めて触れました。
かなりの混乱があること、証拠の少なさなどを越えて、それなりの結論を出せているだけでもすごいなと思いました。
○つっこみどころ
・固有名詞に今ではほとんど漢字で書かれないようなものにまで無理に漢字を使っていて読みにくいなと思う箇所がいくつもありました。(縞馬=シマウマ、騾馬=ラバ、驢馬=ロバ、など)