【戦争とは何か 国際政治学の挑戦】
多湖 淳 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121025741/
○この本を一言で表すと?
戦争とその要因を定量的に分析する国際政治学の本
○よかったところ、気になったところ
・データセットの定義やデータの収集で分析対象を形成し、それに対して分析することで戦争とその要因・要素の相関関係・因果関係を導き出すというアプローチの国際政治学についての本でした。
・最後に補遺として、この本で分析対象としているデータセットを有する団体とそのデータセットの属性の説明や、分析手法について説明されていました。
序章 戦争と平和をどのように論じるべきか
・戦争と平和の定義、戦争は数えられるが平和は数えることができないことが述べられていました。
病気であることと健康であることで例えられていて分かりやすかったです。
・戦争と、戦争に似た内戦、紛争、危機、エスカレーションなどとの違いについて説明されていました。
戦争は国家間の対立であること、内戦は国内の勢力同士の対立であること、紛争は戦争の規模に至っていない争いであること、危機は戦争の手前の「きわ」にある状態、エスカレーションは紛争、危機、戦争へと拡大していくこと自体を指していることが説明されていました。
・従来の国際政治学はリアリズム、リベラリズム、コンストラクティビズム(構成主義)の三つのイズムで考えられてきたが、この本ではエビデンスに基づく科学的な研究による国際政治学の知見を述べるとしていました。
第1章 科学的説明の作法
・科学的説明として、1対1の国同士のデータセットを収集し、説明変数に係数を乗じて結果と照合し、誤差を計算する流れについて述べられていました。
・戦争のコストとして、政策の機会費用、軍需品のコスト、為政者のコストが挙げられ、戦争より交渉で解決するほうが合理的と判断される場合が多いことが述べられていました。
第2章 戦争の条件
・A国とB国の間でそれぞれが戦争より交渉を望む範囲を重ねて検討する交渉理論について述べられ、情報の非対称性、コミットメント、宗教・領土などの価値不可分性が、情報がオープンであるときの交渉と異なった結果になることが説明されていました。
第3章 平和の条件
・独裁国を文民主導・軍人主導、個人的カリスマ・集団指導体制の二軸で分類し、文民・カリスマをボス、文民・集団指導体制をマシーン、軍人・カリスマをストロングマン、軍人・集団指導体制を軍政としているのは興味深いなと思いました。
・国家間の戦争の可能性を低くする民主主義国同士の平和、報道の平和、商業的平和、制度的平和等についての説明と、それぞれに対する異論が説明されていました。
民主的平和が中心にあると考えられるそうですが、どの要素がどれだけ平和に貢献するかは検討の余地があるそうです。
第4章 内戦という難問
・内戦と内戦の原因、内戦の原因別の期間や被害の違いなどについて述べられていました。
資源産出地を巡る内戦や分離独立の内戦は長期化する傾向にあるそうです。
第5章 日本への示唆
・日本を取り巻く状況について国際政治学の観点から検討されていました。
成熟した民主主義国家であることから相手が民主主義国家であれば戦争になりにくいものの、日本の相対的な地位低下による日本人の不満蓄積や、日本の軍事的地位向上による他国の警戒等で、戦争になるリスクは変動するとのことでした。
第6章 国際政治学にできること
・データの分析によって平和愛好国か戦争中毒国かの分類と、過去の戦争とそれに至る要素の分析から将来の戦争の可能性を推論できること、戦争防止のための知見にもなること等が科学的知見による国際政治学の役割になるそうです。
○つっこみどころ
・戦争と戦争に至る条件を定式化して、分析可能なものにするという試みですが、その試みに執着しすぎて属人性の排除にこだわりすぎ、逆に客観的に判断できていないようにも思えました。
サンプル数が少なく、条件との相関関係が見出だせても、因果関係は後付になるだけで、過去の分析はできても現在・将来に活かせるレベルにはならなさそうに思いました。
・第2章で第一次世界大戦や第二次世界大戦は三十年戦争も同様のレベルだったから特別な戦争ではないとしていましたが、人口10万人あたりの戦死者数で比較していて、三十年戦争の時代と近代の人口の違いなどの説明はなく、死者数では全く異なっていて無理がある説明ではないかと思いました。