【最新ドイツ事情を知るための50章】
浜本 隆志 (著), 柳原 初樹 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4750330345/
○この本を一言で表すと?
ドイツに詳しいドイツびいきのドイツ事情の本
○この本を読んで面白かった点
・経済についての章があまりなかったように思いますが、政治・文化・制度など全体的なドイツのイメージを掴むことができて良かったです。
Ⅰ 少子高齢化
・ドイツの特殊出生率が日本と同じレベルで低いということを初めて知りました。
婚外子の割合は日本と比較にならないくらいに多いようですし、30代の出産がほとんどというところもあり、日本と違って「生みたいときに生む」という感覚が尊重されているように思いました。
・年金制度や介護保険制度が赤字になりながらも日本と違って前向きに対処していけているところは政治家がしっかりしているのかなと思いました。
・兵役がまだ存在していて、その代替業務として介護業務に就くことが認められるというのは、既存の制度をうまく活用した政策だなと思いました。
Ⅱ 社会福祉のセーフティネットワーク
・社会福祉政策を必要なときに大きく転換できている印象を受けました。
日本だと生活保護制度などの実態が評価・検証されていないため、ワーキングプアが生まれやすくなっていますが、ドイツでは制度を失業給付⇒失業扶助⇒社会扶助と3段階に分けて日本よりは実態に適合する制度に切り替えられているなと思いました。
Ⅲ ここが違う、ドイツ人の暮らし
・ドイツの消費税率が19%と聞くとかなり高いように思えますが、品目によって何段階かに分けて税を課しているのでまだましなように思えました。
ドイツだけでなくいろんな国で消費税(付加価値税)を品目別に施行しているにも関わらず、日本ではできないというのは不思議な気がします。
・ワークシェアリング、ミニジョブ(月額400ユーロ以下の賃金で勤務)、1ユーロジョブ(訓練目的で時給1~2ユーロで働く)など、フルタイム以外にもいろいろな働き方があるなと思いました。
・ドイツの監査役会で労資が半分ずつ役員となる話は知っていましたが、議長に資本側が付くので結局多数決では資本側の意向が通ると聞いていました。
取締役の選定などで監査役会の3分の2の同意が必要なのであれば、思っていたよりも労働側の意向が強そうだなと思いました。
・休暇は国内より海外で過ごす方が多いというのは面白いなと思いました。
EU統計局の統計で3日以下の滞在日数のデータが考慮されずに表にされているのは、そもそも3日以下では休暇として考えられないという感覚なのかなと思いました。
Ⅳ 転機に立つ教育
・移民が多く、その移民がドイツ語をうまく扱えないために社会から弾かれてしまうという状況に対して、政府が教育制度を整備して改善しようという意気込みが伝わってきました。
日本だと形だけで予算だけ投入して効果が上がらないようなことしかできないだろうなと思いますが、ドイツでは問題発見⇒対策検討⇒対策実施⇒状況監視というサイクルをしっかり回せているように思います。
・独仏共通教科書を両国の複雑な関係を越えて「負の過去」を客観的に見つめ直して刊行したという話にはとても驚きました。
そういった行動を起こせる人材がドイツにもフランスにも存在しているというのはすごいなと思いました。
・フランスではグランド・ゼコールと呼ばれるエリート大学の競争率がとても高く、それ以外の大学卒では就職率や給与がガタ落ちになってしまうほどなのに、隣国のEU2大強国の片割れのドイツでは受験競争がほとんどないというのは驚きでした。
・ドイツのマイスター制度は日本よりも資格の必要性が高くなっていて職に就けた者の収入は確保されそうだなと思いました。
こういった制度は時代に合わせて変えていかないと既存業者の過保護に繋がってしまうのだなと思いました。
Ⅴ 進化する環境政策
・ドイツは環境先進国のイメージですが、それ自体が国民性となっていると言うより、容器のリサイクルを進める強制デポジット制度や非化石燃料エネルギーの固定価格買い取り制度、環境税の導入など環境に優しい行動が得をするインセンティブを制度としてうまく組み込んでいるのだなと思いました。
Ⅵ 外国人との共生
・外国人が人口に占める割合が大きい国として、移住法や滞在法などの入り口の整備、適合するための教育制度や国籍取得のための試験などの仕組み、多言語対応可能な教育者の準備、イスラーム教のモスクや教科書の受容など、入り口から定着までの様々な段階での制度設計がなされているのだなと思いました。
Ⅶ 歴史認識と政治の特色
・東西ドイツの統一は統一された当時の東ドイツの人の歓喜の状況がよくイメージされますが、現在では東ドイツ住民が昔の方がよかったという方が多いというアンケート結果が出たと聞いたことがあります。
資本主義のルールに馴染まないまま、急にそのルールの下に放り込まれたことで対応できない人はかなり多かっただろうなと思いますし、今後の南北朝鮮の統合でも同じ問題が噴出しそうだなと思いました。
・戦争責任についてかなりの配慮をもって取扱い、同じような事態が起こらないように基本法(憲法)に抵抗権などの条文を盛り込み、ネオナチなどに対して法律上でも厳密に対処するなどの対応は、日本のあいまいな対応に比べてかなりしっかりしている印象を受けました。
・連邦制と地方分権がかなりのレベルで進んでいて、日本では国税から地方に配分しているのとは対照的に、ドイツでは州税から連邦政府に配分しているというのは初めて知り、驚きました。
日本では政権交代すれば前政権の政策をほぼ全否定したのに対し、ドイツでは前政策の妥当性と国民の状況を配慮した上で継続する判断も下していることが印象的でした。
Ⅷ ドイツとEUの行方
・EUではドイツとフランスが二大強国として牽引しているイメージでしたが、中央集権国家のフランスと連邦国家のドイツで連邦としてのEUの捉え方がかなり違っているのは面白いなと思いました。
ドイツが連邦としてのEUに柔軟に対応している印象を受けましたが、EU内貿易で利益を受けながらPIIGSなどの財政破綻の危険がある国の支援については難色を示しているドイツの立ち位置についてはこの本では特に触れられていなかったように思います。
Ⅸ トピックとしてのドイツと日本
・日本食がドイツで認められつつあるというのは、ドイツ料理と日本料理の極端な違いから逆に受け入れられているのかなと思いました。
・ドイツでの貝印のポスターがいかにも「日本!」ということを打ちだしていて、文化的アイデンティティを打ちだすことが重要だということを意識しているのだなと思いました。
・自動車の発祥国のドイツで日本車の満足度がかなり高いというのは意外に思いました。スピードや頑丈さだけではなく、接客やアフターサービスなどの面での満足度が含まれていると書かれていましたが、要因別の満足度も知りたいなと思いました。
・日本のアニメやマンガがかなりの勢いで受容されているという話は、フランスが有名ですが、ドイツもかなりのレベルで受容されているというのは面白いなと思いました。
○つっこみどころ
・全体的にドイツびいきで客観的かどうか迷うところもありました。著者は二人ともドイツについての研究者なので、自分が研究対象としているものを高く評価してしまうというありがちなバイアスがかかっているのかもしれません。
・コラム9(P.265,266)でカントの提唱する「常備軍の撤廃」は日本国憲法の理念に受け継がれていると書かれていましたが、カントは自律的に行動することが大事、つまり動機が大事と説いていたのにほぼGHQが作った日本国憲法を例えに出すのはおかしいのではないかと思いました。