【珈琲の世界史】
旦部 幸博 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062884453/
○この本を一言で表すと?
コーヒーの品種や飲まれ方など諸説を踏まえて書かれたコーヒーの世界史の本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・理系の著者だからか、コーヒーの伝来についても諸説あることを述べたり、品種ごとの伝来ルートについて検討されたりしていて、ロジカルな歴史の本だなと思いました。
コーヒーやコーヒーの語源になったものの作用などにも触れているところも理系っぽいなと思いました。
序章 コーヒーの基礎知識
・コーヒーが、水、お茶に次ぐ3番目に飲まれている飲料であること、使用量で言えば一杯のコーヒーは一杯の茶の5倍使用することから茶よりも多いというのはすごいなと思いました。
・コーヒーのアラビカ種とロブスタ種は知っていましたが、三大原種の一つのリベリカ種については初めて知りました。
三大原種のどれもがアフリカ原産というのは興味深いなと思いました。
・コーヒーの生豆を生産する過程でも乾式、水洗式、半水洗式などの複数の方法があり、コーヒーの味に関わってくるというのも興味深かったです。
1章 コーヒー前史
・コーヒーの発見伝説や種としての発祥などについて書かれていました。
コーヒー自体は420万年前から自生していたものの、飲料用にされたのは今から10世紀前くらいというのは興味深いなと思いました。
・原産地のエチオピアのコーヒーセレモニーの話は、どうやって茶道のような文化がエチオピアに根付いたのか、最大部族のオロモ族が吸収した部族の文化だったのでは、とまでは書かれていましたが、そもそもどうやってその文化が生まれたのかが気になりました。
2章 コーヒーはじまりの物語
・コーヒーが文献に出始めた10世紀頃から5世紀ほど文献に出てこなくなり、15世紀頃にイエメンに伝来したということが、エチオピアのキリスト教徒とイスラム教徒の戦争などがきっかけで起きたと考えられることが述べられていました。
・コーヒーの語源「カフア」が、元はコーヒー伝来より前から覚醒作用のある飲み物を指していたとあり、その代表的なものが「カート」であると書かれていました。
カートが「覚醒作用」「アフリカ」「葉」ということで何か前に別の本で出ていたような気がしましたが、「謎の独立国家ソマリランド」という本で、ソマリアの人がタバコなどと同じ用途でムシャムシャ食べていた話が出ていたのを思い出しました。
・カートは生の葉を使うので採取から数日しか持たないところ、コーヒーは種子だから日持ちすることから、コーヒーが「カフア」として使われるようになったそうです。
3章 イスラーム世界からヨーロッパへ
・イスラーム圏でもコーヒーハウスが政治的な談話などに使われていて取り締まられていたというのは、以降のヨーロッパと同じ流れで興味深いなと思いました。
・ヨーロッパに至った4つのルートがそれぞれ説明されていて詳しいなと思いました。そのうちの一つ、オスマン帝国がウィーンに攻めた時に残していったという話しか知らなかったので勉強になりました。
4章 コーヒーハウスとカフェの時代
・コーヒーがヨーロッパに伝わった後で、各国でどういう位置づけだったのかがいろいろ違っていて面白かったです。
イギリスでは男性のみの身分違いの人たちが集まる社交場の飲み物として、フランスでは高級感ある場の飲み物として、ドイツでは女性が私的な場所で飲む飲み物として、と国によってこれほど違うのだなと思いました。
5章 コーヒーノキ、世界へはばたく
・大航海時代、植民地の時代とコーヒー生産が重なって、ジャワ、西インド諸島、アフリカのレユニオン島、南米など様々な地域で生産され始めたことが書かれていました。
この頃の活動が現在のコーヒー生産地に繋がっているのだなと思いました。
6章 コーヒーブームはナポレオンが生んだ?
・ナポレオンの大陸封鎖令でコーヒーが不足し、それが理由で失脚したという話まで出てくるくらいに不足感があった後で分コーヒーブームが起きたというのは、それまでにかなりコーヒーを飲むことが定着していたのだなと思いました。
この時代にコーヒーの焙煎機や抽出器が改善されていったこともコーヒーブームの背景にあるそうです。
・章の最後で書かれていたC・W・ポストがコーヒー・カフェイン害悪論を宣伝して代用コーヒーで大儲けした話、その娘婿がコーヒー業界トップの企業を買収してコーヒー業界に参入した話は面白いなと思いました。
7章 19世紀の生産事情あれこれ
・ナポレオンの影響でポルトガルがブラジルを暫定首都にして、そのおかげでインフラが発展してコーヒー生産にも影響した、という流れはいろいろなことが連鎖して面白いなと思いました。
・キリマンジャロやブルーマウンテンなどのあまり種類に詳しくない自分でも知っている銘柄の起源や、病気に弱いアラビカ種がインドやスリランカではさび病に襲われて衰退したこと、ジャワではアラビカ種の代わりとしてさび病に強いロブスタ種が改めて見出されてそちらに移行したことが書かれていました。
・コラムでアラビカ種が倍数体(染色体が多種の倍)でロブスタ種と掛け合わせることができなかったことなども興味深いなと思いました。
8章 黄金時代の終わり
・生産量が需要を上回ってブラジルが国策で買い上げようとして、資金が足りなくなってそれを引き受けてコーヒー王と呼ばれたハーマン・ジールケンの話、第一次世界大戦での大暴落、その後復活してすぐの世界大恐慌による大暴落、戦後の復興、とかなり波のあるコーヒーの状況が書かれていました。
・「コーヒーブレイク」という言葉が消費者離れを食い止められるために汎アメリカコーヒー局によって生み出されたというのは面白いなと思いました。
・コーヒー価格が安定しないと中南米各国が政情不安になり、キューバのように社会主義化する可能性がある、ということから国際コーヒー協定が締結され、維持されてきたというのも興味深かったです。
・中南米でもさび病が広がってから、偶然に倍数化したロブスタ種とアラビカ種から生まれた混合種であるHdT(ハイブリド・デ・ティモール)とアラビカ種を掛け合わせることでさび病に強いアラビカ種が作れた、というのはすごい取り組みで、これがなかったら中南米のコーヒーもロブスタ種になってアラビカ種が希少種になっていたのかもしれないなと思いました。
9章 コーヒーの日本史
・日本では明治にまず水商売としてのカフェーが流行し、それからコーヒーの味にこだわった純喫茶ができ、戦後には脱サラして始める業種としてカフェができ始め、自家焙煎などにこだわった店ができ、今の状況に繋がっているという流れが書かれていました。
10章 スペシャルティコーヒーをめぐって
・世界でもコーヒーの味にそれほどこだわらない人が主流で、それに不満を持った層がスペシャルティコーヒーとして豆の洗浄からこだわったコーヒーを淹れ始め、今に繋がっているそうです。
・スペシャルティコーヒーの台頭から高級志向に繋がって国際コーヒー協定が解除されたり、ベトナムコーヒーの増産でコーヒー価格が下落したり、何あの要因でコーヒーの状況が大きく変わることについて改めて触れられていました。
終章 コーヒー新世紀の到来
・21世紀に入ってから東アジアでもコーヒーブームが起きたこと、日本のサイフォン式のコーヒーが見直されたことなどが書かれていました。