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【失敗の本質―日本軍の組織論的研究】レポート

【失敗の本質―日本軍の組織論的研究】
戸部 良一 (著), 寺本 義也 (著), 鎌田 伸一 (著), 杉之尾 孝生 (著), 村井 友秀 (著), 野中 郁次郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4122018331/

○序章 日本軍の失敗から何を学ぶか

・ノモンハンは大東亜戦争に含まれないが、失敗の序曲といえ、ミッドウェーとガダルカナルは海戦と陸戦のターニングポイント、インパール、レイテ、沖縄は日本の敗色が濃厚となった時の失敗事例である。

○1章 失敗の事例研究

1.ノモンハン事件

 大本営と関東軍の意見の対立、大本営の命令が曖昧な表現で行われたこと、関東軍は統治機構としては機能しているが軍隊としては機能していなかったこと、敵軍情報の軽視、精神論・情緒論による配備と兵力換算(ソ連軍・外モンゴル軍に対して3分の1でも多いと判断)、物資の不足、兵力の逐次使用・・・などにより大いに敗北した。
情報機関の欠陥と過度の精神主義により、敵を知らず、己を知らず、大敵を侮った。

2.ミッドウェー作戦

 日本側の暗号が解読されていたことによる作戦の漏えいにより、戦力的には圧倒的に劣勢のアメリカ側は配置面で有利に立った。
山本司令長官と南雲司令官・軍令部の意識の齟齬による作戦目的の二重性(前者は空母の撃滅が目的、後者はミッドウェー占領が目的)、対してアメリカ軍はミッドウェーを一時占領されても空母の保全を優先することで徹底されていた(目的の一致)。
情報の軽視と奇襲対処の不十分さ(奇襲の前提として必要であった情報の欺瞞等の対策が全く行われていない、また逆奇襲を受けることを考慮していない)、索敵の失敗と先入観(米空母はミッドウェー付近には存在しない)、日本海軍の用兵思想(攻撃力偏重、防御軽視、ダメージ・コントロールの不備(日本は損傷後の対策の訓練がほとんどなし、対してアメリカはヨークタウンを応急修理して戦線復帰))

3.ガダルカナル作戦

一木支隊の急行、第一回総攻撃、第二回総攻撃の全てに失敗し、その4か月後に撤退することになった。
戦略的グランドデザイン、統合作戦の欠如(米軍はガダルカナル、ラバウルを経て日本本土への直接上陸というデザインがあったが、日本陸軍は主力を中国大陸に置き、海軍の太平洋における戦略とは完全に分離していたため、陸・海・空統合作戦がなされなかった)、攻勢終末点の逸脱(陸軍における兵站は敵軍より奪取するか現地調達、海軍は敵軍の撃滅を主要目標として補給の視点がなく、兵站は全く保たれなかった)、第一線部隊の自律性抑圧と情報フィードバックの欠如(兵站無視、情報力軽視、科学的思考方法軽視の風潮から硬直的な思考による抽象的な机上プランで第一線は動くが、練達な技量により戦果が挙げられていた。その戦果のフィードバックがなされず、戦略策定は成長しなかった)

4.インパール作戦

ビルマ防衛のための東インド攻撃構想(二一号作戦)が立案され、その案が成立する前提がなくなった後にさらに悪条件で東インドに攻勢をかける作戦が情実で認可され、鵯越の奇襲作戦が作戦開始前にが全て敵に知られて失敗していた。
第十五軍の牟田口の個人的性格、牟田口の学校時代の教官だった河辺の許容、無理な作戦が情実で上に認められていく過程から、当初困難と判断された二一号作戦より困難な前提で作戦が決行された。
人間関係や組織内宥和の重視は本来官僚制の硬直化を防ぐ機能を持つが、この場合においてはむしろ組織の合理性を歪める結果となった。

5.レイテ海戦

世界の海戦史上でも最大級の規模の海戦であり、サイパン島が落とされ「絶対国防圏」が崩壊した後の巻き返しを図る一戦だった。
ダバオ誤報事件(存在しない敵軍の報告で司令部が後方に下がり、フィリピン空襲で第四陸軍の空軍部隊はほとんど全機を失った)、沖縄空襲(米軍のレイテ上陸のための陽動作戦で、小部隊が大部隊であるように見せかけた)、台湾沖航空戦(米機動部隊のべ2,700機以上による空襲で日本側は航空機だけで550~600機を失った)で被害を負ったにもかかわらず、大本営は日本の劣勢を一挙に覆すような戦果を報告した(実際には米艦艇の損害は軽微だった)。
そのため、敵空母、機動部隊がほとんど無傷であることを日本陸軍は知らなかった。
複数の遊撃隊による緻密な作戦が構築されたが、意思疎通がなされず、レイテ上陸の機会があったにもかかわらず見逃す結果となり(栗田の回頭)、所期の目的を達成できないまま、被害としては惨敗という結果となり終了した。
作戦目的・任務の錯誤(勝算の少ないところで捨て身で勝ちを拾いに行く作戦であり、その上での目標達成がレイテ湾上陸であったが、栗田艦隊にはその重要性が伝わっていなかった)、戦略的不適応(ダバオ誤報事件、沖縄空襲、台湾沖航空戦の三つの出来事によって作戦遂行の要になる航空機の大量損耗を招いたが、作戦計画の見直しが行われず、そのまま実行された)、情報・通信システムの不備(栗田艦隊の通信連絡が人員の欠如などにより非常に悪く、協同が保てなかった)、高度の平凡性の欠如(命令違反、虚構の成功の報告が報じられるなど)

6.沖縄作戦

沖縄防衛のため、第三二軍が創設されたが、隷属関係にある第一〇方面軍、大本営との意見の相違、不信感から目的・作戦の不徹底により北部・中部の空港を米軍上陸1日目で抑えられ、それから第一〇方面軍、大本営の統帥干渉に従って守勢のつもりの第三二軍が北部・中部の奪還のために攻撃をかけるなど、右往左往した。
作戦準備段階で当然ありうべき事項(北部・中部の空港奪取)が検討されておらず、その対応が考えられていなかったことを始め、沖縄の状況や第三二軍の配備状況を指揮系統である第一〇方面軍、大本営が理解していなかったこと、第三二軍が自軍の基本任務の解釈について上層部を無視し、国家全体の戦略から逸脱する行動をとったことが要因。

○2章 失敗の本質

・6つの作戦に共通する性格

 (1)複数の師団あるいは艦隊が参加した大規模作戦であり、陸軍本部や海軍本部等の作戦中枢が関与している
 (2)作戦中枢と実施部隊との間に、時間的、空間的に大きな距離があること、実施部隊間にも距離があること
 (3)直接戦闘部隊が機械化され、補給、情報通信、後方支援などが組み合わさった統合的近代戦であること
 (4)日本軍の計画があらかじめ策定され、それに基づいて行われた組織戦であること

・戦略上の失敗要因(あいまいな戦略目的、短期決戦の戦略志向、主観的で「帰納的」な戦略策定―空気の支配、狭くて進化のない戦略オプション、アンバランスな戦闘技術体系)

・組織上の失敗要因分析(人的ネットワーク偏重の組織構造、属人的な組織の統合、学習を軽視した組織、プロセスや動機を重視した評価)

・要約

○3章 失敗の教訓

・軍事組織の環境適応( 環境、戦略、資源、組織構造、管理システム、組織行動、組織学習)

・日本軍の環境適応⇒「日本軍は環境に適応しすぎて失敗した」⇒恐竜と同じく、ある時期の環境に適応しすぎて、次の時期の環境に適応できない⇒「適応は適応能力を締め出す」

 戦略・・・陸軍は白兵戦から精神主義に、海軍は日本海海戦から艦隊決戦主義へ

 資源・・・陸軍は物的資源が乏しいため、人的資源の量的充実に偏り、近代兵器・装備は十分に整備されなかった。海軍は大鑑巨砲主義に走り、「攻撃は最大の防御なり」という考え方に繋がり、防空、航空機の防御、潜水艦の使用などのハードウェア・ソフトウェアの蓄積を怠った。

 組織構造・・・陸・海・空が統合されず、陸軍はソ連、海軍はアメリカを仮想敵国とし、分化されたままとなっていた。

 管理システム・・・年功序列と学校の成績で評価されるシステムから平時はよいが不測時に弱い上層部を生み出した。

 組織行動・・・日本軍では行動の手本となる英雄がいた・・・陸軍では乃木希典、海軍では東郷平八郎。ここから白兵銃剣主義と大鑑巨砲主義が発展した。

 組織学習・・・日本軍では既存の知識を強化することは成功していたが、既存の知識を脱却する学習棄却はできなかった。

 組織文化・・・価値、英雄、リーダーシップ、組織・管理システム、儀式などの相互作用で形成される。

・自己革新組織の原則と日本軍の失敗

 不均衡の創造

適応力のある組織は、環境を利用してたえず組織内に変異、緊張、危機感を発生させている。⇒日本軍は極めて安定した組織になっていて、学校の成績が良くてまともに務めていれば出世できるという体制になっていた。

 自律性の確保

適応性のある組織にするためには、各組織が自律性をもって組織間の影響力が軽い状態にしなければならない。⇒アメリカでは各組織の自律性を確保して業績を明確に評価することで統制していたが、日本では参謀本部に極度の集権化を図り、現場の自律性を制約していた。

 創造的破壊による突出

組織が揺らぎ続け、新しい構造へ飛躍する「自己超越」が進化を促す。
⇒アメリカでは真珠湾で低速戦艦を一挙に失い、新鋭艦を揃える機会になり、大鑑巨砲主義から航空主兵への転換を図ったが、日本では第一次世界大戦の近代戦を経験せず、技術革新に目を向ける機会を得ることができず、資源としてのヒトの戦略的活用ができなかった。

 異端・偶然との共存

イノベーションは、異質なヒト、情報、偶然を取り込むところに始まる。
⇒日本軍は異端を嫌い、また組織内の構成要素間の交流も少なかった。

 知識の淘汰と蓄積

組織は進化するために、新しい情報を知識に組織化し、生存に必要な組織を選択淘汰しなければならない。
⇒アメリカ軍は失敗も成功も分析してそれ以後の作戦に活かしていたが、日本軍は失敗の蓄積が行われず、成功した方法は盲目的に支持された。

 統合的価値の共有

自己革新組織は、その構成要素に方向性を与え、その協同を確保するために統合的な価値あるいはビジョンを持たなければならない。
⇒日本は陸・海・空軍の統合に失敗した。「大東亜共栄圏」構想を唱えても、各組織が短期的な利益を求めて、言行不一致になっていた。

・日本軍の失敗の性質とその連続性

 軍事組織は官僚組織ではあるが、静態的官僚制にダイナミズムをもたらすための「エリートの柔軟な思考を確保できる人事教育システム」「すぐれた者が思い切ったことのできる分権的システム」「強力な統合システム」が必要となる
⇒アメリカ軍は備えていて、日本軍は備えていなかった。日本軍は近代的官僚制組織と集団主義を混合させることで、特定の環境に適応しすぎて学習棄却ができず、自己革新能力を失った。

日本政府

無原則であるがゆえに国際社会で臨機応変の対応を可能とした。(1984年時点での見解)
「革新的」といわれる政党や報道機関は、特定のパラダイムのみで一元的に解釈し、まさに環境適応能力を失っている。

日本企業

 戦後は財閥解体とそれに伴うトップマネジメントの追放により、これまでの伝統的な経営層がいなくなり、一気に若返った。

 戦略面においては、論理的・演繹的な米国企業に対して、帰納的戦略策定によるオペレーションで継続的な変化に優れ、環境変化が突発的な大変動でなく、継続的に発生しているときには強みを発揮する。

 組織面においては、米国企業のような公式化された階層や規則や計画を通じた組織でなく、価値・情報の共有をもとに集団内の成員や集団間の頻繁な相互作用を通じて、組織的統合と環境対応を行えている。
 ⇔逆に考えると、戦略面においては①明確な戦略概念に乏しい②急激な構造的変化への適応が難しい③大きなブレイクスルーを生み出すことがむずかしい、組織面においては①集団間の統合の負荷が大きい②意思決定に長い時間を要する③集団思考による異端の排除が起こる、ということが考えられる。

今後は日本的企業組織も、新たな環境変化に対応するために、自己革新能力を創造できるかどうかが問われている。

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