【勝つための経営 グローバル時代の日本企業生き残り戦略】
畑村 洋太郎 (著), 吉川 良三 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062881519/
○この本をひと言でまとめると。
失敗学の大家とサムスン電子元常務の日本企業の現状とそこからの復活の本
○興味深い点
・P.56の製品開発の流れ、P.91のアナログものづくりとデジタルものづくりの比較、P.93のデジタルモノづくりの本質などの図が、著者が言いたいことがよく分かってよかったと思いました。
・第1部で、技術に対する幻想(技術よければ売れる)、ブランド力の軽視、日本企業の生産性の低さは特に目新しい話ではなかったですが、丁寧に説明されているなと思いました。
特に生産性について、アナログものづくりとデジタルものづくりの違いを根拠においているのは分かりやすくてよかったです。
・第3部で、サムスンの李会長の危機感とリチウムイオン電池への3兆円の投資や、そのリチウムイオン電池が電気自動車や発電そのもの(蓄電することで効率化)を考えているという話はすごいなと思いました。
・第4部で、基礎技術力という日本の優位を活かしつつ、コア技術を日本のマザー工場に残して海外進出(もしくは海外委託)という解決策は、それをどう実現するか・できるかは別として、うまくいけば機能しそうだなと思いました。
また、潜在的な強みとしての「秘伝のタレ」の活用の話で計量器メーカーや鏡メーカーが躍進した話が面白かったです。
・第5章で書かれている三つの官僚主義(形式主義、数量主義、管理主義)や、組織全体が中間管理職化の話は、かなり思い当たるなと思いました。(P.107~112)
・P.134で述べられている郷原信郎氏のコンプライアンスが「法令遵守」と誤訳されているという話は、以前「企業法とコンプライアンス」と言う本を読んだ時に書かれているのを覚えています。
フルセット・コンプライアンスとして「方針の明確化」「組織の構築」「予防的コンプライアンス」「治療的コンプライアンス」「環境整備コンプライアンス」の5つの要素を挙げ、積極的にコンプライアンスを導入することで企業価値を上げる考え方が載っていました。
○つっこみどころ
・第12章の組織改革の話で、「組織の特徴を把握し、効率的に進めるための戦略を持って臨むことです。それができれば、これまで難しかった組織改革を案外とスムーズに進めることができます。(P.203)」と書かれていますが、そんなに甘いものではないだろうと思いました。
・帯にデカデカと「円高・税制は負けている言い訳に過ぎない!」と書いてあり、また第1章でもそれに触れているのに、第2部の日本の3つの枷の一つで社会制度として税制のことも含めているのは、税制を言い訳にしてはならないという意味でのスローガンだと思いますが、言い過ぎではないかと思いました。