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【山に生きる人びと】
宮本 常一 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4309411150/
○この本を一言で表すと?
山の人を平野の人と比較しながらその生活に密着して描き出した本
○面白かったこと・考えたこと
・山で生きている人たちの変遷、平野の人と関わらざるを得なくなって変わっていく様子などが書かれていて興味深かったです。
あまり知らなかった世界のことが垣間見えたように思いました。
一 塩の道、二 山民往来の道 、三 狩人
・山で採れない塩を山の人がどのように手に入れていたかという論考で、塩焚きに必要な木を持っていって塩を得ていたり、山の人が海まで行って塩を作って帰ったりということが行われていて、そのために人通りがあり、道ができたこと、塩の専売制が始まってその道を誰も通らなくなったことが書かれていました。
山と海の交流とそれが途絶えた歴史はなかなか興味深かったです。
四 山の信仰
・山の信仰と修験道との絡みが面白かったです。肉食を禁ずる仏教との折り合いも興味深かったです。
五 サンカの終焉
・サンカという山で暮らす人がいて、山で狩猟採集をし、自然の物を加工してくらしていたが、昭和になって警察に追い立てられて平地に降りてきて同化したというのは、時代や制度が変われば意図しない生活の変化があること、それは現代でもあることを思い起こさせました。
六 杣から大工へ
・昔からある日本の大規模木造建築に杣といわれる専門家が適切な木を探し、伐り倒し、運んでいた歴史について書かれていて興味深かったです。
七 木地屋の発生、八 木地屋の生活
・山の住民が木地屋となり、木の盗伐を行いながらも「自分たちは古来から許可を受けている」と偽の文書を大事に持っていたという話、それが何百年前の物であってもある程度通用していたという話は興味深いなと思いました。
九 杓子・鍬柄
・昔から木工で生計を立てるものが少なくなかったこと、木工の道具を持っている者が少なかったために専門で生計を立てることができていたことはなるほどと思いました。
士農工商の身分制で、なんとなく士工商は街にいて、農は地方という区分けで存在していたイメージがありましたが、地方にも工で生計を立てている人がいるという当たり前のことをはっきり認識できました。
十 九州山中の落人村、十一 天竜山中の落人村
・山中の落人村の人たちがひっそりと暮らすどころか戦いに明け暮れた生活を送っていたこともあることが書かれていて意外でしたが言われてみれば腑に落ちる内容でした。
十二 中国山中の鉄山労働者、十三 鉄山師
・昔から鉄の道具が存在していましたが、それを加工する人だけでなく、それを採取する人、精錬する人がいるという当たり前のことを自分が考えていなかったことを思い知りました。
その採取と精錬を担う人たちのこと、その場所を変えながら生計を立てる営み、あらくれた人をまとめるリーダーシップの必要性など、いろいろ興味深かったです。
十四 炭焼き
・鉄山師が必要とする炭を供給する人がいたこと、鉄山師に合わせて移動していたこと、徐々に生活のための炭も供給するようになったことはなかなか興味深かったです。
十五 杣と木挽
・材木は切り倒すだけでなくその運搬が必要であり、その運搬で川に流すときに川にある岩などを取り除ける「ヒヨウ」という役目があったこと、冬期に行われるため過酷な仕事だったこと、木材を切ったところを農地として切り拓き、農家としてもやっていくようになっていったことなど、その流れも興味深いなと思いました。
十六 山地交通のにない手
・山では山だけで暮らしていくことができず、常に平地との交流が必要で、それを取りまとめる親方がいたというのはなるほどと思いました。昔から山伏が山の道案内を業として営んでいたという話も立ち位置的に納得でした。
十七 山から里へ
・消費の波が平地に遅れながらも徐々に山を侵食し、生産よりも消費の方が大きくなると山から里に下りてこざるをえなくなったというのは、「文明開化」の生々しい影響だなと思いました。
十八 民衆仏教と山間文化
・鎌倉六代仏教の内、「時宗」はそれなりに知られている割にどう分布しているかをあまり知りませんでしたが、口伝で伝わるような山で広く伝わっていたというのは初めて知り、そして納得感がありました。
附録 山と人間
・山に稲作が広まり、そこから畑作も行われるようになったのではなく、畑作が元々行われていてそこに稲作が入ってきたというのはなるほどなと思いました。
山に住む人たちが元々自然に生えている物をより有効活用するために畑として手を入れていて自然に発達したというのは、ジャレド・ダイヤモンド氏の「銃・病原菌・鉄」などで書かれていた農業が自発的に発生することの困難性を乗り越えたという話になり、すごい話だなと思いました。